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1話  村

  どのくらい時間が経っただろうか。

  目を開けると、目の前には廃墟があった。

  ここはもうゲームの中なのか?


 「…これだけか?もっと他にあると思ったんだが。」


  廃墟と言っても古い石でできたほんとに小さな建物だ。

  外から中が見えるし、ドアや窓などがない。

  どちらかと言えば遺跡に近い。


  それ以外は何もない。ひたすら草原が広がっている。

  割といい天気だ。

  心地よいそよ風が吹いている。

  

  探索…と言ってもするところがない。

  こんな草拾っても価値がないだろう。


  となると、遺跡を見るしかない。

  しかし、遺跡の中にも何もない。虫一匹存在しない。

  

  少し傷ついている柱を触ってみた。ひんやりとしている。

  これで隠し扉が出現する、わけもなかった。


  しばらく柱を観察したが、これといって変化がない。

  少し眠くなってきた。でも、ここで寝たら誰も起こしてくれない。

  とりあえず柱に寄っかかって座った。誰か来ないだろうか…。


  すると、後ろから声が聞こえた。

  びっくりして振り返ったが、柱の後ろには誰もいない。

  幻聴か?って思ったが、もう一度声が聞こえた。何かをささやいている。


 「………い……こ……く…」


  途切れ途切れに聞こえる。やはり幻聴ではない。

  なら声の主は…。

  柱に手を付けて、部屋の中央に耳を向ける。多分この方向から聞こえたはずだ。


  ただ、その時は気が付かなかった。

  俺の後ろに人がいることを。

  気配がして振り返った時にはもう遅い。

  フードを被っている人物がいた。その人物は右手に血染めの剣を握っている。

  その場を離れようとした瞬間、俺の背中には感じたことのない激痛が走った。

  俺は倒れこんだ。意識が朦朧としてる中、気力を振り絞って顔を上げた。


  獲物を狙う目。この世のすべてに憎悪を感じている目。ただ、どこか悲しい目。

  その人物はそんな目をしていた。

  一瞬だけ顔が見えた時、俺の意識は消えた。

  この時は分からなかったけどすぐにわかった。この顔は―――。




 

 「あ!起きた!大丈夫!?すごいうなされてたけど…。」

 「……だ、大丈夫…だ。」


  次に目が覚めた時、俺はベッドの上にいた。

  背中は痛くない。

  つまり、さっきまでのは夢…?

  

 「それよりここは…?」

 「ここは『クレア』っていう村だよ!あ、僕の名前は『エイキ』!よろしくね!」

 「よ、よろしく。」


  エイキはクリーム色の髪をしていて、碧眼。まさにゲームのキャラって感じだ。

  

 「そういえばどうしてここに来たの?」

  

  エイキはテーブルに置いてある液体を混ぜ合わせている。

  質問よりもそっちの行動が気になってしまう。


 「どうして…か。まあ、色々だ。冒険してたらここに来た。」

 

  当然なんで来たか、なんて分からない。

  目的も知らぬまま、この村に現れたのだから。

  

 「冒険ってことは冒険者!?すごい!初めて見た!!」

 「あ、そうか…。」


  なんだ。冒険者とはそんなすごい職業なのか?適当に言っただけなんだが。

  もしかして特別な資格が必要とか?

  もちろんそんな資格持っていない。


 「そうだ!はいこれ!この村でとれる果物を使ったジュース!飲んでみてよ!」

  

  そういって渡されたのは、オレンジジュースみたいな液体だ。さっきまで調合してたやつだ。

  オレンジジュースにしては少し暗い。それに炭酸みたいな泡もある。

  

  飲んでみたら…普通においしい。

  しかし、表現のしにくい味だ。俺の味覚じゃ通用しないのか?


 「あ、頭怪我してたから僕が包帯巻いといたよ。どう?きつくない?」

 「頭?あぁ。確かに包帯が…。別にきつくはない。」

 「よかったー。村の入り口で倒れてたから心配しちゃったよ!僕が早く発見したからよかったけど。」

 「そうなのか、ありがとう。」


  俺は倒れてたのか?なぜだ?

  まさか、さっき変な奴に切られたのはこの付近だった?

  と思って窓の外を見たが、景色が全然違う。

  

  それにもしあれが本当なら、背中に傷があるはずだ。

  しかし、背中は痛くない。触った感じ、怪我もなさそうだ。

 

 「ねーねー。君って名前なんて言うの?」


  唐突にエイキが質問してきた。

  名前。細谷カイトって答えるのもいいが、これはゲームの世界だ。多分そのままの名前で呼ばれる。つまり、ここで俺が細谷カイトと答えたら、登場人物全員が細谷カイトとフルネームで呼んでしまう。『細谷カイトって言うんだ。カイトって呼んでくれ。』なんてのはできなさそうだ。


 「俺はカイトって言うんだ。よろしく。」

 「カイト…うん!よろしく!」

  

  本当は『魔界の騎士K』とかにしてみたかった。主人公が俺じゃないならきっとそうしていた。ただ、これから出会う人全員にそんな呼び方されたらさすがに気が狂いそうだ。

  もし、今俺が中学生だったら勢い余ってそんな名前にしそうで怖い。

  そう考えると成長したもんだ。

  

  

 「そうだ、この家に鏡は無いか?ほかに怪我がないか確認したいんだが。」

 「鏡ならあの部屋にあるよ!ちょっと小さいかもしれないけど許してね。」


  そういってエイキは少し離れた部屋を指さした。

  洗面所みたいなところだ。


  ベッドから出て向かおうと思ったが、体が妙に動かしずらい。

  この体にまだ慣れていないからか?


  少しの移動で結構な労力を使った。これで戦闘とかできるのだろうか。


 「さて、けがは――って誰だ?」


  俺は鏡を凝視した。

  なぜなら、そこに映っているのは俺ではないからだ。いや、正確には俺なんだろう。


  ここで、俺の顔を紹介する。

  現実世界では、黒髪で少しぼさぼさした感じだ。顔は中の下くらいだろう。学生時代にはモテなくてもいつかは結婚できそうな見た目だ。


  しかし、今鏡に映っている男は違う。どこにでもいそうで取り柄のない顔ではない。

  髪は銀髪でサラサラしている。首元くらいまで伸びていて目は鋭い。おまけに顔が整っている。

  

  きっとこれが今の俺なんだろう。現実世界より少し若い。

  確かにあの顔でこの世界にいたら浮いてしまう。  

  おっと無意識に自虐してしまったな。



 「どう?ほかには怪我無かったと思うけど…。」

 「あぁ。頭だけだったな。これくらいのけがならいいさ。」


  俺は戻って、再びベッドに寝転んだ。

  そういえばベッドなんて何年ぶりだ?一人暮らししてからはずっと布団だったから、最後にベッド使ったのは大学生か?

  

  横ではエイキが何かを抱えている。

  それに分厚い本を眺めている。

  これは一体何をしているのか。ある程度想像はつく。しかしほんとにあり得るのか?


 「…エイキ。今何してるんだ?」

 「ん?今はね、魔法の練習をしているの。」

 「魔法…!」


  やはり魔法はこの世界に存在するようだ。

  となると、エイキの持っているものは魔法の杖だろう。杖というよりかはステッキに近い。

  そしてその分厚い本は、魔導書というやつか?


 「家の中で魔法の練習ってするもんなのか?」

 「んーとね。基本はしないけど、今この家離れて練習しちゃうとカイト一人になっちゃうでしょ。」


  つまりは俺が一人ぼっちになって可哀そうだ、と解釈していいだろう。

  

 「別に俺は一人でいい。てか外で練習するなら俺も見ていいか?」

 「僕は全然いいけど…頭痛くない?」

 「気になるほどじゃない。これくらいなら運動できる。」


  俺はそう言って立ち上がった。

  エイキは少し心配そうな顔をしたが、杖を持って俺と一緒に外に出た。



  クレアというこの村は家が少ない。 

  しかし、大きな畑と動物を入れている囲いがある。

  動物は牛や豚など現実にもいる動物だ。きもい生物じゃなくて安心した。


  村から少し歩くと野原が広がっている。

  多くの木があり、長い川も流れている。

  見たことのない花もたくさん咲いている。


 「魔法っていうのは誰でも使えるのか?それとも特別な力を持っている人しか使えないのか?」


  俺は自分でも魔法が使えるんじゃないか、と思って質問した。


 「いや、一応誰でも使えるよ。ただ、人によって使えない魔法とかもあるね。僕は水の魔法しか使えない。水以外の炎とか氷はできないよ。あとは『武人』っていうのと『魔法使い』ってのに分かれていてね――。」

  

  

  どうやらこの世界は、エイキのように杖をもって魔法を使う『魔法使い』と、剣や槍などの武器を使って魔法を使う『武人』の二つが存在する。

  

  魔法使いは一属性の魔法しか使えない。エイキだと水だ。ただ、魔法陣により巨大な攻撃魔法を使えたり、生物を召喚したりなどいろんな魔法が使える。

  逆に武人は基本どの属性の魔法を使える。しかし攻撃、もしくは回復、バフのどちらしか使うことができなく、魔法使いみたいに巨大な魔法などはできない。基礎的な魔法だけ使える。

 

  属性というのは、火、水、氷、風、地面、光、闇、電気、あとは無属性の九つ。

  生まれたときから魔法使いか武人かは決まるらしい。

  何とも理不尽だがゲームの都合上しょうがない。

  

  問題は俺が魔法使いと武人のどっちか。

  予想だが武人だろう。魔法使いだったら攻撃のレパートリーが少なそうだ。

  もし武人なら攻撃のほうがいいな。回復やバフはちょっと…って感じだ。


 「…てか、カイトって魔法についてあまり知らない?」


  さすがに怪しまれた。

  多分魔法ってのはこの世界の義務教育みたいなもんなんだろう。それをこの歳で知らないとなると…怪しむのも無理はない。


 「あー…頭怪我した時に記憶がちょっと飛んじゃったんだよな。だからあまり知識がない。」


  と、即興で思いついた嘘を出した。

  エイキは、『そうなんだ…。じゃあ分からないことがあったら何でも言って!』と優しい対応をしてくれた。急に嘘ついたことに対して罪悪感を覚えた。


 「それじゃ、僕の魔法をよーく見てね。これは水魔法で一番簡単な魔法なんだ。」


  そういって杖を前に向けた。

  すると、杖の先端は光り、僅かだが音も聞こえた。


 「アクアベール!!」


  杖の先端から水の玉が勢いよく飛び出された。

  その水の玉は近くの岩に当たり、破裂した。

   

  岩は濡れていて、ひびが入っている。

  これが魔法、か。


 「すごいな…。もっと強い魔法も出せるのか?」

  

  魔法というものに興味が出てきた。

  本当に杖から水が出た。しかも岩にひびを入れるほど強い。

  もし自分にもこんなのができたら…って考えると居ても立っても居られない。


 「もっと強い魔法かー。なら―――。」


  その瞬間、バンッ!!、と後ろで大きな爆発音がした。

  ギョッとして振り返ると、大きな煙が上がっている。

  クレアからだ。あそこで何かあったのか?


 「まずい!!『レビア』が襲撃してきた!!」


  そういって村に向かって全速力で走った。

  とりあえず、俺もそのあとを追った。





 「村長!無事だった!?」

 「おぉエイキ!儂は少し足を負傷した…。ただ、エイキは無事でよかった。」

 「大丈夫?結構血が出てるけど…。」

 「これくらいは平気だ…。それよりエイキ、お主にレビアの討伐をしてもらいたい。」

  

  俺が村に着いた時、エイキは村民らしき人と話してた。

  歳は俺の何倍も上なお年寄りだ。

  一応俺も近づく。


 「何があったんだ?」

 「あ、カイト!近くの魔物が村を襲撃してきたの。それで村長は足を怪我しちゃって…。村の片方の入り口は他の人たちが対処してるから、僕はもう片方を討伐しなきゃいけないの!」

 「…お主は誰だ?」

 「あぁ、俺はただの冒険者です。実はさっき―――。」

 「冒険者!?なら頼む!エイキとともにレビアを退治してくれ!」

 「え、でも俺武器…てか冒険者じゃ――。」

 「武器なら儂の剣を使ってくれ。お主に合ってくれるといいが…。」


  その村長は俺に剣を渡した。

  持ってみたら、意外と重い。片手で持つのは少し難しい。

  

  ちなみに俺に剣道の経験はない。

  仮にあったとしても本当の剣を握るのとでは訳が違うだろう。

  そんな完全素人だが本当に戦えるのか?


 「じゃあカイト、こっちに来て!」

  

  エイキは俺の腕を引っ張った。

  


  村の入り口に着いた。

  ただ、どこにも敵らしき生物はいない。

  そう思った瞬間、遠くに人影が見えた。


  しかし人ではない。明らかに人外だ。

  爪は大きく服を着ていない。

  見た目は猿っぽいが、首にはネックレスを付けている。


  どうやら、これがレビアらしい。

  数は10体ほど。群れはどんどんクレアに近づいてくる。



 「眠る逆光、揺れる煽動、蒼古の地水を呼び覚ませ!!アクアエーデン!」


  そういってポケットから札を取り出した。

  その札は青白く光る。

  すると、エイキの周りから無数の札が現れた。


  その札はエイキの前で結合し合い、大きな扉になった。

  現実離れすぎて何が何だか分からん。


  その扉は閉じている。

  しかしエイキは持っている札を扉に当てると、大きな音とともに扉が開いた。


  扉からはいくつもの水の玉が撃ち出され、レビアに命中した。

  レビアは必死によけて向かってくるが、数の暴力により何回も吹っ飛んだ。


 「これは…?」

 「これは、アクアエーデンっていう僕の『禁戦魔法(メトロバースト)』。アクアエーデンは扉によって敵の進行を防げるし、大量のアクアベールを撃ってくれるの。」

 「それなら、俺はいらないのか?」

 「いや、これには制限時間があるからね、そろそろ扉が閉じちゃう。…とりあえず3体くらいは倒せたし、ある程度ダメージも与えられたかな?」



  エイキの言葉が終わった時、扉は閉じた。

  レビアの群れは一直線でこっちに向かってきた。やつらを阻むものがなくなったからだ。

  俺とエイキは構えた。

  これが俺の初めての戦い。無事に生還できるよう祈るしかない。

実はさっき同じ話を投稿したんですけど、操作ミスにより削除してしまったので急いで作りました。そのためほんの少しだけ話が変わっています。

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