森での生活①~薬草のお勉強って大変(前編)
ミーシャが本格的に薬師を目指すと母親に宣言したころのお話です。
「母さん、これ、すごくにがいよぅ」
大きな翠の瞳にいっぱいに涙をためて、ミーシャは顔をしかめた。
そんなミーシャの小さな手に、レイアースは笑いながら水の入ったコップを手渡した。
「そうね。セデスは手に入りやすい薬草で、頭が痛い時もお腹が痛い時にもいいし、熱が出た時にも解熱剤として使えるんだけど、その味が問題なのよね」
困った顔をしながらも、レイアースはついでのように机の上に置かれたセデスの葉をかじってみる。
「うん、やっぱり苦いわね。ただ、この苦みが強いものほど痛み止めの作用も強いの。不思議よね」
ホンワリとほほ笑むレイアースに、水を飲んでもまだ残る苦みに涙目になりながら口をとがらせる。
「お母さん、ちっとも苦そうじゃないし。私のだけ苦かったんじゃない?」
不満そうなミーシャに、レイアースは笑いながら、半分になったセデスの葉をひらひらと振って見せた。
「どうかしら?こっちも食べてみる?」
少し迷ったものの、余裕ありそうに笑うレイアースに、ミーシャは母親の指先につままれたセデスにパクリと食いついた。
「効果の強い葉は、苦みの外には色がより濃くて葉のふちのギザギザがとがっているのも特徴ね。ちょっと口の中に刺さる感じがするから分かりやすいでしょう?」
そうして、声もなく悶絶しているミーシャに、いたずらが成功したとレイアースはクスクス笑いながら、再びコップに水を満たして渡してやるのだった。
本格的に薬師を目指す宣言をしたミーシャに、レイアースは、幼い頃に自分が教えられたとおりの教育を施し始めた。
その中の一つに、取ってきた薬草をそのまま食べる、というものがあったのだ。
もちろん、加工しなければ毒となる薬草もあるので、そこら辺は確認しながらであるが、そもそも薬として使われる草木は、においや味に癖のあるものが多く、そのままで食べるのに適してはいない。
そこを、あえてそのまま食することで強烈な嗅覚や味覚で記憶に焼き付けるという、もっともらしい理由はあるのだが。
「これって、絶対アワアワしている子供たちが見たいだけよねぇ」
水を飲んでも治らない苦みに、飴を取りに自室へと走っていったミーシャを見送りながら、レイアースがポツリとつぶやいた。
当時、笑いながら見ていた村の大人たちを思い出して、レイアースは肩をすくめる。
「だって、とってもかわいいもの。いやだ、大人の気持ちが分かるようになっちゃったわ。年かしら?」
涙目で唇を尖らすミーシャを思い出してくすくす笑いながら、机の上に置かれたままのセデスを加工するために、手を伸ばす。
そんなレイアースのもとに、飴で口をもごもごしながらミーシャが戻ってくるまであと少し。
読んでくださりありがとうございます。
他にもしびれたり辛かったり酸っぱかったり。たまには甘いものもあるのでそれが救い。
五感で記憶すると忘れにくいそうですよ(笑)