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5話  夜

  きっとこいつらのことだろう。

  数はおよそ5体。どんな行動してくるか分からないのに複数いるのは非常に面倒だし危険だ。

  


 「それにしても見えないな。奴らの目で位置を確認するしかないのか…。」


  目を凝らせば体も見えそうだが、基本的には見えない。背景の黒と重なってしまう。

  月の光も木によって遮られている。つまり視認することができない。

 

  ただ、奴らの目は赤く光っていて目立っている。これにより完全に視認できないわけではなくなる。

  でも体が見えなくて2つの赤い光がいくつもあるなんて不気味な状況だ。昔の俺なら泡吹いて倒れてただろう。


  それよりも重大なことに気が付いた。奴らの頭上にはレベルが表示されている。

 『レベル4』。俺はレベル1であるため圧倒的に不利だ。




  …何故か、奴らは動かない。こっちには気づいているはずだ。

  なのにどうしてだろうか。

  俺を人だと思っていない。つまりただの野生動物だと思っている可能性もある。下手に動かないほうが命に優しそうだ。

  今すぐこの場を離れるしかない。音が出ないように慎重に帰るか…。

  こっそり足を動かして、その場を離れようとした瞬間、

 

 「キシャャァァ!!!!」



  突然、鋭い声とともにアクディアが飛んできた。やはり気づかれていた!

  鋭い牙が見えた。口を大きく開け今にも俺を噛みつきそうだ。


  反射的に剣を向けた。アクディアは勢いよく飛んできたため、俺の剣はアクディアの口に入った。腕がどんどん口に入る。アクディアの動きは止まらなかった。


 「カハァァァ!!」


  のどの奥に剣が刺さった。腕が噛みつかれると思ったが、アクディアは痛さのあまり口を開けて動こうとしない。こいつの知性が低いということが分かった。 

  血の匂いがする。剣によって出血してるのだろう。

 

  剣を抜こうとしたが奥に刺さって抜けない。思ったより深く刺さってしまった。

  獲物が動けなければチャンスだろう。何体かこっちに近づいてきたのが分かる。



  俺は剣がなくなった瞬間に死ぬことが確定しそうだ。光がない以上逃げることも不可能。

  そもそも木があって走ることも困難。奴らは俺の位置を知っているはずだ。

  

 「チッ!抜けないだと!どうなっているんだ!?」

  

  心臓の動きが速くなる。 

  

  まずい、剣が全く動かない。

  焦って力が入りにくい。


  ドスッ、ドスッと複数体近づいてきてるのが分かる。

  不気味に涎を垂らしながら俺という獲物を見ている。

  

  奴らはもう目と鼻の先まで来た。

  今更逃げても遅そうだ。未防備で逃げてもどうせ食われて終了だ。

  これは、積みというやつだろう。


 「グルルァァァ!!!」


  怒号とともに肉を嚙み千切る音が響いた。

  結局は因果応報。人の忠告は聞いた方がいい。この時身をもって知った。






 「あれ!カイトがいない!!!」


  僕は家中に響き渡るほど大きな声を出した。もしかしたら家の外にも聞こえちゃったかもしれない。

  一緒に寝たはず。つまり隣にいないとおかしいんだ。

  外はまだ夜。太陽の姿なんて見えない時間だ。


  まさか、カイトと出会ったのって全部夢だったの?でもカイトの食べたゼリーのお皿はある。間違いなく現実のはず。

  嫌な予感がした。カイトは外に出てしまったかもしれない。でも、どうして外に出たんだろ?危ないって忠告したのに。


「ど、どうしよ…。もしカイトがアクディアに襲われちゃったら…。」

  

  鍵は開いている。つまりカイトは外にいるってこと。

今回みたいな場合、基本的に冒険者の自己責任。 

  仮に死んだとしても悪いのは冒険者本人である。

  それは分かっている。それなのに…。


  僕は杖をもって家を飛び出た。

  急いで出たら誰かにばれるかもしれない。それに外に出るのは危ない。

  でもそんなことは考えなかった。

  地面には足跡がある。明かりを照らして僕は足跡をたどった。


 




 「どこに向かったんだろう…。森のほうかな?」


  足跡は森に向かっていた。ただ、土ではなく草なのでほぼ足跡なんて見えない。

  目を凝らして明かりを近づけることでようやく確認できる。


  草原の遠くには変な魔物がいたよ。多分アクディアかも。

  トカゲのような見た目で歩いていて思わず身震いがしたね。

  奴らは僕の明かりに気づかないくらい目が悪いから安心だ。ばれることはなさそう。

 

 「あれ?足跡がここで消えてる…?」


  森に入ったのかと思ったけど、途中で終わっていた。

  ここには複数の木が生えていて花がたくさん植えてあるところ。よくここに花を採りに来るから見覚えがある。

 

  でも僕の知っている場所とは見違えていた。

  木は傷がいっぱいついていて、花は踏まれて折れている。草も蹴り荒らしたみたいになっている。

  まるでここで戦いが起きたいみたいだ。

  不意に僕の動きは遅くなった。何かに怯えているみたいにね。

 

  その時、コツンと足に何かが当たったんだ。

  もう目を開けられないくらい恐怖心が迫ってきた。体は震えて嫌な汗も出てきた。

  力を振り絞って『それ』を拾った。思ったより軽いけど硬いね。

  大きさは自分の腕くらいかも。それなのに軽いのにはちょっとびっくりした。


  目がぼやけてよく見えない。この時、何を思ったのか明かりでそれを照らしたんだ。

  見てはいけないとわかっていてもね。


 「これって――うわあぁぁぁぁああ!!!」

 

  もう無我夢中で走った。目からは涙が出てきた。

  走り出したときに明かりを投げ捨ててしまった。でもアクディアよりそれのほうが怖かった。

 

  焦りすぎて勢いよく転んでしまった。草だったのが救いだよ。けがはしなかった。

  もう恐怖で体が動かない。これは夢であってほしかった。

 

 「ハァ、ハァ……。さっきの…って…腕の骨?」


  それに細かった。もしかしたら人間のかもしれない。

  もし人間だったら…誰の骨かは容易に想像がつくよ。

  もちろんそんなことは認めたくなかったし、あり得ないと思った。

 

 

  後ろでガサガサ、と歩く音がした。

  一瞬人間かなって思ったけど、人生はそんなに甘くないね。

 



  アクディアだ。

  アクディアが僕を見て、口を開けていた。

  僕には明かりがない。アクディアにとっては最高の獲物だ。

  杖を握ろうにも恐怖で体が動かない。杖は手から滑り落ちてしまった、

  まるで鎖に縛り付けられたみたいだ。


  どうして僕が動かないのかアクディアは分かっていなさそう。少しだけ僕に警戒している。

  この隙を付いて攻撃?

  僕はアクディアに傷もつけられないだろうね。アクディアはそれに気づいたようだね。

 

 「グルァァァ!!」


  と、噛みつこうと飛びついてきた。

  もう僕に勝ち目はない。なら頼るしかない。


  


  そう思った次の瞬間、


 「ガアァァ……。」

 

  と、アクディアは口から血を出してその場に倒れこんだ。

  一瞬の出来事だった。

  アクディアの背後には誰かがいる。


  両手に剣を持った黒髪の少年。その少年はアクディアの背中を切り付けたみたい。

  

  一瞬僕を見たけど、すぐに自分の剣を見た。

  剣の先には血がついている。アクディアのだろうね。

  剣に付いた血を布で拭いた。


  しかし、アクディアは体を勢いよく起こした。


  「危ない!!!」


  咄嗟に声が出た。

  その少年は振り返って剣を構えた。

  アクディアはさっきと同じに口を開けた。鋭い牙を使って噛みつくつもりだ。


  でも少年は動じないで、左の剣で首を刺し、右手の剣で体を切り付けた。

  目に見えないほど速い動きだ。

  周りには大量の血が飛び散って草木に染み込んだ。

  

 

 「お前。こんな夜更けに外に出るとはどういう目的だ?」


  剣を刺したまま少年は僕に尋ねてきた。僕より少し年上っぽい少年。

  背は僕と同じくらいなのに威圧感がある。


  僕は恐怖心によって口が動かせなかった。

  その少年は呆れた顔をしてあたりを見渡した。


 「この辺にはアクディアが出ることはお前も知っているはずだ。それなのに外に出る、ましてやアクディアに対抗できる力もないのに、だ。命を捨てたいのか?」

 「ちがう!僕は…僕…は!」


  口をパクパクしながら必死に声を出した。

  何かがのどに詰まっているのだろうか、僕は話せなかった。

  

 「僕は、なんだ?そんな命のリスクを犯してまですることなのか?」

 「え……。」


  どうなんだろう。

  この人がいなければ僕は死んでいた。僕にとって命を懸けるほどの目的だったのだろうか。

  一瞬そんな気が揺るいだ。

   

 「友達が……友達が、外に出て!危ないから…!」

 「友達?なんでそいつは外に出たんだ?お前と同じで命を落としたいのか?」

 「なんでだろ…。僕にも分からないけど、多分強くなりたいんだと思う…。」

 「…そうか。とりあえずお前はもう帰れ。お前にとってここはまだ早い。」

  

  慰めてるのか、それとも呆れなのか。僕にはよくわからなかった。

  そう言えばどうして僕は外に出てきたんだろ。仮に僕が行ったところでカイトに対して何をすればいいんだろ。別に連れ去られたわけではなさそうだし、助けに行く理由などもない。

  あの時は体が反射的に動いたけど、僕の目的って…。


 「分かりました…。もし、僕と同じくらいの年齢でグレーの髪で剣を持ってる人を見たら家に帰るように伝えてください…。」

 「……。」


  黙ってその人は頷いた。この人は多分敵ではなさそう。だから信じてもいいはず。

  僕はその人に会釈をして振り返ってクレアに向かおうとした。

  

 「……え?」


  その時、体が拘束されたように動かなくなった。

  これは恐怖心とかそういうのではない。物理的に動かない感じだ。


  見てみると胸のあたりが水色の鎖のようなので縛られてた。

  縛っているのはさっきの少年だ。

  その少年は僕に近づいて耳元でささやいてきた。


 「俺がくる瞬間に、お前は何かを出そうとしてたよな?」

 「…え?」


  この人がくる瞬間。

  確か噛みつこうと飛んできてて、そっから…。


 「いや、何もしてない、です…。」

 「嘘だな。左のポケット。お前が今突っ込んでいるところに莫大な魔力が存在する。そのポケットの中身を見せてみろ。」

 「え、ちょ!ちょっと!!」

  

  僕は体を動かせない。

  少年は強引に僕の左手を掴んできた。僕の左手には今…。


 「…?これは、札?」


  少年は僕の握っていたお札を掴んだ。

  これはアクアエーデンを発動するときに使う道具だ。


 「これは僕の『装魔品』です!!ちゃんと見てくださいよ!」

 「装魔品?聞いたことない名だな。」


  少年は不思議そうな目で僕の装魔品を覗き込んだ。

  興味津々なのかな?なんか、変わった人だね。


  僕は思わず装魔品を手渡した。


 「え、知らないんですか?禁戦魔法(メトロバースト)を使用するのに用いられる道具ですよ?」

 「???」


  ふつうの人ならだれでも知っていそうだけど…。

  でも説明してもあんまピンと来てなさそう。

  この光景になんか既視感を感じる。


 「装魔品…。なるほどずいぶんと珍妙な名前だな。」


  少年は手のひらに僕の装魔品を乗せて360°観察している。

  やっぱり装魔品自体を知らなそうだ。


 「あー、その。それ、僕のだから早く返してほしいです…。」

 「この淡い光…。こいつが魔力源になってるとは思えない。」

  

  僕に問いかけている感じではなさそう。つまり独り言を話している。

  一体僕は何をすればいいの?この人が返さないと僕帰れないんだけど…。

  てかまだ拘束解かれてないし!

 

 「もういいですよね!僕は帰りたいんです!早く返してください!」

 

  大きな声を出したらその少年はビクッとして振り返った。

  振り返る瞬間に装魔品を落とさないか心配だったけど大丈夫だった。

  少年はもう一度僕の装魔品を眺めて僕に返した。

   

 「そうか、俺の勘違いだったようだ。これは返す。」

 「ちょっとー!この拘束解除してくださいよ!」


  少しきつかった拘束が解かれた。思わず息が出る。

  その少年はすまない、と言ってその場を飛び立った。

  

  結局何者だったんだろ?

  魔力探査ができるってことは相当な実力者かな。

  だって特別な魔力を見つけられたんだし。

  

 「なんか、カイトみたい…。」


  おっと、こんなこと考えてる暇はないね。急いで帰らないと!

  カイトはきっと戻ってくると思う。だからそれまで待たないと。

最初、新しく出た少年を青年と書いていたため、少年のところが青年になっている可能性があります。

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