H・E(2)
「ひえぇ、またまた大物が飛び出して来たねこりゃあ……」
ふしゅー、と威嚇をしながらエリカを睨みつける巨大コウモリ。
「どーしよっかなぁ。飛ぶ生き物にバズーカは怖いし」
片や、炎天下の中腕組みをして対抗策を考えるエリカ。謎に睨み合いだけの時間が流れていく。
守神に与えられた専用アイテムである、共通倉庫から武器などを転送できる端末を取り出し、画面を操作して在庫を確認する。
「んー、やっぱりマイカとルーナ武器使いすぎだよぉ」
他の守神に使用され、常に不足している武器庫。便利な物ほど先に消費されていくため、残っているのはバズーカや御札といった微妙なものばかりだ。
「ま、それほど2人の場所が大変ってことだよねきっと。その分私は、自力でどうにかしなきゃ」
「シャーッ!!」
自前のスタンガンをバッグから取り出し、突進してきたコウモリを手のひらで弾く。
災厄を寄せ付けない、守神の能力だ。これがあるため、守神は災厄相手にタイマンで負けることはないとされる。
──この時点まででは。
「ほっ! コウモリくんごめんね! ビリってするよ!」
屋上の柵を身軽に駆け、重心がズレふらつくコウモリに飛び乗る。
その喉元を狙い、スタンガンを突き立てた。
「ゴァアアアアッ!!」
「わわわっ!」
上にエリカを乗せたまま、コウモリの体は転落していく。
本日二度目の落下となるエリカは、いそいそと制服ポケットを探る。
「あ! 衝撃吸収装置、切れました! これはやばばば!?」
とりあえずコウモリの体にしがみつき、クッションにしようと試みる。
しかしこの学園は7階建ての校舎。このまま地面に叩きつけられれば、無事で済むことはない。
「死ぬには早すぎるんだけどー!? ──んぶぁっ」
何かに覆われながら、コウモリと離される。
「何やってんだお前は。ちゃんとあたしを呼べ」
「レーナ! ありがとー死んだかと思った!」
「災厄封じる前に死なれてたまるか」
2階から飛び出したレーナにより抱えられ、無事着地する形となったのだ。教室からは、クラスメイトがポカンと眺めている。
「授業に戻れ、見世物じゃねーんだよ」
しっしと野次馬を追い払うレーナの隣に、降ろされたエリカが並ぶ。にんまりしながら顔を眺められたレーナは、むっとして腕を組む。
「何だよ」
「顔出してたら危ないから、みんなを中に戻したんだよねっ。やっさし〜!」
「鼻の穴にレモン搾るぞ」
「え、それは嫌かも」
「かもなのもだいぶイカれてんなお前」
「絶対ツーンってするじゃん?」
「そういう問題じゃねーだろ」
話をしながら、突っ込んできたコウモリを躱す。4メートルの大きな体には、人間用のスタンガンでは足りなかったらしく、既に持ち直している。
ギラリとした牙の標的は、人間であるレーナのようだ。
「……あたしを食うのか?」
特注の、ポケットに収納できるようカスタマイズされた木刀を取り出し、肩にかける。
これももちろん、対災厄用のアイテムである。
「やってみろ」
さらに恐ろしい目つきで睨み返すレーナ。本業ヤンキーと呼ばれても違和感はない。
「グガアアアアアッ!!」
「ふー……」
大きな牙を剥き出しにし、一気に接近するコウモリ──
「ゴァアッ!?」
──は、一撃で地面に減り込んだ。
レーナによって振り下ろされた木刀は車を破壊できる威力であり、ハッキリ言って大抵の生き物はただではすまない。
こっそり野次馬に戻っていた連中の血の気が、サーっと引く。
「あ、まだ生きてる」
ピクピクと動くコウモリを見て、ボソッと呟くエリカ。
──直後コウモリが、至近距離のレーナに向かって覆い被さる。レーナは無表情で押し倒される形となった。
「だーめ、おいたしないの」
「ガッ……」
額に御札を貼られ、ピタリと停止する。弱めの生物系であれば、動きを止めたりそのまま封じ込めたりする。
今回のコウモリは、ぷるぷると震えはするが動けはしない程度の災厄だったようだ。
「おい」
「ガァ……」
「邪魔なんだよ」
コウモリの体を突き上げ、レーナは起き上がる。そのまま高く跳び上がり──喉に木刀を突き刺した。
至近距離でそんなものを見せられ、エリカは思わず絶句する。
「わー、これ私要る?」
「あ? 生物だから何とかなっただけで、それ以外はお前いないと話にならねーだろ」
「私が死んでも、レーナがいれば安泰だね」
「話聞いてんのかお前」
木刀をしまって、昇降口から戻っていくレーナの後ろ姿を見送りながら、エリカはスマホで死骸の処分を要請する。
「……本当に、私が死んでも大丈夫なように、災厄を絶対封印しないとね」
聞こえない程度の声で決意を固め、レーナの後を追う。




