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4話  宝

  俺たちはベッドで横になって天井を見た。

  ベッドで横になるのはさっきを除いて久しぶりだ。今まで安っぽい布団で寝心地が悪かったな。このふかふかベッドで寝ればきっといい夢が見れる。


 「カイトは『メリアレット』って知ってる?」

 「知らないな。」

 「メリアレットっていうのは遠くに存在する王国なんだ。その国王が魔物を牛耳っているらしいんだ。」

 「なるほど、それが魔物の親玉ってことか。」

  

  俺がメリアレットの王を倒せばクリア、か。

 

 「その王はもともと人間だったんだけど、様々な不幸が重なって人間嫌いになったらしい。当時は魔物も人間も共存していたけど、王による洗脳で魔物は人間を敵対視するようになっちゃったんだ。そこから人間と魔物の戦いが始まったんだよ。」

 「その王ってのは本当に今も生きてるのか?聞く限りそれはかなり昔だと思うんだが。」

 「生きているらしいよ。どうやらとある魔物と契約して不老不死の体を手に入れたとか。」

 「…実はエイキ。俺の目的はそいつを倒すことだ。」


  唐突な発言にエイキは目を丸くした。

  少しの間沈黙が流れた。


 「カ、カイト?何言ってるの…?倒すって…。」

 「その言葉の通りだ。俺は何が何でもそいつを倒さないといけない。」

 「ほ、本気で言ってるの?確かに王は全人類の敵だし、誰だって倒そうと思っているはず。でも、そんなことできるなんて誰一人思ってないよ?」

 「信じたくなければ信じなくていい。でも俺は本気だ。」

 「…そうか。でも、カイトならできるかもね。僕は応援してるよ。」


  きっとレベルを限界まで上げないと王を倒せないかもしれない。クリア時間は40日と言っていたが、あれは理論上の早さだろう。一睡もしないでひたすら敵を倒し続けた場合の話だ。

  正直どのくらいかかるか分からない。思ったより今日は早かった。ただ、レビアの群れを倒しただけだ。こんなのでいいのか…。


 「…僕の親、それに兄弟も魔物に殺された。僕にとって魔物は憎い。それでも、僕は弱いから守ってばかりで攻めないんだ。本当は僕だって……。」

 「それは、家族の命がなくなって、自分はその分生きるためか?」

 「それもあるけど…。死ぬのが怖いのもあるかな。明日の巣に行くのも、ほんとは今日の襲撃だって本当は怖かった。みんなには弱いところを見せたくないから、弱音を吐いたりはしないんだけどね。」


  見かけによらずなかなか闇の深いものを抱えているのか。

  今もエイキは小さな笑顔をしている。これは自然となのか、作っているのか。


 「…エイキって何歳だ?」

 「え?僕は16歳、いや、17かな?村民は僕の誕生日を知らないし、祝われることなんてないから忘れちゃったよ。」

 「そうか。その年でもう自立してるのか。」


  俺は16くらいの時なんて学校行って家帰ってゲームという日々を繰り返していた。誰かが支えてくれないと生きていけるわけなかった。

  エイキは俺と比べ物になんないくらいつらい思いをしているのに前向きに生きている。そう考えると自分の情けなさが心の中に出てきた。

  

 「もうそろそろ寝よっか。明日は早いと思うし。…ごめんね。寝る前なのに、変な空気にさせちゃって。」

 「いや、別にいい。…最後に一ついいか。」

 「ん?」

 「生きる意味を見失わないほうがいいぞ。それじゃおやすみ。」

 「…え?」


  俺はエイキに背を向けて目を閉じた。

  心の中がモヤモヤする。正体は分かっているのに知りたくなかった。

  

  




  どれくらい時間がたっただろうか。

  20,30分は目をつぶった。外はうるさくないし、部屋の中も暗い。  

  なのに眠ることができない。疲れているはずなんだが。


  理由は一つ。今の時刻は午後8時だ。

  いくら疲れていてもそんな時間には寝ない。さすがに午後8時は小学生の寝る時間だろう。

  俺はどんなに早くても午後11時くらいだ。眠れないのも無理はない。

  隣のエイキは眠っている。どうしてそんなに早く寝れるんだ?


 「それにしてもこの家は娯楽がないな。一体何をしているんだ…?」


  そのそもこの世界にゲームや漫画はなさそうだ。 

  どうやって暇つぶしをしているんだ?やはり特訓や魔物との戦いに楽しさを感じてるのか?


  本当はこんな暇な時間があるなら敵を倒してレベルを上げたい。

  しかし、今の外はアクディアとかいう魔物がうじゃうじゃいるらしい。


  そのアクディアというやつがどれくらい強いのか分からない。

  今の俺のレベルは1。さすがに序盤だし2か3くらいだろう。

  敵が複数でなければ勝てるかもしれない。


 「といっても、危ないよな。ならこの時間はどうすれば…。」


  

  そこで、一つひらめいた。

  まだ見ていないが、この世界には宝箱があるかもしれない。

  それを開ければお金や回復薬などが手に入る可能性もある。

  

  つまりこの空き時間を有効に活用できる。

  でも宝箱を探してるときにアクディアに見つかったらどうするんだ?って思うだろ。

  

  そこでこいつだ腕時計。この腕時計、右についてるボタンを押すと照明みたいに明るく光る。

  つまりアクディアも近づいて来ないはずだ。話が本当なら奴らは光に弱い。

  さらに夜道も明るくなって探索もしやすい。

  


 「仮に攻撃を受けたとしても、回復薬は3つある。やられることはないだろ。」


  ゲームバランス調整なのか分からないが、最初からバッグに回復薬が入っていた。

  この村には店がないし、回復する手段がないからだろう。


  効果はHPを50回復する。今の俺は体力満タンで130。つまり、生半可な攻撃では使わなくても大丈夫だろう。


 「そうと決まればさっそく行くか。すぐに戻れば大丈夫だろ。」


  

  そっとベッドから出て剣を拾った。エイキは眠っている。起こしたら大変だ。

  そう言えばこの剣もレベルを上げたりできるのだろうか。


 『霧桜』…レアリティ1 Lv.1

      攻撃+15

      10%の確率で攻撃力2倍。


  これが俺の剣だ。正直に言って弱い。

  レアリティというのはレベルを上げても変わらないのだろうか。1というのは多分レアリティが最低だろう。武器屋とかがあるのならそこで強いのを買うほうがよさそうだ。

  ただ、俺はこの剣を握ると不思議と落ち着く。ほかの剣を持つ自分を想像できない。

  

 「てか、レベルは上がってないが経験値はゲットしているな。どこで手に入れたんだ?」


  魔物を倒せばレベルが上がるのか?

  多分この考えで正解っぽいな。

  

  

  家を出たが、村はとても静かだ。

  人がいるのか疑問になるくらいだ。

  いくつかの家は明かりが消えている。こんな早くに寝たのか?

  

  外に出るのをばれたら引き止められそうだ。

  そんなことは当たり前だ。わざわざ死にに行くようなものだから。


  ただ、この世界にいることだって自ら死にに行ってるようなものだから、今更そんなリスクは通用しない。

  

  そんな感じで自分に言い訳をして村を離れた。

  


  昼に魔法を見せてもらった草原に出た。

  ここは草原といっても高低差があったり木や岩がいっぱいある。

  どこかに魔物が隠れている可能性がある。十分に注意して進もう。


 「思ったより時計は明るいな。これなら問題ないだろう。」

 

  半径20m以上も照らせる明かりだ。アクディアなんて近づいて来なさそうだ。

  まず、木の後ろを探索した。こういうところに宝が隠されているかもしれない。


  

  …10個くらいの木を見たが、宝なんてなかった。


(なんだよ!宝箱ってこの世界にないのか!?RPGに宝箱ないとか致命的だろ!もしそんなゲーム売ってたら返金騒動起こすぞ!…少し誇張しすぎたな。)


  しかし、ないんだったらこの時間は無駄だ。

  ただ俺は時間を有効的に使う男だ。せっかくここに居るんだし、試したいことがある。

 

 「明日レビアの巣に行くんだったな。今のうちに斬撃を使ってみるか。」

  

  風間さんがそんなこと言ってたはずだ。

  もし簡単にできれば、これからの戦闘で大いに役に立つ可能性がある。

  

 「魔力を送る…。力を込めるんだったな。…こんな感じか?」


  とりあえず言われた通りに左腕に力を込めた。これ以外に表現する言葉がないんだ。許してくれ。

  力を込めてみたが、別に光ったりなどの外見的変化はない。これであっているのか?

  

 「うおぉぉぉ!!」


  とりあえず、思いっきり剣を振りかざした。

  すると、強風とともに剣と同じ大きさくらいの斬撃が飛んだ。

  

  その斬撃は20m先にある大きな木まで等速で飛び、勢いよくぶつかった。

  大きな爆発が起きて、当たった木は粉々になってしまった。

  いまいち何が起きたのか理解できない。


 「今のであっていたのか…?つまり、あれが魔力を送る感覚か…。」


  やはり不思議な感じだ。いまだに現実世界の感覚に引っ張られている。

  

 

「ん?なんだあれ…。」

  

  そんな時、少し遠くに小さく輝く物体があった。さっきの木の根元近くだ。

  近づいてみると、それは木箱だった。

  これが宝箱だろうか。しかし、宝箱っぽい見た目ではない。

  木でできたびっくり箱みたいな感じだ。


  もしかしたら本当にびっくり箱かもしれない。これが宝箱だという保証は存在しない。

  開けるのを少し躊躇してしまう。中から魔物が出てきて襲われる、なんて考えも出てきた。


 「…さすがに大丈夫だろう。よく考えればこれが初めての宝箱だ。最初からはずれだったらこのゲームが嫌になるだろう。はずれとかは終盤辺りで出るはずだ。」


  と、メタ発言をして落ち着かせた。

  緊張しながら蓋に手をかける。きつく閉まってるかと思ったが、そうでもなかった。

  

  中には、金と、回復薬と、カプセルに入った砂みたいなのがあった。

  ほか二つは分かるが、この砂は一体なんだ?

  きっと役に立つアイテムだと思う。

  とりあえず、これらを腕時計に吸い込んで閉まった。


 (ん?この金や回復薬って俺のになるのか?誰かの隠したお宝かもしれないな。)


  もしこれが誰かのならお縄にかかるに決まってる。

  ここに置く方が悪い、なんて理論も通用しなそうだ。

  ばれなきゃ犯罪ではないという便利な言葉もあるが、罪悪感のほうが勝ってしまう。

  でも、このまま各地に散らばっているお宝を取らなければ冒険に影響があるかもしれない…。


 「まさかこのゲームでは道徳を学べるのか?」


  俺は迷った。どちらを優先すべきか。

  結論として、俺はお宝を取った。

  いや、言い方が悪い。ありがたく貰った。きっとここにあるのは俺のような冒険者への支援だろう。しっかりこれは有効活用する。


  

  そそくさとその場を離れた。

  このまま帰るか、とは微塵も思わなかった。  

  ひたすら近くの木と岩の後ろを観察した。


  探してみると、近くでいくつも見つかった。

  岩の後ろ、上、木の上。意外と隠れたところに見られた。

  簡単に探したら見つけられにくいところが多い。この世界の宝箱は恥ずかしがり屋なのだろうか。


 「それにしても、やっぱこの砂は分からないな。経験値っぽくもないし。」


  いやもしかしたら持ち物から見れるか?

  急いで腕時計の持ち物ボタンを押した。

  

  持ち物欄をスクロールしたが、名前しか載っていないからさっき手に入れた砂がどれなのか分からない。

  一つずつ押すのは絶妙に面倒くさい。一回アイテムの名前を押す。その後右側にある『アイテム詳細』をダブルタップすることでやっとアイテムの画像が出る。

  もし違かったら左上の『↵』マークを長押しして最初の画面に戻る。


  これを何回も繰り返さなければいけない。『☆1回復薬』とかいう明らかに違うだろうという名前のアイテムもあるが、なぜか飛ばすことはできなかった。順番に確認しないと安心しない性格だ。


 

 

 「…やっと見つかった。『月の砂』っていうのか…。」


  悲しいことに持ち物欄の一番下だった。

  つまり無駄な作業を何回もしてしまった。絶対に飛ばしたほうがよかった。


  『月の砂』…月の光を吸収した砂によって形成される。魔法の源とされており複数集めて納品することにより魔法の力が増幅すると言われている。


  説明文はこんな感じか。

  つまり魔法の強化に使うってことか?そしたらレベルアップで魔法は強くならない、ということになる。

  それに納品って言ってもどこのことなのかさっぱり分からない。攻略本が欲しくなってきた。


 「いや、よく読むとこれ『言われている』だな。つまり、事実とは証明されていない…のか?」


  どう考えても無理のある考えだ。

  しかしこうでも言ってないと落ち着かない。

  

  風間さんは分からないことがあったら来ていいと言ってたが、この伝承の間は入ってから24時間以内はもう一度行くことができない。謎のクールタイムが発生している。

  

  なんかすべてが的外れになっている。

  もう帰って寝よう。時間は9時ちょっと前。割と時間かかった。

  村は明るくて遠くにいても見える。思ったより距離が離れていた。

  宝箱探しに夢中になってしまったようだ。


 「ま、金は意外と手に入ったし収穫ゼロじゃないだけいいか。」


  そういえばアクディアの存在を忘れていた。

  探している間も見つけることはなかった。ただ、遠くにレビアの群れなどは見れたから魔物がいないわけではない。

  レビアも夜は好戦的ではないのか、座って食事をしていたり、眠ったりなどまるで人間みたいだ。

  さすがにそんな中に行って倒すのは少々気が引ける。それに俺一人では倒せない可能性だってあるからスルーして正解だ。


  アクディアの姿を見てみたかったが、これ以上外にいるわけにもいかない。

  エイキに外にいることをばれたらなんて言われるか分からない。心配かけないためにも急いで帰らなければ。

  


  その時、腕時計が振動した。

  ただ、あの時の振動とは違う。あの時は画面を押すまで常に振動していたが、今回はスマホの通知みたいに一回だけ振動した。

  何かの通知だろうか。そう思い画面を見た。

  

  そこには俺を絶望に陥れるような言葉が映し出されていた。

  

 『充電切れ。電源を切ります。』


  黒い背景に白い文字。定番の配色だ。

  まさか、それにこんな絶望させられる日が来るなんて思わなかった。

  

  充電切れ。すなわち電源切れ。

  当たり前だがそうなると明かりも消える。

  明かりが消えるということは。




  俺の周りは一気に闇に包まれた。

 

  その直後、待っていたかのように足跡が聞こえてきた。

  一体ではない。複数だろう。

  

  赤い目が暗闇の中からでも見えた。

  丸く光った目はこちらを見ているのだろうか。

  俺が後ろに下がると足音は速くなった。

  

  多分レビアではない。奴らにしては体が大きい。少なくとも2.5mはありそうだ。

  

  なら何者だ?この辺の魔物に詳しくないから全く分からない。

  嫌な予感がする。足が震える。

  

  なぜならそいつらは2足歩行で尻尾が生えている。

  どことなくトカゲ感もある。

  偶然にしてはできすぎてる。もはや出会うことは必然なんじゃないか。


 「…お前ら、アクディアか?」

前々回が戦闘だったのに、また戦闘です。

苦手ですけど山場を作らないといけないので戦闘が多めになってしまうんです。

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