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森での生活③~初めての患者さん

おはようございます。

珍しく朝投稿です。

「う~ん、こっちはなにがあるのかな?」

 わくわくの足取りで少女は進む。


 背中には、水筒とおやつを入れたリュックサック。

 5歳の誕生日に、父親にもらったもので、小さなポケットがいっぱいついているのがお気に入りだ。


 5歳になったミーシャは、一人で森の中を自由に探検する権利をもらった。

 それまではお家の周りや大人と一緒に行ったことのある場所だけしか一人で行けなかったけれど、今ではどこにでも行ける。


 もっとも、母さんの鳴らす笛の音が聞こえたら引き返す約束だけれど、それでも、自由に生きたい方向を決めることができるってすごい、と幼いミーシャは思うのだ。


 それに、初めて行った場所には思いもよらない発見があって、とても楽しい。


 そうして、今日もミーシャは元気よく森の中を駆け回っているのだった。

 鼻歌まじりに進んでいたミーシャは、悲しそうな小さな声が耳に飛び込んできて、首を傾げた。


「なんの声かなぁ?」

 とても小さな声は途切れ途切れで、耳を澄ましても、なかなかどちらの方向から聞こえるのか分からない。


「むぅ。ちゃんと呼んでくれないと、見つけられないよぅ」

 ミーシャが唇を尖らせた時、フワリと風が後ろから吹いて、ミーシャの長い髪を揺らした。


「ん?こっち?」

 風に呼ばれるように振り向いたミーシャの耳に、さっきよりもはっきりと小さな声が響いた。


「これ、キホリリス?」

 ずいぶんと弱々しいけれど、聞き覚えのある鳴き声にミーシャは足を早めた。


 キホリリスは、その名の通り、木を削って穴を作り、そこで子育てをしたり木の実を貯蔵したりする習性がある。

 基本穴掘りするのはオスのみで、繁殖期には作り上げた巣に誘って、メスにアピールするのだ。


「へい、彼女〜。この家で一緒に子育てしようぜ!って感じです」

 父親と共に訪れていた側近のおじさんに教えてもらったのだが、その時の変なセリフまで思い出して、ミーシャは思わず吹き出してしまった。


「えっと、ダメダメ。今は笑ってるばあいじゃないのよ」

 一瞬、意識を別の方へと持っていかれたミーシャは、慌てて首をふるふると振って雑念を追い払うと、耳を澄ませつつ鳴き声の主を探す。


「見〜つけた」

そうして、木の根元の茂みの中に、小さなキホリリスの子供がいるのを無事に発見した。


 ガサガサと茂みを掻き分け覗き込んだミーシャに、キホリリスは鳴くのをやめて固まっている。


「う〜ん?巣から落ちちゃったのかなぁ?」

 茂みの上にクネクネとうねりながら伸びている大木を見上げて、ミーシャは首を傾げた。


「それっぽいものは見えないけど、下から見えるような位置に巣なんてつくんないよね」

 視線を下に戻すと、キホリリスは怯えたように小さく震えながらも逃げる様子がなかった。


「………あれ?怪我してる?」

 動こうとしないキホリリスをマジマジと観察していたミーシャは、キホリリスの小さな足が本来あるべき方向と別な方に向いているのに気づいた。


「………折れてるのかなぁ?どうしよう」

 一瞬、母親が持たせてくれた傷薬が頭をよぎるが、骨折に効くとは思えなかった。


「こっせつは、そえぎなどでこていして、あんせいにすること。また、かいほうこっせつ、ふんさいこっせつはほねのいちを〜〜」


 ツラツラと母親に教えられた骨折の対処法を諳んじて、ミーシャは困った顔で黙り込んだ。


 小さなキホリリスの足の骨をズレを元に戻す事も出来ないし、そもそも、森の中で動けなければ、あっという間にこの小さな命は天敵に狩られてしまうだろう。


「ごめんね、私じゃ、助けてあげられないよ」

 しょんぼりと肩を落とすミーシャをじっと見つめていたキホリリスは、何かを訴えるように「キキっ」と小さく鳴いた。

 真っ黒なつぶらな瞳と見つめ合うこと、しばし。


「……お母さんに、診てもらおう」

 決意した様に小さく呟くと、ミーシャは、リュクの中から布を取り出し、そっとキホリリスを包んで大事に抱き上げた。


「お母さんなら、きっとあなたを助けてくれるわ」

 できるだけ揺らさない様に、ミーシャはソロソロと歩き出した。


 走ればあっという間の距離も、傷ついた小動物を庇いながら歩けば時間がかかる。

 さらに、ときおり傷を刺激されたリスが痛そうに小さな悲鳴をあげるため、その歩みはさらに慎重にならざるを得なかった。


 結局、30分の距離を2時間近くかけて帰ってきたミーシャに、レイアースは目を丸くした。

 段差も多く、足場の悪い森の中を、揺らさない様に慎重に進んできたミーシャは、緊張のためか汗びっしょりになっていたのだ。


「母さん。この子、助けて」

 へとへとへとになりながら、ようやく辿り着いた家で、ミーシャは母親に泣きそうな顔で手のひらの中の小さな命を差し出した。


 大切に布に包まれたキホリリスを見たレイアースは、ミーシャの疲れ切った様子の一端を察して、ほっと息をついた。


 森で暮らすことを選んだ以上、ミーシャが好奇心のままに飛び出していくのを否定する気はなかった。何より、幼い頃、自分自身もそうやって森の中を歩き回り、生きていくうえで大切なことをいろいろ学んできたのだ。


 しかし、まだ幼いミーシャを一人で行かせることに不安がないわけではない。

 ディノアーク達協力の下、出来るだけ危険は取り去ったとはいえ、何が起こるのか分からないのが自然なのだ。

 

 元気に戻ってくるまでは、いつだって落ち着かないし、何をしても気もそぞろだった。

 何度も、あまり遠くに行かないでと言いかけて、嬉しそうにその日の出来事を報告してくるミーシャの笑顔に言葉を飲み込む日々だったのだ。


 それは、ミーシャが初めて森に1人で飛び出して半年を過ぎている今でも変わらない。


 そんな日々の中、珍しく帰りの笛を吹く前に、べそをかいて不自然にそろそろと歩いて帰ってくる姿を窓から見つけた時は、どこか怪我でもしたのかと本当に肝が冷えた。

 その理由が、傷ついたキホリリスにあったと知り、安心したのだ。


「木の根元に落ちて泣いていたの。足が折れているみたいだけど、良く分からないし、そのまま置いていたらきっと死んじゃうと思って…」

 大きな瞳に涙を浮かべて訴えるミーシャの背中を、レイアースは優しく押して促した。


「そうね。お家に入って、その子に何がしてあげれるか、見てみましょう」

 そして、ミーシャの経験になるかしらと、ひっそりと思う。


 何があったのかは知らないけれど、ある日から、真剣に薬草や治療の知識を学びだしたミーシャに、そろそろ実践の機会をと考えていた時だったのだ。

 

(人と獣は違うけれど、命を救うという行為は同じだし、自分で見つけた命なら、より真剣になるでしょう)

 そんなレイアースの思惑をよそに、ミーシャは、もう安心と肩をなでおろした。


「よかったね。きっと、元気になるからね」

 そろそろと手の中を揺らさないように歩きながら、優しくささやいているミーシャに、レイアースは笑いかける。


「そうね。ミーシャも協力してね」 

「うん!」


 元気よく頷くミーシャが、思っている以上に自分主体の治療行為になることに、驚いて声をあげるまで後数秒。


 


 


読んでくださり、ありがとうございました。


なんだか微妙にレイアースが黒い感じに……。

この後、治療からリハビリ、森に帰すまでをミーシャ主体でやることになります。

キホリリスは安定の適当創作動物(笑

巣立ち直後に天敵に狙われ、逃げる途中で木から落ちた、な設定でした。

その後、無事に森に帰るものの、たまにミーシャに会いにくる様になります。

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