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0話  転生

  仕事をやめて3日が経った。正直暇すぎる。

  新社会人1年目は割と上司や周りの人も優しかった。まだまだ未熟な自分を受け入れてくれた。

 

  しかし、2年目になったらどうだ。もう、1人前だと思われて面倒な仕事を勝手に任されたり、労働基準法とは何なのかというくらいの残業オンパレードにもなった。

 

  気づいたら俺は辞表を出していた。きっとこの体が仕事に耐えられなくなってきたのだろう。


 「さて……どうするか。今から新しい仕事を探すのもいいんだけど――。」


  家賃2万円のオンボロアパートの部屋でゴロゴロしながら、俺『細谷カイト』はつぶやいた。

  さっきまで見ていた大量のチラシには「アットホームな職場」とかいうワードが95%の確率で載っていた。

  この言葉を信じた結果がこれだ。俺のいた職場にも当たり前のように載っていたが、実際アットホームだったのは1年目だけ。信じてはいけない言葉ランキングベスト3には間違いなく入るだろう。

 

 「ただ、今月の家賃も…あと水道代に電気代も…。あー!!くっそ!割と給料よかったからやめなければよかったー!!」

  

  現在の貯金は8万弱。このままではいけないことも分かっていた。ただ、前みたいな職場だったらいよいよメンタルが崩壊する。

  一発逆転で宝くじを買うのも考えたが、どうせ当たらない。そんなのに金を使うのならばまだパチンコのほうがいいだろう。ただ、それが何年も続くのか、と言われると微妙なところだ。


 「スマホも売ったし、パソコンで仕事探してみるかな。…けどこのパソコン動くか?」

 

  このパソコンを売ったほうがお金がたまりそうなほど古いパソコンだ。数年ぶりに起動したら懐かしい音とともにパスワード画面が出た。


 「あれ?パスワードってなんだ?誕生日…は違うのか。好きな数字…も違うか。学籍番号…でもないか…。やべぇ、分かんねえ!」


  まずいことになった。これではパソコンが開けない。パスワードのヒントなんて「あ」しか書いてない。きっと昔の俺は忘れないと思っていたのだろう。

  



  パスワードと格闘して10分。俺の降参とともにギャンブルへのカウントダウンが進んだ。

  

 「やっぱ残された道はパチンコ…!生きるためにはしょうがない!」

  

  震えながら財布を開けた。

  貴重な一万円。諭吉パイセンは俺の味方をしてくれるだろうか。

  

  涙ながらに一万円を握りしめて着替えようとした時だ、ピンポーンと呼び鈴の音が聞こえた。

  

  この部屋だろうか。いや人望皆無の俺に人なんか来るわけないか。きっと隣の部屋だろう。それがたまたま大きく聞こえただけ。

  それか部屋の間違いかもしれない。明日生きれるか死ぬかの状況で割り込んでほしくないものだ。

  

  しかし30秒後、ピンポーンともう一度音がした。今の音は間違いなくこの部屋だ。


 「呼び鈴…だと。鳴るのなんて数か月、いやもっとか?通販なんて使わないし。まさか…宗教!?」

  

  まずい。今『幸せですかー?』なんて聞かれたら俺はついて行ってしまうに違いない。

  この不幸から脱却できるなら俺は神を信じてしまいそうだ。



  少しおびえながら、玄関の覗き穴から確認した。

  見えにくいが人はいる。1人だ。しかもなかなか屈強だ。多分スーツみたいなのを着ている。少なくとも宗教っぽくはない。意外?かもしれないが借金は一切してないからそっち系も除外。

  考えうるのはマフィアだろうか。しかしそんな人たちと関係はないはずだ。

 

 「出たほうがいいはずだ。…しかし誰だ?なんであんな人が俺の部屋に来たんだ?…そうか!引っ越しに来たのか!それでご近所さんに挨拶しに来たのか!」

  

  絶対そんなわけないが、そう自分に言い聞かせた。

  ドアノブを握る手が震える。そもそもこの3日間誰とも話してないから会話できるのかもわからない。変なこと言って殺されるのは勘弁だ。

  

 「あーもういいや!死んでも後悔ないし!」


  決死の覚悟でドアを開けた。

  でかい。俺が受けた第1印象はこれだ。俺は170cmほどあるが俺を軽く超える身長だ。

  相手は俺の顔を見て、


 「こんにちは。あなたが細谷カイトさん、で間違いないですか?」

 

  と見た目に似合わない優しい声で言ってきた。思わず俺の体の力は抜けた。


 「あ、はい。そう…ですけど。あなたは?」

 「あ、私は風間と申します。よろしくお願いします。」


  そういい、風間という人はペコリ、と頭を下げた。俺も反射で、よろしくお願いします…、とほそぼそとした声で言った。

  

 「時間がないのでサクサク進めます。唐突ですが、カイトさんにはわが社『トール』の開発である『クロック』のテストに協力していただけないかと思いまして…。」


  トールという言葉。聞いたことがある。

  確かパソコンとかイヤホンとか作っている世界的に有名な会社だ。

  どうしてそんな会社の人が俺のところに…?しかも協力?


 「協力…ですか。」

 「はい。まずはこの紙をご覧ください。」


  風間は服のポケットの中から折りたたまれた紙を取り出して俺に渡した。

  

  1枚の紙に大量に文字が書いてあり正直見る気を失せる。

  ただ、見ないと目の前の大男に何かされそうだった。もちろんそんなことはしないと信じたいが。

  とりあえず見てみたが、要約すると


  トールではクロックという次世代装置を作った。

  この装置はVRと現実を掛け合わせた装置。

  人の体をスキャンして別次元の世界にアバターとして生成される。

  現実世界では人の体は特別な部屋で保管されるため命に問題はない。(別世界にいるときは意識はない)

  別世界でいつでもログアウトすることができ、その時に現実世界で意識が戻る。


  と、どっかの作品で聞いたことのある開発をしているようだ。そんなことがあるなんてにわかに信じがたいが。

  それで、下のほうを見てみるとその協力者が欲しいとかなんとか。


 「なるほど。クロックについてはわかりました…が。どうして俺なんですか?」

 

  確かに俺は社会的に見ても立場はかなり下のほうになってしまった。それでも実験動物みたいに扱われることに腹が立ってしまった。命の保証だってあるかわからないし。今まで聞いたことのないものであり、死んでもおかしくない。


 「それはですね、カイトさん。あなたは『工藤ゲンイチ』さんをご存じですよね?」

 「工藤ゲンイチ…って俺が前にいた会社の社長!?」

 「そうです。そしてトールの社長『工藤ゲンスイ』様はゲンイチさんの弟なのです。」

 「兄弟そろって社長か…。なんてエリートなんだ…。」

 「ゲンスイ様と私たち社員は長い年月をかけてクロックを作りました。しかし世界初であるため危険度が未知数なのです。」

 「そこで…俺がテストをするんですか?」

 「はい。ゲンスイ様は多数の人間に試作テストの協力を頼みましたが、命の保証がないため誰も協力してくれませんでした。そんなとき、ゲンイチさんがゲンスイ様に『協力してくれそうな人がいる。』と電話をかけました。そこで紹介されたのが細谷カイトさん、あなたなのです。」


  は?あの社長、俺のことを実験用のモルモットだと思ってたのか?てか俺あの人とほぼあったこともないし話したこともあるかわからないくらいなんだけど。

  

 「なるほど。大体は理解できました。ただ、俺にも人権はあるので…。俺も死にたくはないですね。」

 「もちろん強制はしません。最終的に決めるのはあなた自身ですので。」


  しかし、せっかくここまで来たのに断るのもかわいそうではある。俺がここで行動することでトールの役には立てる。ただ、明らかに危険と釣り合わない。俺には死ぬ可能性がある。それ相応の対価が必要だ。

  なら、あれを聞くしかない。


 「…報酬は?」

 「そうですね。こちらとしてはあなたが協力してくれるだけで会社に対して大きな功績となります。なのでざっと…。」

 

  そういって風間は少し考え込んで、

 

 「8億円ほどでどうでしょうか?」

 「は、8億ぅ!?そ、そんなにいいんですか!!!!」


  今にも腰が抜けそうだ。そんな大金絶対に手に入らないと思ってた。

  もし死ななければ一生遊んで暮らせるだろう。

  それに結婚だってできそうだ。正直現実味はないが、8億という言葉だけでいろんなことが想像できる。

  

 「あ、テストについてなんですけど、あなたにはRPGの世界入って実際にゲームをしてもらいます。もちろん主人公はあなたです。」

 「俺が主人公のゲーム…か。すごいですね。」

 「そうです。まるでゲームの中にいるみたいになります。」


  実際にゲームの中に入ったようになるなんてすごい時代になったものだ。小さい頃は自分もゲームのキャラみたいに剣を使って敵を倒したいと思っていたがここで実現できるとは。聞いただけでもワクワクする。

  しかも8億というとんでもない大金までゲットできる。多少危険ではあるが問題ない。


 「俺、やります!そのテストに協力します!」

 「ほんとですか!ただ、少し問題があります。クロックは大量の電力を24時間ずっと使うため多大な負荷がかかります。一応熱を下げるために気温の低い部屋に設置していますが、いつか熱が高くなりすぎてクロック本体がフリーズしてしまいます。」

 

  その言葉を聞いて俺の中の好奇心は一気に消えた。

  不吉なことが頭の中で浮かんできた。


 「フリーズ?そしたら俺は…。」

 「永遠に意識が戻らない、ということになります。」


  体が小刻みに震える。変な汗が出てきた。

 

 「え?それって俺が死ぬってことじゃないですか!!」

 「はい。ただ、フリーズする前にゲームをクリアをすれば問題ありません。」

 「大体どれくらいでフリーズするんですか?」

 「ちょうど『100日』でございます。ゲームクリアには目安として40日ほどなのでだいぶ余裕があります。」

 「なんだ…。なら死ぬことはほとんどないですね。」

 「はい。ただ多少のバグは発生すると思いますが進行不可とかではないのでご安心ください。」


  安心できるようなできないような言葉だが、まあいいか。

  よく考えたら8億円だしそれくらい危険なら納得だ。


 「それで、どうします?やりますか?」

 

  風間はじっとこちらを見た。

  俺の中で答えはすでに決まっている。


 「もちろん、やりますよ。お願いします!」

 「ありがとうございます!それではあちらの車に乗ってください。」


  風間は駐車場を指さした。そこには中古の車が並んでいる中に、一つだけ黒塗りで光沢を受けている高級車があった。

 

 「あの車はクロックがおいてある施設に向かう車です。準備をしたら、一緒に乗りましょう。」


  俺は急いで着替えて、靴を履いて、家の鍵を閉めた。

  外に出ることが、なぜか久しぶりに感じる。

  

 (次帰ってきたときはこの部屋ともお別れだな。タワーマンションにでも住むか。いや、海辺の豪邸とかも…。)


  そんなことを考えて車に乗った。風間は運転席に座った。さっきの発言からして誰かが運転をするのかと思った。

  



  約10分ほどで車が止まった。外は大勢の人が歩いていた。

  どうやら町の中心部まで来たらしい。


 「さて、着きましたよ。」

 「ありがとうございます…うわっ!まぶし!」


  ドアを開けると日光が降り注いでいた。3日外に出ないため光に慣れない。

  それに暑い。春なのに今にも蝉の声が聞こえそうな気温だ。


 「ここ…ですか。すごい大きなビルですねー。」

 「ここはクロックの制作に協力していただいてる会社です。ここにクロックを設置しています。」



  風間は、すたすたと歩いてビルの中に入った。俺も後を追うようについていった。

  中は体の内部の熱気が消えるような感じがするくらい涼しかった。外とは大違いだ。

  風間は受付の人に名刺を見せると、何かを話して


 「さあ、クロックはもうすぐです。その前にこちらにサインをお願いします。」

 

  と紙とペンを渡してきた。紙にはクロックについてや注意事項が書いてあった。ほぼさっき見た紙と同じだ。

  てかやっとここにきてサインか。さっきまでサインなしで命を懸けるのかと少し不安だった。


 「はい、ありがとうございます。それではあちらの部屋にお入りください。あ、これが部屋の鍵です。」


  鍵を渡された。鍵をかけるほど厳重な警備なのか。

  

  風間に言われた部屋の前に来た。鍵を開けようとしたとき再び緊張した。

  

 「俺は今からゲームの世界に行くのか…。まだ現実味がない。ただ、俺はやるしかない!」


  そう独り言を言い、部屋の鍵を開けた。

  

  

  

  部屋の中は、金庫、テーブルと紙、そしてクロックらしきものがあった。

  多分クロックとはこれのことだろう。

  でかいカプセルが開いていて、中に歯医者で診てもらうときに使うような椅子がある。


 「でけぇ…。これがクロック――なのか?」

  

  とりあえずテーブルに置いてある紙を見た。――が、その紙には何も書かれていなかった。

  

 「使い方とか書いてあるわけじゃないのか?ならどうやって使うんだ?」

 「本日はありがとう、細谷カイト君。クロックの試作テストにご協力していただき感謝する。」

 「!?」

 

  上から声が聞こえた。よく見るとスピーカーがある。そこから聞こえた。


 「どうも…。あなたは?」

 「僕は工藤ゲンスイ、僕のことは風間から聞いただろう。割愛させてもらうよ。」

 

  声の主は社長本人だ。わざわざ挨拶してくれたのか。


 「まず、君の貴重品はその金庫に入れてくれ。あと、この部屋の鍵もだ。入れたら番号を忘れないようテーブルの上にある紙にメモしてくれ。」

 

  そういえばさっきサイン書いた時のペンを持ってた。

  とりあえず言われた通りに金庫にものを入れた。そもそも貴重品なんて腕時計くらいしかないけど。


 「ありがとう。そしたらそのカプセルの中にある椅子に座ってくれ。――よし座ったな。そしたら、君から見て右にボタンがあるだろう。それを押してくれ。」

 「これか。…お!カプセルの扉が閉まった!」

 「聞こえるかい?そしたら最後、左のボタンを押してくれ。あとは健闘を祈る!」


  ボタンを押すと椅子が自動で後ろ向きに倒れてベッドみたいになった。

  後ろで機械が動くような音がして、頭にヘルメットみたいなのが装着された。

  そしたら、3D眼鏡のようなものが上から出てきて装着してくれた。少し緩くて気になるけど。

  

  カプセルの中が赤く光り出した。ピーピーと警告音みたいなのが鳴り、『10、9、8…』とAIのような声がカウントダウンを始めた。


 「やばい、かつてないほど緊張するな…!一体どんな世界が広がってるんだ!?」

 「2、1…」

 「行くぞ!!」

 「0」


  その瞬間目の前が真っ暗になった。体から力も抜け、意識もなくなった。

  俺は必ずクリアする。

初めて小説を書いたので設定などがブレブレかもしれません。


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