F・L(1)
どうも!蛍ですっ。
興味を持っていただけたこと、とても感謝致します。
正直、本編を読まないと分かりにくい箇所が多いかと思われますが、ご了承ください。
私もなるべく分かりやすくなるように努力します。
1人目の守神は、『ENDガールS・M』第二十七回に名前だけ登場した、『フェリン』というキャラクターのエピソードです。
よろしくお願いします!
──唖杉フェリン。
本土において最も中心となる、『九宮川』という町に産まれた守神。
この世代において存在が明らかとなったのは、鈴ヶ屋マイカ・多賀名メイゼに続いて三人目である。
フェリンが守神の力を発揮したのは中学二年生の頃であり、学園に襲いかかった十頭の猛牛を、睨みつけただけで追い払ったことが始まりとなる。
その時点で守神であると国の上層部は悟り、マイカやメイゼよりも早く、彼女とコンタクトを取った。
フェリンは自身の不思議な力を理解でき、快く、その使命を受け入れた。
「……帰ってくれる? 独りでいたいの」
中等部三年生となって凡そ一年。フェリンは、たった今告白しにやって来た男子生徒を、冷たくあしらう。しっしと手で追い払い、彼の姿が見えなくなったところで、深く溜め息を吐いた。
「……退屈」
そう、本音ではない言葉を零す。薄暗い特注の教室の窓際で、優しい春風に瞳を閉じた。
フェリンは、決して人嫌いなどではない。むしろ、幼き頃に両親と離れ離れになったために、寂しがり屋だ。
それでもこうして人を遠ざけなければ、いざ自分が消滅する時、悲しくなってしまう。そう考えているのだ。
「おーう唖杉、まだ残ってたのか。もう授業もないし、どうせ一斉下校の日だ。帰っていいぞ」
男性教師に声をかけられ、クールな佇まいで向き直った。背中まで伸びた長い銀髪に、ダイヤのように美しい瞳が、夕焼けに染まり目を奪う。
要するにフェリンは、非常に優れた容姿をしている。
「分かりました、失礼します」
「おう、ご苦労さん」
「……はい」
フェリンは自身のバッグを手に取り、男性教師の横を通過し校舎の外へ向かう。まだいくらか人が残っているのが、少し気がかりだ。
「あっ、唖杉さん」
「……さっきぶり、紐滝くん。まだ帰っていなかったの?」
「うん、あの後トイレ行っててさ」
昇降口で会話を交わすこの男子生徒は、先程フェリンに告白をしていた男性生徒だ。少しばかり、気まずそうに笑っている。
紐滝クイスは、164cmのフェリンより小さいかなり小柄な男子であり、小動物のような性格で害がないことから、フェリンも心の内では気を許せている相手である。
……それでも、フェリンは自分の意思を貫く。
「守神である私はもう帰宅するわ。居残りなんてして、災厄に遭遇したらどうするつもりでいるの」
「えっと、それは唖杉さんに……」
「早く帰りなさい。私が敷地から出たら、もう守ってあげられないんだから」
「……う、うん」
悲しそうな表情を見せるクイスに、フェリンはポーカーフェイスのまま背を向ける。ただ実際は、胸が強く締めつけられるようだった。
嫌な人間と思われていい。嫌われることが、何よりも悲しまずに済む方法だ。
そう自分に言い聞かせ、学園を後にした。
「──掃除用具や実験器具などが荒らされていた程度です。当然、使い物にならなくなってしまった備品もあるので、その補充だけよろしくお願いします。……はい。それでは、また明日」
ベッドにゴロゴロと転がりながら、守神・ENDガールを管理する、国の上層部への報告を済ませる。
フェリンの自宅は、彼女以外に人は誰も住んでいないが、国から支給された二階建てであり、中は至って質素なものとなっている。
どうせ二十年も暮らさない家なのだから、無駄にものを増やす必要も、オシャレにする必要もない……と、フェリンはベッド以外、最低限しか購入していないのだ。
「ん……ツナ。ただいま。ご飯ちゃんと食べた?」
「……にゃ」
フェリンの元に、世にも珍しき、アニメに出て来そうなカラフルな猫が歩いて来た。ベッドに寝そべるフェリンの隣で、ゆっくりと腰を下ろす。
この猫の名は『ツナ』。名付け親は当然フェリンであり、実は……災厄が生んだ生物である。
ツナは特に害もなく、ただの臆病な猫だったため、フェリンが消滅させることを躊躇い飼っているのだ。大好物はミートボール。
そしてツナは何と、
「元気ないじゃにゃいか、フェリン。何か嫌なことでも、あったのかにゃ……?」
──日本語を話す。
フェリンも初めは驚いたが、災厄が生んだ生き物なのだから普通とは限らない、と直ぐに慣れた。
「元気は確かにないかも。けど、嫌なことはなかったわ。むしろ、嬉しかった……かな」
「ふぅん……? 嬉しい割には、悲しそうな顔してるけどにゃあ」
「……私を好きになっても、なられても、いいことなんて何もない」
瞳を閉じて、フェリンは続ける。胸がズキズキと痛み、苦しいのを堪えながら。
「でも、こんな私でも好きになってくれる人がいるんだって……やっぱり、嬉しいよね」
「にゃ。そりゃそうにゃ」
微笑むフェリンに、ツナはうんうんと頷いてみせる。フェリンはクスッと笑うとベッドから起き上がり、ツナを抱き上げた。
「ご飯食べよっか。ミートボール買って来たから、一緒に食べよ」
「ひゅー! ミートボール、ミートボール!」
「ふふっ」
※※
「ね、ねぇ唖杉さん。今日、一緒にお昼ご飯食べない……?」
「……え?」
昼休みに入った途端、先日冷たく振った筈のクイスが、そんな誘いをして来た。フェリンは思わず眉を曲げる。
「私は昨日、『近寄らないで』と伝えたつもりだったんだけど……」
「で、でも……諦めたくはないから」
「……そう。別に構わないけれど、特に何か話すつもりはないから」
「うん、それでいいよ。ごめんね、ありがとう」
「……」
まるで告白が成功したかのように、クラスメイト達が大はしゃぎをする。今の会話を見ていなかったのか? とフェリンは少し呆れた。
屋上に到着し、五つあるベンチの内一つに二人で腰掛ける。フェリンはコンビニで購入したパンだが、クイスは手作り弁当のようだ。小さなハンバーグが美味しそう。
「唖杉さん、それだけでお腹空かない? ハンバーグ食べる?」
「遠慮するわ。……それより紐滝くん。何で私のような性格の悪い人間に執着するの? クラスのノリに合わせているんだとしたら、迷惑だからやめてくれる?」
これ以上自分と関わってもいいことはない。フェリンはそう思うため、クイスに再び冷たい態度を取る。
しかし、
「クラスのノリなんかじゃなくて、本当に唖杉さんが好きなんだよ。真面目だし、決して人を差別しないし、何より優しいし」
「……優しい?」
「ほら、ついさっきも、『クラスのノリに合わせてるなら迷惑』って言ってたでしょう? つまり、僕自身の気持ちは迷惑じゃないってことだよね。昨日も、あれ以上学園内に残ってたら守れないって忠告してくれたし。唖杉さんは、とっても優しい人だよ」
「……ただの、気まぐれだから」
精一杯取り繕っていた心を見破られたみたいで、フェリンはちょっとだけ照れてしまう。顔を背けながら、もしゃもしゃとパンを頬張った。
パンを食べ終えたら牛乳を飲み干し、一瞬、まだ食べ終わっていないクイスが気になったが、直ぐに立ち上がった。
「私は先に教室戻るから」
「え、ちょ、ちょっと待って……! 僕も直ぐ食べるから!」
「焦って喉に詰まらせても問題だから、落ち着いて食べなさい。……はぁ」
わざわざ足を止めてしまう自分に呆れ、屋上から去ろうとした──その時。
「……っ!! 来た……!」
──グラウンドの方に、嫌な気配が現れた。