9話 帰還
待ち続けて3分。何も起こらなかった。
隊長は眠いと言い出して、こんな通路で寝てしまった。
壁の奥では声は聞こえるが、やはり難航しているようだ。
もはやすることなんてない。何も描かれていない壁を眺めたとき、
ゴォン!! とすさまじい轟音がした。
ギョッとして岩の壁を見ると、岩は粉々に壊されていて明かりが入ってきた。
何が起きたのか、壁のあったところを見てみると、誰かがいる。
エイキだ。エイキはこっちを見るや否や猛ダッシュで駆け寄ってきた。
「カイトーー!!それに隊長!!大丈夫ですか?」
「お、おぉ。俺は問題ない。隊長も大丈夫だ。」
「よかったー!ほんと心配したんだからね!そういえば巣はどうなったの?」
俺はさっきまで起きたことを話した。
時々エイキはびっくりして声を上げた。感情が豊かな奴だ。
「そんなことがあったんだ…。」
「あぁ、一応巣は討伐できたが…。ま、ここはもう大丈夫だろ。」
俺は隊長の体を揺らした。少し経って目を覚まして大きく腕を伸ばした。
本当にこんな環境で眠っていたのか。
「おぉ、エイキか。久しいな。この壁は一体どうやって壊したんだ?」
エイキは少し戸惑った表情をした。
そう言えば確かにどうやったんだ?間違いなくエイキが破壊したのだろうが、魔法を使ったのか?でも俺の斬撃は効かなかったし…。
「いやー…それはまぁ、いろいろと頑張って…。」
「いろいろ?」
「…あ!そうだ、早く村長に討伐したの伝えないと!ね?」
エイキは俺たちの背中を押して階段を上らせた。
階段を上がるにつれ、眩い光に体が照らされる。
上るとエイキと一緒にいた二人がいた。名前は聞いてないから分からない。
その二人は俺たちの顔を見て、
「今回の調査のご協力ありがとうございます!それと我々は無力であったことを謝罪します!すいませんでした!」
「…え?」
目が合ってすぐ謝罪をしてきた。別に謝罪することではないと思うのだが。岩の壁は不慮の事故だし、何もできなかったのはしょうがないと思う。
「別に謝罪なんてしなくてもいいが…。」
「僕が説明するよ。カイト。実はさっきまで一緒にいた二人は偽物だったんだよ。」
「偽物?別人だったってことか?」
「そう、この二人は2日前事前に遺跡の調査をしたんだ。その時この遺跡は氷のバリアで封鎖されていた。そうなんでしょ?」
「はい、我々はそのバリアを破壊しようと試みました。苦労の末バリアを破壊できましたが、そこでバリアを作った張本人「帝王会」の奴らに発見されました。」
「帝王会?なんだそれ…。」
「帝王会…か。久々に聞いたな。宝や力を狙う犯罪集団のことだ。奴らはここを狙ったってことか?」
隊長が小さくつぶやいた。
そんな分かりやすい悪役がこの世界には存在するようだ。
「んー。まぁそうだね。そして二人は捕らえられて帝王会の奴は二人に変装して帰ってきた。変装はやつらの得意分野だからこれくらいなら朝飯前なんだろうね。」
にわかに信じがたいが、そんなことが起きていたのか。
俺はこの二人と絡みがないから変装されてたなんて気づかなかった。
「エイキ、帝王会の奴らはどこに行ったんだ?奴らの姿が見当たらないぞ。」
「あー、奴らは逃げちゃいました…。」
「逃げた?それはエイキが奴らを討伐したのか。それか奴らは目的を達成して自主的に退散したのか。どっちだ?」
「確かエイキ殿が――。」
「僕が倒したの!奴ら僕の魔法見たらびっくりして一目散に逃げたんだ!ね!」
「え…、あ、はい。」
さっきからエイキの様子がせわしない。
岩の時もそうだ。きっと岩を壊したのはエイキだろう。どうして俺らが問いかけたときに無理やり話題を逸らしたんだ?
周りの視線はエイキに集中している。エイキはあたふたして、
「早くクレアに帰ろ!村長も心配してると思うし!!」
て言って先に走って遺跡を出た。
隊長も二人も後を追うように走ったが、俺はその時あるものに気づいて立ち止まった。
地面に変な液体がある。
もともと水たまりがあったがそんなのじゃない。明らかに色がある。赤い色が。
水たまりみたいに溜まっているわけではなく、地面にしみ込んでいる。
なんかドロッとしてそうだ。そんな液体なんて、
「…血だな。」
誰の血か、誰によってこんなことになったのか、そんなのは一瞬でわかった。
ただ、一体どうやってそんなことになったのだろうか。
考えるのをやめて、俺は遺跡を出た。
「ただいま村長!!レビアの巣を討伐してきたよ!!」
「ま、お前は討伐をしていないがな。」
「ちょ、ちょっと!僕は帝王会を追い払いましたよ!!」
村に着いたらエイキと隊長たちがわちゃわちゃしていた。
さっきまで戦闘をしてたのにいきなり平和になって変な感じだ。
「まぁ、エイキの活躍があって2人を発見することができた。」
「さすがカイト!やっぱり僕は有能だね!」
「そうだ、カイト。村長からお前にお礼だそうだ。」
隊長は分厚い本を取り出した。少し汚れていて古そうだ。
まるで国語辞典のような見た目の本。ただ、中を開くと興味のそそられる内容が書いてあった。
「これはこの世界の理が記されている。お前にとっては必要だろ。」
世界の歴史、魔法について、魔物の名前、地図や食べ物などゲームの攻略本みたいに書いてあった。
これがあればこの世界をもっと理解できる。
今すぐこの本を読んでみたい、そんな感情が出てきた。
「ありがとうございます…!」
「ふ…。その目、気に入ったようだな。」
俺はぺこり、と頭を下げて走った。
村の中央にある広場のベンチに座り、俺は本を読み始めた。
『斬衝』。これは俺が使った斬撃の名前だ。魔力を多く流すとより大きくて速い斬撃を飛ばせるらしい。
魔法のレベルを上げると色が変わるそうだ。
魔力を流して地面に剣を刺すと『円靭緋霊』という魔法が使えるらしい。これは360°に衝撃波を発生させ、敵を燃やすことができる。さっきの戦いで似たようなのを使ったが、あれとは違うのだろうか?
「どうだその本は。興味深いだろ?」
「うわ!びっくりした…。何だ、隊長ですか…。」
「隊長はもう終わりだ。キョウって呼んでくれ。」
もう隊長じゃないのか。今更名前で呼ぶのもなんか違和感ある気がする。
「カイトならこの本に興味を引くだろうと、俺が村長の所持している本から選んだ。やはり予想は当たったな。」
「そうですね。自分の知らないことを理解するのがこんなに楽しいことなんだって、改めて実感しました。」
「そうか…。ところでお前って何者だ?」
「何者…ですか。ただの冒険者ですよ。それ以上でもそれ以下でもないです。」
キョウさんから変な目で見られている。周りから見たら俺は異端なのか?
「そうか…。冒険者っていうのは変わったやつが多いな。そうだ、カイト。もうここには残らないだろ?次はどこに行くんだ?」
「そうですね…。とりあえずこの一番近い『フールイ』ってところですかね。」
俺は本の地図のページを開いた。
フールイという町はここからメリアレットを直線で結んだときに最初に訪れる町のはずだ。
ちなみに最終地点であるメリアレットはまだまだ遠い。ぼちぼち進むしかない。
「フールイに行くんだったら今すぐ行った方がいい。明日からしばらくアクディアの活動が活発になる。昼でも油断できない状態だ。」
「え!?今すぐ?」
あと2日くらい体を休めてから行きたかったが…。
ただ、このまま休んで後で時間食われるよりは良いか。
そういえば、まだクレアに来てから1日しか経ってないのに妙に長く感じるな。
やはり新たな出会いや発見があったからだろうか。現実世界では同じようなことの繰り返しで一日経つのを待って生きているだけだしな。
「そんじゃそろそろ出発しますかね。時間もお昼前だしここからあまり離れてなさそうだから。」
「お、そうか。最後に村長とエイキには挨拶しておけ。お前もお世話になっただろう。」
エイキには最初に出会っていろいろ教えてくれた。一緒に戦ったし家にも泊めてくれた。
村長は俺にこの剣と本をくれた。この世界で生きるのに必要だろう。
「おぉ。キョウとカイト!巣の討伐はよくやった!」
ちょうどいいタイミングで村長が来た。
足はもう大丈夫そうだ。
「村長!カイトから話があるぞ。」
「その、俺そろそろこの村を出るんです。短い間ですけどお世話になったことのお礼です。ありがとうございました。」
村長は驚いた顔をした。唐突すぎてびっくりしたのかもしれない。
一度遠い空のほうを眺め、村長は口を開いた。
「そうか…。君が来て1日しか経ってないのになんだが感慨深い…。新しい場所でも頑張ってくれよ!」
俺は村長と固い握手を交わした。
村長は俺に期待をしている目だ。この目を裏切るわけにはいかない。
この剣をくれたのもきっとそういうことだ。
「そういえばエイキなら今村の外だ。多分帰ってくるのは後数時間後かもしれない。私からエイキには伝えておこう。」
「そうですか…。ならしょうがないですね。」
最後くらいエイキに挨拶をしたかった。きっと俺が離れるって聞いたら悲しむだろう。
自分で言うのも変だが、エイキは俺のことを大切に思っているはずだ。
いやでも…。
「それじゃあ俺はここで。またいつか戻ってきます。もっと強くなって。」
俺はクレアに背を向けた。次ここに来るのはいつだろか。そもそももう一度来れるだろうか。
そんなことはわからない。
ただそれでも『もう一度来たい』という気持ちはある。
キョウさんにも村長にも会いたい。自分の強くなった姿を見せたい。
そう思い俺はクレアを出た。進む方角は西だ。
「村長!!カイトは!!カイトはどこ!!」
僕の声がキョウさんの家に響く。
僕がこんなにも焦っているのには訳がある。そうカイトがいない!
もしかしたらどこかに出かけてるのかも…、と考えたがテーブルの上の紙を見た瞬間すべてを悟ったんだ。
『隣町フールイに行く。お世話になった。』
…と、割と丁寧な字で書かれている。
その文字を見たらもうキョウさんの家にダッシュだ。いくらいなかったとはいえ手紙でのバイバイは悲しい!
「カイトなら書いてある通りだ。いつか戻ってくるからそれまで待て。」
「違うの!そういうことじゃないの!せめて最後くらい…。」
キョウさんの目は呆れている。それは僕をみてそんな目をしたに違いない。
キョウさんの話だとカイトが出たのはちょうど一時間まえくらいらしい。きっとフールイに着いた頃だろうなぁ…。
「それで、お前はどうしたいんだ?このまま紙を見てただ嘆くだけか?」
「うぅ…。だって僕は…。」
「『僕は』なんだ?まだ勝手に決めた使命に縛られてるのか?」
「だって僕がいないと――。」
「いいか。俺たちも伊達に長いこと武人をしていない。攻撃魔法ができなくったってある程度は戦える。一人では無理でも俺たちはバッファーだ。重複すればお前以上の攻撃も可能だ。だからお前の思っている道に進め。」
「僕の思っている…。いいんですか…?」
「当たり前だ。そうだろう?」
キョウさんは振り返った。
僕たちの後ろでドアを開ける音がした。
振り返ると見覚えのある人が立っている。
濃いグレー色の髪の毛。慎重は僕より少し高い。
少し目つきの鋭くて腰に剣がある…。
「…よ。」
「カイト!!!」
「うわ!急に抱き着くなよ…。」
カイトがいる。僕はそれに幸せを感じた。
カイトは僕の頭を撫でた。
「…ということでエイキはしばらく俺が預かります。それでいいですか?」
「そうか。エイキ。冒険は決して楽な道ではない。常に危険との隣り合わせだ。」
「分かっているよ。大丈夫。いざとなればカイトがいるし、僕だって足を引っ張らないで戦うよ。」
僕たちはクレアの出口に来た。ここに来たのは昨日魔法を見せたとき以来だ。
でもあの時とは重みが違う。それは僕にもわかる。
クレアに手を振って、僕たちは西に向かった。
次回から新しい場所に向かいます。




