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時空FBI捜査官(仮)龍  作者: 月華
6/7

「阿部龍文、君を検非違使に任命する」

「いったい、どこのものが盗んだのだ⁉誰か、見た者はいるか⁉」

「護衛の者たちは何をしていたのだ⁉」


大内裏の中が騒然となった。

様々な怒声や混乱している様子の声が飛び交う。

盗まれたのは、会議の内容がまとまった清書本だった。

その中には何か重要な内容も入っていたらしい。

しかも、下書きの箇条書きされていたものは、別のものとして再利用されていて、もうないらしい。


え、それってヤバくね?だって、重要な内容が入っている書物だったんでしょ?

しかも、盗んだ場所が、大内裏の中の図書寮。

それって、盗んだ奴だけじゃなくて、そいつを見逃した護衛の人とか、勤めている人たちとかも罪に問われたりしないのかな?

もし、そうならば、大規模な粛清が行われることになる。

いや、でも、そんなことがあったなんて歴史の中にはなかったから、行われなかったのかな。それとも、たまたま資料が残っていなかったとか?

まあ、こんなことがあったなんて、俺も知らなかったけれど。

俺が勝手に自己解析しているうちに、話はどんどん進んでいった。


「して、どうするんですか?護衛のものは向かわせたのですか?」

「ええ。大至急、追跡中です。それと、それから、このものも、それに参加します」

図書寮のトップの人が、俺の肩にポンと、手を置いて宣言する。

え?俺も?

な、なんで?関係ないでしょ。

そう考えていると、俺にだけ聞こえるような声量で、「よく考えろ。これで功績を遺したら、君は検非違使に行けるぞ」と言ってきた。

———あ、そうか!これで、功績を残せばいいのか!

よし、頑張るぞ!

全ては検非違使になるために。

「はい!俺、頑張ります!」



さて、でも、どこに行ったらいいんだろう?

平安時代に防犯カメラなんてあるわけないし、どこに行ったなんて見当もつかない。

まあ、片っ端から探すしかないのかなー。

はあ。なんか、晴明の家で、窓を開けたことを思い出すな。

気が滅入る……。

こんなことなら、何か聞いとけばよかったな。

それも、後の祭りであるが。

はあ。本日、何回目かのため息をつく。

とりあえず、場所を移動するか。


そして俺が来たのは、大内裏の厠、つまりはトイレである。

ちなみに、この時代は「厠」ではなく、「川屋」と呼ばれているらしい。

それが、今の「厠」の語源になったとか。


ここのトイレは水洗式トイレ。つまりは汲み取り式である。

平安時代では最先端のトイレらしい。

その中でも有名なのが何といっても、秋田の秋田城跡だろ!

なんたって、あの「日本放送協会」にも取り上げられたくらいだ!

詳しくは秋田城跡の資料館に掲示されている。

無事に戻れたら、また行ってみようかな。確か、他にもいろいろなことが載っていたはずだ。

……話が逸れた。戻そう。


いやー、なんか、いったん騒ぎを起こしたら、人気のないところで整理とかしたりしないのかなー、て思って。

でも、本当に人気が無い。人っ子一人いない感じ。心なしか、厠もすたれている気がする。


犯人なんて、いなさそうだ。

あーあ。そんなにうまくはいかないか。そんな、ドラマみたいなこと。

いや、タイムスリップしている時点でアニメみたいなものなのだが。

あーもう、早くしないと他の人に先を越されちゃうぞ!

仕方ないから次、行こうかな。

次に犯人がいそうな場所を考えていると、後ろから人の気配がした。

ん……?誰か来たか?

俺はとっさに厠の陰に隠れた。

特に意味はないけれど、ただ、なんとなく。


サクッ、サクッと足音がする。

まだ遠くだからよく見えないけれど、ずいぶんと小柄だ。

身長は子供くらい。たぶん、150もないんじゃないかな。

着物は右京ではあまり見ないような貧しいもの。

———あんな格好でこんな大内裏の中を歩いていたら、一発でバレそうなのに。

なんでだ?心の中で疑問が膨らむ。

っていうか、あの人が犯人なのか?

図書寮から、書物を盗んだ。

え、もしそうなら護衛の人たち、マジで何してたの?

一発で大内裏に勤めている人じゃないって、わかるじゃん。

本当に大丈夫か?セキュリティが杜撰すぎるだろ!

俺は犯人よりもそっちの人たちを叱咤したい気持ちになった。

まあ、いい。そっちはそっち。こっちはこっちだ。

今は、あの人が犯人なのか、見極めないと。


その人に顔はよく見えなかった。何かの布で顔を覆って隠していた。

その人は俺に気づく風でもなく、厠の扉の前に立つと、きょろきょろとあたりを見回した。

そして、慎重な感じで厠の中に入る。


……明らかに挙動不審だった!今の人、絶対アヤシイ!

顔、隠してたし!

よし、中から出てきたら、問い詰めてやる!

俺は厠の扉の前で仁王立ちになった。

そして、出てくるのを待つ。


5分くらいたっただろうか。ギィッと扉が開いて中からあの人が出てくる。

「ヒッ……⁉」

そいつは俺が目の前にいたことにビビったのか、おびえたような声を出した。

ちなみに、上からめちゃくちゃにらみつけてみたよ!

だって、いきなり襲われたら怖いし。

「すみません。少しお話をお聞きしたいのですが」

「……あ、あ……」

何だ?そんなに俺が怖かったのか?

まあ、これが関係ない人だったら、失礼極まりないんだけれど。

でも、その線は低いだろう。だって、明らかに服が違っているし。


なんだろう。さっきまではめちゃくちゃ貧しそうな服装だったのに、今は頑張って一張羅を着てみました!的な。

厠で着替えとか、大内裏に勤めている人だったら、絶対にしない。

だって、ほとんどの人が貴族だもん。

「ここで、何してたんですか?」

「いや、あの、その……」

「服を着替えていたんですよね?」

「⁉なんでそれを……っ」

「なんで?あなたがここに入るのを見ていたんですよ。一部始終、きっちりとね。先ほどは貧しそうな身なりをしていましたよ。——それで、なんで着替えたんですか?」

ちなみに、カメラで動画も撮っていた。でも、それはオーパーツになってしまうから、あえて言わない。

「それは、さすがにみすぼらしい格好では出にくいから……」

「なんでみすぼらしい格好をしていたんですか?」

「……そ、そんなの、俺の勝手だろ!何なんだよ、お前!」

『俺の勝手』か……。

苦し紛れの言い訳もいいところだ。いや、そもそも言い訳にもなっていなくね?

俺でももうちょっとうまく、しらばっくれる自信がある。


ここからでもわかるように、たぶんこの人は貴族でも何でもない。

たぶん、右京の人でもない。となれば、左京に住んでいる人か?

「俺?俺は、ある人物を探している。———図書寮から書物を盗んだ、盗人を」

そいつの肩がビクッと揺れるのが目に見えて分かった。

でも、それをあえて追求せずに、どんどんと問い詰めていく。

「ねえ、知りませんか?そういう、怪しい人。目撃証言はありませんが、俺、見たらすぐにわかると思うんですよ。だって、貴族が大内裏から書物を盗むなんていうリスク……危険な目にあう可能性が高いのに、そんなことを起こすわけがないと思うんですね。だとしたら、見かけない人。つまりは貴族以外の人が混じっているのではないですか?」

俺はそいつが貴族だということを前提に話を進めていく。


後は、そいつがボロを出すのを待つだけだ。

「そ、そんなの、俺が知るわけがないだろ!」

「あれ?あなたがもし貴族ならば、分かると思うんですがね。あいにく、俺はまだ勤めてから日が浅いために、誰が貴族なのか、全員把握しているわけではないんですよ。恥ずかしながら」

「な、なんで俺が貴族の顔を全員分かると思ったんだ?」

「貴族ならば、わかりますよね?」

「も、もちろんだ」

へー、そうなんだ。わかるんだ……?……んなわけ、ないだろっ!

大体考えてもみろ!お前は帝の顔を知っているのか⁉さっきすれ違った人がどこに勤めていて、どこに住んでいるのか、わかるのか⁉

それだったら、マジで尊敬するわ。

一度はそんな才能にあってみたいものだ。

でも残念なことに、そんな能力は本当にまれなのだ。


もし、大内裏に勤めている人たち全員がそんな能力を持っているならば、平安京はもっと発展しているに違いない。

そして、この人はもっと出世しているに違いない。

「へー。それじゃあ、俺の勤めている寮がわかるんですか?……あ、でも、自分だけだと信ぴょう性がないか……。ん~じゃあ、大内裏に勤めている人たちの資料を借りてくるんで、そらんじてみてくださいよ。全員の名前と、勤めている場所を」

ついにボロを出したそいつに俺はあえて挑発してみた。

「え……!えっと、その……」

あからさまに動揺している姿を見て、俺は思わず吹き出しそうになったのを必死にこらえた。

いや、分かりやすすぎでしょ。むしろ、よく今までばれなかったな!

まあ、遊ぶのはこのくらいでいいか。

「わからないんですよね?」

うん。わからないのは、他の貴族も同じだと思うけれど、この人は、貴族はわかるのが当たり前、って思っているみたいだし。

つまり、それって、自分が貴族ではない、って言っているのと、同じじゃない?


「くっ、くそっ!」

相手はいきなりそう叫ぶと、俺に背を向けて走り出した。

おいおい、何このベタな展開。本当にそんなんで逃げ切れると思ってんの?

思わず口元が緩んだ。

でも、背を向けられたままだと柔道の技をかけることはできない。となると……。

俺はそいつの襟を思いっきり引っ張った。

無理やり俺のほうに向かせるまでだ!

「ぐえっ!」

相手からカエルがつぶれたような声がした。だけど、そんなことはお構いなし。


後ろに引っ張るのと同時に俺のほうに向かせ、そのまま背負い投げをする。

「どしんっ」という、いかにも痛そうな音があたり一帯に鳴り響いた。

うわー、痛そう。受け身取らずにもろ入ったな。大丈夫か?

「おーい、生きていますか?」

一応声をかけてみたけど、返事がない。慌てて息を確認すると、かろうじてだが、息をしていた。

何だ、気を失っただけか。

————さて、これからどうしよう。

どう言い訳するか悩んでいたところ、タイミングよく騒ぎを駆け付けた人が集まってきた。

お、ラッキー。ジャストタイミング!


「おい!そいつが犯人か!」

「はい。逃げようとしていたので、捕まえときました。その時に少々やりすぎてしまったみたいで、気絶してしまったのですが……」

とりあえず、事後報告。報連相は大事だよ!

「よくやった!大手柄だ!……おい、そこに転がっている奴を連れて行け」

男は気絶したまま連行されていった。

後の処分は上が何とかするだろう。俺には関係ないことだ。

「これでよし。……ところで君は?」

今更っ⁉え、何、俺、今まで認識されてなかったの?ただの大内裏に勤めて、たまたま犯人を捕まえた人、みたいな?

はぁー、ショックだわ……。いや、マジで。

「……阿部龍文です」

「ああ!あの、安倍晴明の!」

……それだけで伝わるんだ。なんか、俺の知名度って、晴明によるもの?うれしいような、悔しいような……。

まあ、いい。これから上げていけばいいんだ。

「話は聞いているよ。これで功績を上げたら、検非違使に昇格するように、と」

そう!そうなの!検非違使になるために俺はこの盗人を捕まえたんだ。

んで、結果は?これで不採用、とか言われた日には、晴明とかに顔向けできないし、何より平安京での居場所がマジでなくなる!

「そ、それで、結果は……?」

恐る恐るきいてみると、「ちょっと待ってて」と言われた。

そして、何人かの人を呼び、なんか話し合いを始めた。

その中には道頼や、正成もいた。

何について話しているのかは、きこえなくともすぐにわかった。

俺の合否について話し合っているのだ。


え、これ、今この場で決まる感じ?もっときちんとした会議にかけるとかじゃなくて、ほんのちょっとした話し合い的なので俺の運命が決まるの?

不安しかない。

不安が自分の中で渦巻いているのがわかる。

何分かすると、話し合っていた人たちが解散していくのが見えた。結論が出たらしい。

「君の合格が決まった。——今日から、阿部龍文、君を検非違使に任命する」

っ、やったー!

え、マジで?俺が検非違使?し、信じられない!

数日前までただ京都に来ていた修学旅行生だった俺が、検非違使になるなんて……!

夢にも思わなかった。

「これから頑張ります!」



「よかったな、龍!」

騒ぎが落ち着いて、俺の勤める先も無事に決まったところで、芳宗が声をかけてきた。

「はい!ありがとうございます」

「いやー、新人だから、最初はうまくかないことはわかっていたが、まさか、読み書きができないとはな」

「あ、あははは……」

いや、笑い事じゃ済ませられないんだけど。

「でも、晴明はお前が読み書きできないことを知らなかったのか?」

「たぶん……。すみません。そこまで俺、話してなかったかもしれないです」


本当は、読み書きできるけど、残念ながらこの時代の書物は読めないだけなんだけど、そんなことを言っても始まらないので、素直に俺は謝った。

芳宗は俺の回答に怪訝そうな顔をしたけれど、気にしなかったようだ。

「それにしても、すごかったよな。どうやってあの盗人、捕まえたんだ?しかも気を失ってたし」

「あー、それは、逃げようとしたのを後ろからこうやって、こう……」

と俺は身振り手振りで柔道の投げ技を説明しようとしたが、芳宗にはよく伝わらなかったようだ。

「……ふーん。なんかよくわからないけど、さすが晴明の弟子だな。すんごい技使えるんだな……!」

あれ?なんか芳宗の目がキラキラしてる。

これ、現代風に言うと、リスペクトされてる?俺?

少女漫画だったら、絶対目に星が飛んでるやつだ。気持ちわる!


俺はドン引きながら、じりじりと後ろに下がりつつ、「いや、そんなにすごくないですから」と言い訳しつつ、少しずつ間合いを取った。

「そ、そういえば、俺もう帰ってもいいですか?今日は盗人も捕まえたし、疲れたんで……」

ここはもう、逃げるしかないでしょう!

俺は芳宗の返事もろくに聞かず、「お疲れさまでした。明日から検非違使で頑張ります」

と言い捨てて、文字通り逃げ帰った。

———助けて!晴明!俺に昼ごはん、作って!


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