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王城図書室のソファー

2巻の表紙を見て書きました。

「これ、気になってたんだよね~。やっぱり薬草だったんだ」

 すっかり定位置となった窓辺のソファーで、ミーシャは楽しそうに手にした植物の葉をくるくると回した。


レッドフォード王国に向かう旅の途中、たまたま目についた植物の葉が、どうも気になって持ってきていたのだが、次々と起こる事件の日々に飲み込まれて、すっかり忘れてしまっていたものだ。

改めて荷物の整理をしている時に、薬草の束の中にひっそりと潜んでいたのを発見して、丁度いいと調べに来ていたのだ。


「ん……っと。この植物は”甘ツタ”と呼ばれていた。……とがった葉の先だけ、色が薄緑なのが特徴で、葉や茎の部分を……かむ?と……微かな甘みを感じる。……地元?の、……子供たちのおやつになっているようだが、大量に……摂取?すると腹を壊すという……報告から、下剤の効果があると推測した……」


恐らく、当時の薬師が書き記した本だったのだろう。

繊細なスケッチが添えられているが、残念ながらひどい癖字で少々読みずらく、ミーシャは苦戦していた。


本は、書かれた原本をもとに、字や絵が上手いものが書き写していくため、最初の本を書いた人物によっては原本が読みにくいというのはままあることだった。

だが、枠外に余分な書き込みがしてあったりするのが面白く、その事に気づいたミーシャは、原本と写本があるとつい原本を手に取ってしまうのだ。


現に今回も、字は読みにくいものの、スケッチの方は原本の方が格段に上手く、未知の植物を照らし合わせるなら、原本の方が最適だった。

さらに、毒舌な人だったのか、イラストの横に一言添えてある言葉や小さな絵が面白い。


今回は、隅の方に、お腹を抱えて泣いている子供と呆れた顔の大人のイラストが小さく添えられていて、ミーシャは小さく噴き出した。

恐らく、止める親の話を聞かずに食べ過ぎてお腹を壊してしまった子供なのだろう。

親の方にそれほど慌てた様子がないので、大したことにはならないのだろうな、と思えて、余計におかしい。


「乾燥後軽く……煎じて、水から煮出し……て、冷ましたものを飲んだところ、って、自分で飲んだんだ……。まあ、そうだよね。少しづつ、自分で確認するか……」

森での生活でも、新しい薬を作るときは、母親と共にほんの少しづつ自分で使って確認していたことを思い出して、ミーシャは納得したように小さく頷くと先を読み進める。


「……茶碗2~3杯で効果が見られた。茶碗の大きさ書いてないのはなんで?この時代は大きさの規格が決まってたのかしら?…味?は、多少の……青臭さ?は感じる……ものの、ほのかな甘みもあり飲みやすい。粉末状にして…直接?飲む方が……少量で効果は高い、が、……苦みが強く……感じ?るので注意が必要。……また、効果が強く出るため……調整?が、難しい……、と」


見開き1ページにわたって書かれた内容をどうにか読み切ったミーシャは、自分の持っている知識と照らし合わせるように、しばらく目を閉じてじっと考え込んでいた。


「子供のおやつになるくらい甘味が感じられるのに、薬にすると苦味の方が強くなるのはなんでなのかしら?」

小さく首を傾げながら、いつもの癖で無意識のうちに乾燥された小さな葉を一枚ちぎって口に入れる。


そして、鮮烈な苦味に眉を寄せた。

「うわ!コレってセデスに負けないくらい苦いんだけど」

苦みに定評のある鎮痛剤の原料の名をつぶやいたミーシャは、急いでそばに置いてあった水筒から水を飲んだ。


「乾燥させたら苦いってことは、植物に含まれている水分が甘さのカギなのかな?それか、ただ乾燥させるだけじゃダメってこと?」

ぶつぶつと呟きながら本当手にした薬草を見比べるミーシャは真剣そのものだ。


「……とりあえず、後で煎じてお茶にしてみよう。煮出すことで少し甘味が復活するなら、やっぱりカギは水分よね」

うん、と何かに納得したように小さく頷くと、ミーシャは両手をあげて大きく伸びをした。

ずっと同じ体勢で本を読んでいたので、体が固まってしまっていたのだ。


体をほぐしてスッキリして、ふと気付けば、珍しく一緒に着いてきていたレンが、隣で小さく丸まって眠っていた。

ミーシャが本を抱えて座り込んだ時には、図書室の中をふんふんと嗅ぎ回りながら探索してたのだが、いつの間に隣で眠り込んでいたのだろう。


背後の窓から昼下がりの優しい日差しが入り込んできて、レンの柔らかな白い毛に降り注いでいる。

たっぷりと陽の光を浴びた毛は、ふわふわで気持ちよさそうだ。


ミーシャは幸せそうに眠っているレンを起こさないように、そっとその背中を撫でてみた。

そして、想像通りの柔らかさとほんのりと温まった毛の気持ちよさにウットリとしてしまう。


しばらく無心で蓮を撫でてその心地よい手触りを堪能していたミーシャは、フワァ、と大きく欠伸をした。


昼下がりの静かな図書室。

窓からはポカポカと暖かい光が差し込み、隣には気持ちよさそうに寝息を立てる白い毛玉。

おまけに、ミーシャは、先ほどまで周囲が見えなくなるほどの集中力で持って本を読んでいたのだ。


ミーシャの目がトロンとトロける。


(レン、気持ちよさそうに寝てるし。動かして起こしたら可哀想だし……)

自分に言い聞かすように考えながら、ミーシャはゆっくりと体をソファーの背もたれに預けた。

積み重なったたくさんのクッションが、優しくその体を受け止めてくれる。


(少し……だけ……)

瞳を閉じたミーシャが眠りの世界に吸い込まれるのはすぐだった。





「アラアラアラ」

少しだけと言って出て行ったきり、お茶の時間になっても戻ってこないミーシャを探してやってきた侍女のティアは、窓際のソファーの上に広がる光景に目を細めた。


足元にはいくつも積み上がった分厚い辞書や本。

ソファーに積み上げられたクッションに埋もれるようにして横になったミーシャのお腹の辺りには丸くなったレンがスッポリとはまっていた。


柔らかな光の中、2人でスヨスヨと眠っているその光景は、いかにも平和で幸せそうだ。


少しその光景に見惚れた後、ティアはそっと図書室の奥の棚から大きめのブランケットを持ってくると2人の上にふわりとかける。


「お茶の時間は少し遅くなるって連絡しておきますね〜」

そして、眠る2人に小さく声をかけると、ティアはそっとその場を後にした。


幸せなお昼寝の時間は、もう少しだけ続きそうである。



読んでくださり、ありがとうございます。


1巻の時にはしたのに、2巻発売記念カウントダウンをやるの忘れてるのに気づき、慌てて書きました。

時系列的には、ラライアとかかわるようになって、少ししたくらいのイメージです。

手持ちの薬草を使うようになって、荷物整理したら知らない薬草が出てきたよ~、みたいな。

ラライアの朝食作ったりするので早起きだし、眠たいよね、と。

ほっこりしてもらえたらうれしいです。


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