7話 調査
エイキの家の前についた。
明かりはついてない。なら寝ているだろう。
ドアを開けた時に多少の音がする。
それを防ごうと試行錯誤して早10分。
現実世界でやったら通報待ったなしだ。
幸いどの家も明かりがついていないため俺の姿は見られない。外に出たことがばれないだろう。
(よく考えたら、小さな音くらいで目が覚めるか?いや、勝手な偏見だけどエイキは眠りが深そうだ。ちょっとした物音では起きないだろう!)
もしそうだったら、この10分何をしていたんだ。
俺は恐る恐るドアを開けた。
ミシミシと音が響く。思ったよりも大きくて内心焦ってる。
部屋の奥のベッドで人影が見える。
ゆっくりとドアを閉めてベッドに近づく。エイキはぐっすり眠っていた。
暗い部屋なのに、なぜか俺は気が付いた。
エイキの目元に何かの痕がある。
確認するまでもなくそれが涙の痕だと分かった。
「……」
心がまたもやもやする。
そっとエイキの手に触れる。少し暖かい。
俺は、こいつを裏切ることはできない。
ベッドに入り、俺は目を閉じた。
今度こそ眠れそうだ。
「うーん…。今は何時だ?」
カーテンの隙間からの光で俺は目が覚めた。体が筋肉痛で痛い。
慣れないベッドと環境で眠りが浅かった。疲れていたから今度こそぐっすり眠れると思っていたのに。
隣を見ると幸せそうな顔でエイキが眠っていた。涙の痕はない。なぜか安心した。
ベッドから出るのと同時に、腕時計が振動した。何もしていないのに充電されているようだ。
びっくりして腕時計を見ると、『あと99日5時間30分』とででいる。今の針はおよそ午前6時30分。つまり99日後の12時がタイムリミットだ。
とりあえず洗面所に向かって顔を洗った。鏡を見るとやはり知らない顔だ。
少し寝癖ができている。この顔に寝癖っていうのはギャップがあるんじゃないか?とか考えたが、別に需要がないと気づいて整えた。
てかゲームにも寝ぐせあるんだ。寝ぐせ直しとかも売ってんのかな。
「ふわぁ…。あ、おはよ。いい天気だねー。」
ベッドから体を起こして伸びをしているエイキがいた。
エイキは伸びを終えると手を胸の前に出して魔法陣を出した。
その魔法陣には二つの大きな針が出てきてローマ数字がいくつも出てきた。
どうやら時計のようだ。
。
魔法使いは時計を魔法で出すのか。だからこの家には時計がなかったんだ。別に俺は腕時計があるから問題ないが。
「何時に出発だ?」
「多分だけど7時くらいにくるかなー。だからまだ慌てなくていいね。」
エイキはもう朝ごはんを食べている。いや、朝ごはんといっても昨日のゼリーに似てるやつだ。
デザインに少し変化がある。結構作りこまれてるな。
「あ、カイトもこれ食べてね。さっき作ったから。」
この短時間で作れるほど簡単なのか?加工とかして時間かかりそうな見た目をしているが。
まあおいしいけど少し甘くてくどい。エイキはすでに3つも食べているが俺は1個で限界だ。申し訳程度にあるブルーベリーをちまちま食べた。
俺がブルーベリー1個を食べる間にエイキは3つも食べている。胃袋はどうなっているんだ?
ブルーベリーを食い切り、ゼリーに手を出し始めた瞬間、
「エイキ、それと冒険者の少年!起きているだろうか?」
ドアをたたきながら外で男の声が聞こえた。
「あ、キョウさんの声だ!はーい!!起きてますよ!」
エイキは急いでゼリーを流し込んで着替えた。
どうやらもう時間らしい。
「カイト!そろそろ出発らしいよ!!」
その言葉を聞き、俺も急いで着替えた。
俺はベッドの近くに置いていた剣をとった。なんか昨日よりもきれいになっている気がする。
剣を腰の右側にしまって俺たちは家を出た。
「さて、俺たちが向かうのは近くの野原にある遺跡だ。そこがどうやらレビアの巣らしいな。出発するぞ!…それと!今から俺のことは『隊長』と呼んでほしい!任務と日常のメリハリをつけるのが大切だからな。」
レビアの巣を調査するメンバーは俺を含めて5人。少ないのか多いのかどうなんだろうか。
俺は隊長の後ろに並んで村を出た。
「冒険者の少年。今回の調査への協力を感謝する。俺は隊長の『キョウ』というものだ。よろしく頼む!」
村を出てすぐ、隊長は俺に自己紹介をしてきた。
「あ、こちらこそ。俺の名前はカイトって言います。」
「そうか。今回の調査では君の力に期待をしている。俺たちは弱い攻撃しかできない。主な役割はバフや回復だからな。」
隊長は右手に大きな槍を持っているが基本使わないようだ。
俺の剣よりも一回りも二回りも大きい。これの攻撃ならある程度のダメージは期待できそうだが。
「君はどうしてクレアを訪れたんだ?正直ここは何もないところだ。冒険者が来るなんて何年ぶりだろうか。」
「あー。えっと。たまたまここが通り道だっただけです。まさかこんなことになるとは思ってなかったですけどね。」
「…我々の力不足だ。隊長として君に謝罪をしよう。」
「いえ、別に問題ないです。もともと俺が同行したいって言った訳だし…。それに、俺ももっと強くなりたいですし、誰かの役に立てるなら、それで本望です。」
「そうか。君みたいな冒険者は将来が楽しみだ!今回の任務、期待しているぞ!」
なんか、この隊長は根性論が好きそうだ。
野原を歩いて5分。遺跡みたいなところに着いた。遺跡というか石でできた建物だ。決して大きくはない。1階建ての小さな遺跡に見えるが、地下に隠し部屋とかあるのかもしれない。
遺跡にドアなんてなく、どの方位からでも入れる。
中は暗くて涼しい。
地面には水たまりができていてたまに上から水が垂れている。最近雨でも降ったのだろう。
隊長は首に着けていたネックレスを外して手で包んだ。するとネックレスが光りだして光源になった。
それを使ってあたりを探索した。しかし、巣のようなものは見当たらなかった。
ただ、奥のほうに不可解な板が地面に敷かれていた。よく見てみると長方形を作るようにきれいに並べてあった。その箇所以外には板なんてものはなかった。
「隊長…。これって。」
「ああ、多分――。手伝ってくれ。」
そう言って板をどかした。持ってみると見た目のわりに軽い。
板の下には真っ暗な空間がある。
それに少し濡れていそうな階段がつながっている。
「やはり地下につながる階段がある。それにこの奥からレビアの声が聞こえる…暗いから気をつけろ…!」
俺たちは静かに頷いた。
恐る恐る階段を降りて、薄暗い通路を進んだが途中で変なことに気が付いた。
「待ってください。」
「どうしたカイト?何かあったか?」
「いや、この先行き止まりなんですよ。ほら。」
「何!?」
俺は隊長の持っていた明かりを貸してもらい奥を照らした。
光は壁に当たって大きな円を作っている。
「行き止まり…だと?ならさっきの声は。」
「幻聴…とは考えにくいです。俺も聞こえました。」
「なら一体…。分かれ道になってるわけじゃなさそうだ。となると、隠し扉、か。」
しばらく通路を観察した。が、見たところ隠し扉のようなのはないし、スイッチもない。
一つ気になったことといえば行き止まりの壁に変な絵が描いてあることだ。
巨大な翼をもったコウモリのような奴が飛んでいる絵だ。下手ではないが古代の絵っていう感じがして少し気味が悪い。
「カイト、何か気づいたか?」
「いえ、ただこの絵には何か秘密があるんじゃないかって思っただけです。」
「これは…、『レット』の絵か?」
「レット?このコウモリのことですか?」
「これは隣町『フールイ』の神様だ。午前は人、午後は虎、そして夜中の0時から3時までコウモリになる、と言われている神様のことだ。時に人を守り、時に傷つける、気まぐれなんだ。」
「へぇ…。」
しかし、この絵には特に仕掛けはなさそうだ。多分昔の人が描いたのだろう。
その時上で足音がした。
「誰だ!!!」
隊長は振り返って大声を出したが反応はない。さらにさっきまでなっていた足音はすぅ、と消えた。
「僕たちがちょっと見てくるよ。隊長とカイトは待っててね。」
エイキは階段を上がった。先にほかの二人も上がっていたようだ。
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(あっれー?おかしいね。さっきまで足音がしたのに…。)
考え事をしながら僕は足音の主を探した。
やっぱりこれも幻聴なのかなー?でも隊長も僕たちも聞こえたはず。なら音の正体は…?
魔法であたりを照らしても何もいない。人どころか生き物一匹もいなさそう。
そもそもこんな暗いところ好き好んで入る人なんていなさそうだしね。
「エイキ殿。こちらにも誰もいませんでした。やはり幻聴としか…。」
ほかの2人も探したようだね。それでも見つかんないってことは…。
…ん?
ていうか待って、さっきの足跡って隊長が言った途端に消えたよね。足跡は、歩くというよりかは地団駄を踏むような感じだった。
それにその時って通路に僕、隊長、カイトしかいなかったはず。
この二人は、どこにいた?
と、なると――。
「君たち誰?偽物でしょ。」
二人の動きは止まった。
この二人と絡んだことはほとんどないけど、違う人ってことはわかる。
「な、何のことでしょうか?私たちは――。」
「僕は見つかってないなんて一言も言ってないよ。なのにどうして『こちらにも』なんて言ったのかな?」
「それは…。」
「それに、クレアでの決まり事、守れてないよ。槍先は後ろに向けないとだめでしょ。」
「……。」
「ねぇ!君たちは誰なの!?」
その瞬間一人の男は持っていた槍を僕に向けた。目は獲物を狙うように鋭い。
いつの間にか姿は変わって黒い服に白の模様がついたを服を着ている。
やはり偽物らしい。
その人たちは徐々にこっちに近づいてきてる。
「ばれちまったならしょうがねぇ。俺たちは『帝王会』だ。」
「て、帝王会?」
「なんだぁ?最近のガキはそんなことも知らねぇのか。なら教えてやる。大国『フロル』の大規模勢力だ。力や宝などを求める屑みたいな連中だけどな。」
「そんな人が何の用?ここに宝なんてあるの?」
「どうやらあるらしいが、行き止まりらしいな。ま、そんなのはどうでもいい。俺たちの狙いは…。」
そう言って僕の体に槍を突き付けた。
反射的に後ろに下がったため体に傷はなさそう。
ただ、もう片方の男が剣をもって急接近してきた。
僕はアクアベールを撃ったが、男は剣に魔法を流して、軽々とアクアベールを切り僕の体を切り付けた。
少しだけ血が出る。深くは入っていない。意図的に浅く切ったようだ。
「くっ……。」
「お前には興味はない。早くあっちを出せ。」
「あっち…か。最初から君の狙いは僕だったのね…。いや、正確には僕ではないね。」
「ごちゃごちゃうるせぇな。ほら、はやく――。」
その時、その二人の口が止まった。何かに驚いてるみたい。
それと同時に、僕は目の前が真っ暗になった。
どうして急に声が止まったのだろう?どうして誰の声も聞こえなくなったんだろう?
こっから何があったのかよく覚えていない。
気が付いたら戦いが終わっていた。
目の前には血だけが残っていた。
遺跡の表現が1話の夢にあった遺跡と似ていますが全く関係ありません。