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10 森

  今、俺たちは森の道を通っている。

  正直どこから魔物が出てきてもおかしくなさそうだ。魔物にとって不意打ちしやすい状況だ。

  周りの木は俺の身長を軽々と超える高さ。前と後ろ以外は木に囲まれている一本道だ。

  そのうえ霧まで発生してる。まるで樹海だ。1つ目の村を出て一発目に遭難とか笑い話にしても出来が悪い。


  上からか、横からか、はたまた後ろからか。

  いや後ろは大丈夫かもしれない。なぜなら後ろには頼もしい人物がいる。


 「ね、ねぇカイト…。ほんとにここを通るの?確かにここからのほうが近いけど…。」

 

  細々とした声が聞こえた。

  そう、後ろは空気ではなくエイキがいる。

  

  なんやかんやあって俺の冒険についてくることになった。俺は一人だと戦力的に不安だった。エイキはもっと強くなりたい。まぁwinwinだろう。

 

 「てか、ほんとにこの道だよな?なんか俺も不安になってきたな…。」

 「ちょっと!もしかして道を間違えたの!?でもあってるはずだよ…。」


  地図を見たがやはりあっている。しかし縮尺からの計算ではおよそ700m。もうそれ以上は進んだ気がする。

  それなのに道はまだ続く。一番先には光が見えるがその光の大きさは変わらない。

  周りの景色も変わらないし、永遠と同じ道を進んでいる…のか?


 「まるで蜃気楼だ。進んでいる気がしないな。」


  

  その時、ガサガサと、横の草むらから動く音が聞こえた。

  ビクッとして音の方を向いた。

  横を見ると謎の生き物が杖をこっちに向けてる。紫のフードで身を隠して浮かんでいる奴。

  そいつは急いで杖をしまって走り去った。

  

 「あいつの魔法のせいだ!急いで追うよ!」

  

  エイキは俺の腕を引っ張って後を追った。

  

  樹木の間を走って通るのは少々危険だ。

  何回も木にぶつかりそうになる。


 「何なんだ!?蜃気楼とやつは関係あんのか?」

 「あいつは『ネスト』ってやつで僕たちに幻覚を見せているはず!だからあいつを倒さないと僕たちは永遠にここをループする!」

 

  なんて残酷な奴だ。あいつのせいで俺は99日ここを歩いてたかもしれないのか。


  そのネストってやつは小柄な見た目だが動きは遅い。俺たちの歩くスピードくらいだ。走れば余裕で追いつくはずだが…。

  ネストに全く近づけない。ゲームのラグい時みたいに走ってるのに何回も同じ場所に戻っている気がする。

  ネストの姿はどんどん小さくなっていく。


 「近づけないのも奴の幻覚のせいだね。なら…。」


  エイキは止まって杖をネストに向けた。

  杖は光り、水しぶきとともにアクアベールを撃った。

  ネストの背中に見事命中して、ネストはその場に倒れこんだ。


 「お、周りの霧が晴れた…。よし、奴に近づける。」

 

  どんどん距離は近くなった。どうやら奴が倒れたことにより幻覚が使えなくなったのだろう。

  あと少しの距離になったところで奴は体を起こそうとした。

  まだ息はあるようだ。


 「なら、これでとどめだ!」

  

  斬撃を奴に向けて撃った。

  斬撃は周りの木を一気になぎ倒して、まっすぐに進んだ。


  …のだが、斬撃は奴に当たらなかった。

  いや、何者かが斬撃を防いだ。


 「なんだ…?」


  ネストの前に少年がいる。

  その少年は俺の斬撃を防いだ後、持っていた短剣でネストの首を切った。

  首は落ちて溶けるように消えた。

  

 「俺の獲物に手を出すなよ。先に狙っていたのはこの俺だ。」

 「…あ?」


  唐突に謎理論を言ってきた。

  なんだこいつは。敵なのか味方なのか。いや、少なくとも味方ではなさそうだ。

  そのガキはネストから落ちた宝石っぽいのをとり、ニヤリとした。


 「どうせお前も『これ』目当てで魔物狩りをしてんだろ?」

 「ん?それって…なんだ?」


  とてもきれいな宝石だ。

  水色とも白色ともとれる謎の色をしている。現実で換金すればしばらく遊んで暮らせるくらいにはなるだろう。

  

 「残念だったな!運よく俺は一発で取れた。お前もこいつを倒せていれば参加できたのにな。可哀そうに…。」

  

  そいつは俺に宝石を見せびらかしてきた。きっと価値が高いんだろうが俺にはこいつの価値が分からない。

   

 「ん?何に参加すんだ?」

 「…え。お前そんなことも知らないのか?ハハッ。そんな冒険者がいるのか!?面白れぇ!」


  そのガキは腹を抱えて笑った。

  俺の無知を知って笑っているのだろう。今すぐ首を切り落としたいが、ここは大人の余裕を見せる。この程度に反応してはいけない。

  

 「ちょ、ちょっと!どういう状況!?」

 

  後ろからエイキが近づいてきた。

  状況を説明するのは面倒くさい。想像してもらおう。


 「はー笑った笑った。…ん?お前はこの剣士の連れか?」

 「連れじゃない、仲間だ。」

 「あれ?君が持ってるのって『光泉石』?」

 「あぁ。さっきのネストが落としていったのさ。ほしいか?魔法使いなら『龍神星祭』に参加したいだろ?」

 

  『龍神星祭』。さっきの本に書いてあったはずだ。

  フールイなどで年一で行われる祭り。各地から武人や魔法使いが来るらしい。ダンジョンに入って一番速くボスを倒したら勝ち、という内容だ。優勝すると金と特別なものがもらえるとか。

  

  予想だが、その祭りに参加するには、今ガキの持っている光泉石が必要なのか。

  さっきの言動から察するに、ここら辺の魔物が一定の確率で落とすのだろう。

  

 「すごい!!あの龍神星祭に参加できるかもしれないんだよ!!カイト!その光泉石があれば参加できるよ!お願いしたらくれるかもよ!」

 「…なわけ。」


  どう考えてもあのガキは渡さなそうだ。

  てかガキに頭を下げるなんて死んでもごめんだ。ましてやこんな生意気な奴に。


 「いいのー?今だったらあげるかもよー?俺はこう見えても優しいからね♪」

 

  ご機嫌が良いようでのんきに鼻歌まで歌ってやがる。

  こいつの態度を見ると、俺も反射的に体が動く。


 「あげるも何も、俺は別に参加したいわけじゃないしそのために奴を討伐したわけでもない。勝手に勘違いするなよ。」

 「ふーんそっか。この価値が分からないなんてずいぶんと無知なんだね~。」

 「…。」


  心を落ち着かせろ。今こいつを相手にする暇はない。一刻も早くフールイに向かわなくてはいけないからだ。 

  それにこんな奴の挑発に乗るようでは俺まで子供みたいになってしまう。


 「ま、俺は今から祭りに参加しなきゃいけないんで。それではさいなら~。」

 

  ガキは見えない速さでどこかに飛び去った。

  結局何なんだあいつは。人のこと煽っといて自分は暇じゃないって…。

  しかし、なぜだか親近感が湧いてしまった。気分が下がるな。


 「ねーねー、さっきの子どっかで見たことない?」

 「ん?別に。というか俺は昨日ここに来たばかりだしな。」

 「あ、そっか!てっきりもっと長く一緒にいると思ってた。」

 「ま、それは分からなくもない。まだ1日しか経ってないなんてあんま信じられないな。」


  と会話をしていると、ブブ、と腕時計が振動した。

  一回の振動ではなく電話がかかってきたみたいに、数秒おきに振動がする。

  見てみると、『伝承の間』とだけ表示されていた。

  また風間さんからだろう。緊急なのか?


  エイキに見えないよう、体で腕時計を隠して、その画面を押した。





~~~~~~~~

 「あ、カイトさん!お久しぶりです!いやまだ1日しか経っていないですけどずいぶん前に感じますね!」


  またボールがしゃべっている。そして眩しい。

  いや、そんなことより首が痛い。着地するとき謎のミスが起きて頭から着地した。

  もちろん即死のはずだがこの世界では痛覚がないようで、けがはしなかった。

  しかし寝違えった時の感覚みたいなのが首に居座っている。


 「それで、どんな用事ですか?てか首痛いんすけど。どうなってんすか?」

 「確かカイトさんはクアル、序盤の村をクリアしましたよね?そして次の村、フールイに向かっている、ですよね?」


  首の件は綺麗にスルーされた。

  まぁそんなことで傷つく俺でもない。メンタルが鉄でできているから問題ない。

  

 「そうです。もしかしてクリアしたボーナスとか!?ありがたく受け取りますよ!!」

 「あ、そういうわけではない――いやそうです。プレゼントです」

 「おお!!プレゼントですか。太っ腹ですね!!」

 「ただ、その前に少し説明です。少々長いですが聞き逃さないでください。」


  俺は今からボールを見て、長話を聞くのか。なんて珍妙な状況なんだ。

  とりあえず目の前で正座をした。じっとボールを見つめる。


 「次の町から特殊技能(スペシャリティ)という能力が解放されます。これは個人の能力で、基本的に身体能力を上げたり相手にデバフをかけたりします。例えばカイトさんの特殊技能(スペシャリティ)影宗者(ブルーバティン)という能力です。これは影の中に入って自由に移動することができます。そのため夜の移動は便利になるでしょう。それに戦闘でも相手の影に入って意表を突くことだってできます!どうでしょうか?」

 「どうって…なんかパッとしないぞ!」

 「いえいえ、そんなことはございません!確かに分かりやすい能力上昇とかではないですが、いつかこの特殊技能(スペシャリティ)が活躍すると思います!」


  影の中に入ってどうしろって言うんだ。かくれんぼだと無双できるじゃん!と心の中で考えたが、前向きな気持ちにはならない。

  自分の動きが俊敏になる能力とかのほうがよかったな…。

  それなら戦闘では絶対役に立つし、移動も楽になる。

  影なんかよりもよっぽど便利じゃないか?


 「その特殊技能(スペシャリティ)って強化できたりしないんですか?例えば影に入ってるときにバフがかかったり…。」

 「あ、そういうのはないんですよね。能力は強化することは不可能です。」

 「まじですか!?俺ずっと影を動きまわることしかできないのかよ!うわー、最悪…。」

 「まぁそこはご了承を…。あ、そうだカイトさんって顔見ました?」

 「顔?あぁ、確か現実世界と変わってましたね。それ先に言ってほしかったんですけど!」


  顔だけではなく、体型も声も、多分年齢も違うだろう。

  あの顔で23歳はさすがに無理がある。いやファンタジーの世界だから普通に数千歳とかいるのかもしれないけど。


 「いやーそこはちょっと驚かそうと思ってまして。でも伝承の間ではカイトさんの顔は現実世界と同じですよ。」

 「え!?あ、声もそういえば…。」

 「あっちの顔や声、体型などは私たちが考えているわけではないのです。だからどんな顔になるかとかは世界に入ってからのお楽しみってやつです。」

 「もしかしたらとんでもねぇ化け物になってたかもしれないのか…。そう考えると俺はだいぶあたりだ…。」


  それにしてもこの声は落ち着く。なんかイケボってわけではないしモブみたいだけど、そこに愛着があるというか、一般的な声だ。

 

  あの世界の声は、どことなく只者ではない感じだ。一般人ではなく特別な人間みたいなものだ。主人公だからそ特別なんだが…。

  本当にただの冒険者なのかっていう気がしてくる。俺が知らないだけでもっとすごい人間なんじゃないか、とも思える。


 「風間さん。俺って…何者なんですか?俺というよりかはあの世界の俺です。自分には分からないけど何か抱えている気がします。」

 「別に普通の冒険者ですよ?これといった特別な人間ではないです。」

 「なるほど…。」

  

  自分から聞くのもおかしな話だ。どうして人に聞くのだろうか。

  その答えは分からない。


  いつかどっちが本当の自分なのか分からなくなりそうで怖い。

  本当は現実世界も『仕事を辞めた世界で生き抜くサバイバル』みたいなゲームの世界なんじゃないか?つまりフィクションの中で生きてきたとなる。

  その場合今までの出来事はすべて嘘だったという意味だ。そしたらゲームの世界はフィクションのフィクション…?


 「カイトさん。何やら難しい顔をしていらっしゃいますが…。」

 「…え!?…あ、なんでもないです。ただ、ちょっと考え事です。」

 「そうでございますか。何か質問がありましたら随時お尋ねください。」

 「質問…。あのゲームの世界の出来事はすべて風間さん達の手によって動かされてるんですか?」


  ボールは少し黙った。

  もし本当にそうならば、今までの、例えばレビアの巣で閉じ込められたのもエイキが家に泊めてくれたのも、すべてマニュアル通りだったということになる。


 「すべてがそういうわけではありません。キャラの目指す道は私たちが作りました。しかしそのキャラがどう動くのかは私たちは一切関与してません。エイキがあなたについて行ったのも、キョウがあなたに本を渡したのも私たちにとっては予想外の出来事でした。」

 「それって本当ですか!!!ということは一人ひとりの行動は――」

 「はい。すべてそのキャラの意思です!」


  これを聞いた瞬間うれしくて飛び跳ねてしまった。

  大人になってもこんな喜ぶなんてめったにない。俺は相当うれしかったのだろう。

  

  エイキは自分の意思で俺についてきてくれた。なら俺はその意思を受け取らなければいけない。

  

 「ありがとうございます!!それでは俺はそろそろあの世界に帰ります!」

 「あの世界でも頑張ってください!応援しています!!」


  ボールに手を振って奈落に落ちた。


~~~~~~~~~

  

  

 「カイト―!どうしたの?」

 「ん?あ、ああ。すまない。ただボーっとしてただけだ。」

  

  エイキはちょっと遠くにいる。

  数秒ラグでも発生したのか?


 「てかさ、来た道覚えてる??」

 「来た道、か。確かこっちじゃないか?木の破壊具合から見て。」

 「じゃあそっちに進んでみよっか!」


  

  俺が指さした方向に俺たちは進んだ。

  確か俺たちは一本道から右に曲がった。それだけは覚えているが、だからといって何かヒントになるわけではない。

  後ろに引き返すのが正解だが、走っているときに何回も左右に動いてしまったため、どれが本当の後ろなのかが分からない。

  一番最悪なパターンは、来た道を前だと思って後ろに進むこと。もしそのまま進んだら一本道には戻れないだろう。

  

  ならさらに引き返すのもありだが、こんな周りが木しかない同じような景色できれいに直線に進めるとは限らない。

  つまり、今進んでいる道を正解だと信じることしかできない。




  だいぶ進んだ。森も高低差が激しくなって上り坂だときつくなってきた。

  あたりの景色はそこまで変わってない。ただ木の数が心なしか減少してるように見える。


  その時、エイキは足を止めて遠くを眺めた。


 「え、あれって川じゃない!?来た道にはなかったよ!!」

 「…これは、俺のミスか。」

 「やばいよどーしよう!!このままじゃ夜まで森を徘徊するかもしれないよ!!」

 「いや待て、この川が直線に流れているんだったら、あの一本道でも見えたはずだ。ただ、出口までには川はなかったし高低差もなかった。ならこの川は一本道と並行になっているんじゃないか?川が直線じゃなかったら終わりだけどな。」  

  

  ほかに手段はない。それに時間的にまだ余裕がある。

  この考えに賭けてみるか。

  

  進もうと思ったら突然、エイキは周りをきょろきょろ見渡した。


 「…え。なんか声聞こえなかった?」

 「声?別に何も――」

 「ほら!今聞こえたよね!!」

 「ん…確かに。これは、大人の声か?」

 

  どこかから叫ぶような声が聞こえる。

  男性の声だ。助けを呼んでいるのか?


 「多分こっちから!」


  エイキは走って川の方に向かった。

  よく見ると、川の近くの木の根元に男性が寄りかかっている。


 「はぁ、はぁ、だ、大丈夫ですか?」

 

  エイキは男性のそばに駆け寄った。足から血が流れていて服も少しボロボロだ。

  男性の隣にはたくさんの花が入った籠がある。


 「あ、ああ。ありがとう。一応大丈夫だ。といっても立ち上がれそうにないな…。」

 「すごい傷…。何があったんですか?」


  男性は包帯で足を巻きながら事情を話した。


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