3話 この世界
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「お目覚めですか。細谷カイトさん。」
「ん??」
今俺は謎の場所で仰向けになっている。いつの間にか意識を失ったようだ。
頭の上らへんで聞いたことのある声が聞こえる。確かこの声って…。
「この声って…風間さん、ですか?」
「はい。ようこそ、この世界へ。」
俺はびくっ、と体を起こした。周りをよく見ると変な世界だ。
今いる場所に生き物や建物などそんなものはない。あるとするならば真っ白な世界だけだ。
それに地面に立っている感覚がしない。まるで空中に浮かんでいるみたいだ。ただ、さっきと違って落下はしない。何ともおかしな場所だ。
「あれー、風間さんは?さっき声が聞こえたはずなんだが…。俺の空耳か!?」
「いえ、こっちです。いやもう目の前にいます。」
「目の前って…もしかしてこれか!」
「はい!それですそれです。」
俺は知らない間に現れた水色のボールを見つめた。
さっきの声はここから聞こえた。これがスピーカーとなっているのだろう。もう何か常識外なことが起きても驚かなくなってきた。免疫が付いたようだ。
「そうだ!それで、説明って何ですか?」
俺は水色のボールを持ち上げて問いかけた。ボールはガラス並みに硬いが楽々持てるくらい軽い。
「説明というのは、まずここについてです。簡単にいうとここはゲームの世界のあなたと、現実世界にいる私をつなぐための空間です。」
「その説明、分かるような分からないような…。」
「まあ、あまり難しく考えないでください。ちなみにここにいる時間はゲームの世界では反映されません。つまりそっちでは1秒も経過していないのです。」
「へぇー!それはまたすごいですね。それで、説明ってのは終わりですか?」
「いいえ、ここからが本番です。それはそのゲームでのクリア条件です。」
「クリア条件!?そうだ、まだそれを知らなかったんだ!」
クリア条件を知らないと俺は100日後に死んでた。よかったあのリンクを開いておいて。
「その前にそのゲームについて教えます。『魔力の存在する世界で、人間と敵対関係である魔物を倒すRPG』となっています。そしてクリア条件は魔物の王を倒すことです。」
「あーなるほど。まぁありきたりですね。ただ、それもなかなか面白い…。」
「はい。難しい世界観だと主人公、今回で言うとあなたにとっても大変でしょう?そこを考慮しました。」
「それって俺の頭が悪いってことか!?」
「いいえ、そういうわけじゃないのでご安心を。」
「はぁ…。あ、そういえばレベルってあるんですか?レベルないとモチベないんだよなー。」
「あー。レベルについては次の戦闘から表示されますね。さっきやってもらったのはチュートリアルみたいなものなので。ちなみにさっきの戦闘でカイトさんのレベルは1から2に上がりましたよ!」
「さっきレベル1だったのかよ…。先は長いなー。」
レベルがあるなら、さっさと近くに住んでいる魔物を倒してレベルを上げまくったほうがよさそうだ。それで、ラスボスを倒して生還する。完璧な流れだ。
「あ!あとこっちからの質問なんですけど、この腕時計って何ですか?いつの間にかついていたんですけど。」
「それですか…。分かりやすく言うならばメニュー画面ですね。もちろん時計としても使えるんですが、横のボタンを押してみてください。」
「横?お!ほんとだ。ボタンがある。」
「これを押すと『伝承の間』と『持ち物』、『プロフィール』が表示されます。伝承の間っていうのはここのことです。これを押すことでここにワープできます。分からないこととかがあったとき用ですね。」
ここは伝承の間っていうのか。現実世界とつながってるし浮かんでるし風間さんと話せるし、よくわからない空間だ。
「持ち物っていうのは今持っているものを表示するやつです。その項目からアイテムを選ぶと瞬時にアイテムが出てきます。プロフィールっていうのは自分のレベルや能力値などを見ることができます。試しに押してみたらどうでしょうか?」
『カイト』…Lv.2 ■■■■ 武人
腕装備:霧桜
足装備:ノーマルブーツ
服装備:勇者の服
背中装備:なし
アクセサリー:なし
HP:130
攻撃:34
防御:28
魔力:56
魔法:22
スピード:40
どうやら俺は魔法使いではなく武人らしい。さっきの戦いで剣を使ったからだろうか?
一つ気になるのは、レベルの隣に意味深な黒塗りがある。これのことだ。
これはまだ解放されていない能力とかだろうか。ネタバレになりそうだから聞かないほうが良いか。
「まぁ標準なステータスです。当たり前ですが、レベルを上げればもっと強くなります。」
これはオールラウンダーなのか、特化型なのかよくわからないな。
個人的にはオールラウンダーのほうがいいな。理由は単純でどんな場面でも対応できて汎用性が高いからだ。
見方によっては器用貧乏でもあるが、やはりどんなところでも対応できるのは憧れる。
「そうだ。魔力と魔法について説明しますね。自分の使う魔法の威力を表しているのが『魔法』。魔法を使うために消費するエネルギーが『魔力』でございます。」
(魔法の名前はそのままなのか…。)
まさかそのまんまの名前だとは。ただその方が分かりやすいのかもしれない。
「ちなみに魔力を剣に送って大きく振ってみてください。そうすると剣から斬撃を飛ばすことができます。これで遠距離攻撃も可能です!」
「魔力を送る?どうもやり方が分からないんですが…。」
「そうですね…。私も経験したことないから詳しくは言えないんですが…。力を込める感じらしいですね。そうすると魔力が送れるとか。」
分かるようで分からない。今まで23年+α生きてきたが、魔力を送ったことなんてない。そう簡単に意識してできるだろうか。さっきの戦いは無意識に送れてたそうだが、意識してやらないと意味がない。
まぁ、戻った後に挑戦してみるか。
「さて、そろそろお話を終わりにしましょう。質問がございましたら伝承の間というところをタップするといつでもここに来れます。それではまた。」
そう言うと水色のボールは目の前から消えた。
それと同時にさっきと同じ感覚で体が引っ張られ、さらに浮遊?をしなくなって底なしの奈落に落下した。
俺の意識は再び消えていった。
「……ここは、クレアだな。」
目を開けるとエイキと村長たちが魔物についての話をしていた。そういえば、伝承の間に入る前にそんな話を始めてたような。
つまり時間は進んでない。風間さんの言っていたことは本当だった。
「皆さん。なんの話をしてるんですか?」
異国の者がこの会話に混ざるのは少し違和感あるが別にいいだろう。
「あぁカイト。ここら辺にいる魔物についてだよ。さっき討伐してもらったレビアの巣が見つかりそうなんだ。そこを討伐すれば奴らもこの村には近づかないだろう。これで安泰じゃ。」
「そういうこと!だから明日僕たちが偵察に行って、そこが巣なのか確認しようって話!」
「明日になったらキョウの奴も帰ってくるだろうな。村長、この討伐は奴をリーダーにしていいか?」
「無論、構わん。キョウがいれば安心じゃ。」
「その討伐、俺も行っていいですか?」
一瞬で周りが静かになった。そして驚いた目で俺を見た。
「ほ、本当か!?今人手が足りなくてどうしようか相談してたところだから、とてもありがたい!もちろん前回のと合わせてお金は払うつもりじゃ!」
「あー。別にお金なら大丈夫です。それより、『これ』くれませんか?」
俺は左手に持っていた剣を指さした。
確か名前は霧桜、だったはずだ。
「そ、それでいいのか?その剣はそこまで価値は高くないが…。」
「いや、これで大丈夫です。これがあれば魔物と戦えますので。」
俺は一刻も早く魔物を倒してレベルを上げたい。レビアの巣に向かうのもたくさん戦えてレベルが上がると思うからだ。
「そ、そうか。なら明日の朝8時にこの家の前に集まってくれ。みんなもそれで大丈夫だろう。」
「明日か…。ん?」
俺はとんでもないことを忘れていた。
そう、家だ。この村には数軒の家しかない。宿なんてものはないだろう。そもそもここは冒険者が訪れるようなところではなさそうだし。
普通の主人公はどうやって夜を過ごしているんだ?それは様々な事情により描写されていないことのほうが多い。あるにしても自宅だろう。
もちろん俺には自宅なんてものは存在しない。もちろんこの世界での話だ。現実世界には家賃2万円の部屋がある。あの部屋じゃないと寝れる気がしないが…。
「そうだ!カイトって泊まるところないでしょ?だから僕の家に泊まっていいよ!!」
待っていたのかというくらいピンポイントでエイキが言ってきた。
もはや心を読まれていた気分だ。
「ありがとな。それじゃ俺はエイキの家に泊まるか。」
「ほんと!?やったー!!」
何とか今夜の家には困らなくなった。エイキがいなければ野宿してたかもしてない。
そういえば、エイキの目はまたキラキラしている。まさか、これはそういう目的で誘ってきたのか?単に俺に興味があるのか友達になりたいから誘ってきたと信じたい。きっとそうだ。
多分心が純粋なんだろう。穢れを知らない子なんているんだな。
「さて、そろそろ日が暮れそうだな。みんな、速やかに家に入るように。レビアを討伐しても油断するな!」
「「「わかりました!」」」
村民は蜘蛛の子を散らすように各々の家に帰った。
俺もエイキに腕を引っ張られて家に入った。
俺は何が起きたのかよくわからなかった。不思議に窓の外を眺めた。
村中明かりに包まれていた。外に出ないのにどうしてだろうか。
「不思議でしょ?実はこの村の周りには夜、『アクディア』って呼ばれる魔物が現れるの。奴らは人の肉や魔物の死体を食べることで力を貯える凶暴な魔物なんだ。」
「へー。そいつらから身を守るために家に入るのか?」
「そうだね。まあ、奴らは光が苦手で基本村には近づけないんだけど。ただ、万が一に備えて家にいるんだ。家の中なんてどこにいても光が当たるからね。さすがに近づけないよ。」
「奴らはそんな恐ろしい存在なのか?」
「まぁそうだね。まず見た目が2足歩行のトカゲみたいな感じなんだ。それがちょっと気持ち悪いっていうのもあるね。それに奴らの牙はものすごく鋭くて毒もある。動きも速いし面倒くさいことこの上ないね。」
某火のトカゲのモンスターみたいな感じだろうか。ただ、あれに凶暴性が加わり見た目もキモくなったのを想像したほうが分かりやすそうだ。
そういえばこの家はそこら中明かりがついている。いない部屋にもついていて正直もったいない気もする。身を守るためにはしょうがないのだろうが。
この家の窓からは村の外が見えない。今気づいたが、ここがちょうど村の中心に近い家だ。正直アクディアというやつが気になって少し見てみたい。ここの家からじゃ見えそうにない。
「そうだ!カイト、お腹すいてるでしょ?これ良かったら食べて!」
俺の手に謎の料理が渡された。
何だこれは…。ブルーベリーのようなものがゼリーの上に乗っている。ゼリーの色は紫色っぽい。ぶどうゼリーだろうか。ただ、ゼリーからはレモンのにおいがする。カオスだ。
「こ、これは…?」
「これ?これは僕特製のウェルトンゼリー!あ、ウェルトンっていうのはこの近くで採れる果物だよ。」
「なるほど…。」
なぜその上にブルーベリー(?)を乗せているのかは分からない。まぁ、いただくとするか。
「へぇ。結構おいしいな。甘味の後に程よい酸味が来る。これは元の素材がいいのか、それともエイキの腕がいいのか。」
「そんなの僕の腕がいいに決まってるじゃん!!凄いでしょ、僕!実は料理には結構自信があるんだ!」
そう言ってエイキは腕を組んで誇らしげな顔をした。
普段インスタントやレトルトの食品ばかり食べてて、甘いものとか食べてこなかったな。
甘味のものが好きだったのに高くて手を出せなかった。
今になっては後悔している。
だからクリアして豪遊したい。
と、欲望を頭の中で滞在させながらゼリーを食べた。
「それにしてもこの家は他に誰かいないのか?もう夜も遅いし…。」
さっき見えたが他の家は家族で過ごしていた。一人のところは見た感じなさそうだ。
するとエイキは寂しそうな目でこっちを見た。
「僕には家族はいないんだ。みんな魔物に殺されちゃった。」
どうしてそんな目をしたのか分かった。今にも涙を流しそうな目を見て、俺はなんて言えばいいのだろうか。
「…そうか。思い出させちゃったならすまない。」
「いや、別にいいよ。そうだ、少し語り合わない?せっかく二人だけなんだし。」
そう言ってエイキはベッドに座った。
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