第4話 恋のキューピット
「相談がある」
翌朝、席に着くなり神妙な面持ちをした速川にそう言われ、俺達は体育館裏へと足を運んでいた。
「相談って何? もしかして俺と絶交したいとか?」
「伊代……真面目に聞いてほしいんだ」
普段より声のトーンが低い上に、珍しく真剣な表情をしている速川。なるほど、おふざけを求めてるわけじゃないんだなと、俺は頷く。
「実はさ、俺――一道のことが好きなんだ!」
「……………………え?」
「いやだから! 一道のことが好きなんだよ、俺!」
「うん、それはわかった、わかったけど…………惚れる要素なくね?」
俺が率直な疑問をぶつけると、速川はわざとらしく溜息をついて「わかってねーなー」と零した。
「顔も可愛くて頭も良い、まさに文武両道、それでいて――」
「それでいて?」
「性格……良すぎでしょ」
「……良くないでしょ?」
恥ずかしそうにしている速川には申し訳ないけど本気で理解できない。え、マジで何言ってんの? 外見だけならまだしも内面まで含まれてるとか、ギャグでも笑えないからね? とてもじゃないけど一道の性格は褒められたもんじゃないからね? 生粋のマゾとかだったら話はかわってくるけれども。
「伊代は一道と仲が良すぎるから慣れちまっただけで……俺からしたらご褒美みたいなもんだぜ……あんなに罵られてよ」
いや生粋のマゾなんかあああああああああいッ!
あ、でもそれなら納得できるかな。要するに俺の友達が実は蝋を垂らされ鞭で引っ叩かれ最終的には三角木馬の上で真っ白に燃え尽きたいと。うんうんなるほどそういうことね――ってどういうことねッ⁉
想い人の名を口にしたからか、それとも性癖を暴露したからか、速川は顔を赤くし指をいじりながらもじもじしている。
その姿を目にして、俺の脳裏に昨日の出来事が浮かぶ。
羨ましすぎんだろってそういうことおおおおおおおおおおおおッ⁉
「あぁ……一道マジ悪魔!」
恍惚とした表情で自分の体を抱く速川。その眼は俺を見ているようで見ていない。完全に自分の世界に入っちゃってる。
「あ、あはは…………ま、まぁそのなんだ、頑張って。陰ながら応援してるから」
これ以上関わるのはまずい。俺は無難なエールを残して来た道を引き返そうと速川に背を向ける――が、
「待ってよ伊代ぉ」
「――ひぃッ」
ガシッ、と物凄い力で両肩を掴まれてしまう。
「なななななななに?」
「俺と一道の関係を発展させるために協力してよぉ、友達だろぉ?」
「お、俺なんかじゃ力に――」
「なれるよぉ。伊代はさぁ、秋水とも仲がいいだろぉ? 一道と仲いい同士で協力してさぁ……なぁ? 頼むよぉ」
「いやでも――」
俺が断ろうとした刹那、
「お願い、だよぉ」
荒い息遣いと共に耳元でそう囁かれた。
いやああああああああああああああああぁぁぁッ!
***
悪夢のような朝から少し経ち、一時限目休み。俺は清香に「相談がある」と体育館裏へと呼び出していた。
「相談って何かな? あ、もしかしてあたしに告白? ようやく好きになってくれたの?」
「清香…………真面目に聞いてほしいんだ」
「あたしは至って真面目に言ってるけど?」
「……え?」
清香の思わぬ切り返しに俺の口から素っとん狂な声が漏れてしまう。
その様があまりにも滑稽に映ったのか、清香はクスクスとからかうように笑った。
「冗談だよ。だからそんな困った顔しないで」
「勘弁してくれよ、冗談でも心臓に悪いから」
俺はホッと胸を撫で下ろす。清香は時折、明らかに冗談であろうことを冗談ぽくない雰囲気で言うから恐ろしい。
「それで、相談って?」
「……実はな――――――」
そこで俺は朝での件の必要な部分だけを抽出して清香に伝えた。速川が一道に好意を抱いていること、関係発展のために俺と清香に協力を仰いできたこと、そして最終的に俺が泣く泣く受け入れてしまったことを。
「――というわけなんだが、どうしよっか?」
「どうしよっかって、いーくん既に引き受けちゃってるじゃん!」
「う、うん」
だ、だってぇ、断れなかったんだもん! あそこで突っぱねてたら俺きっと殺されてたもん! サイコホラー映画みたいな展開だったていうか、速川自体がサイコホラー映画みたいなもんだったもん! もうもんがもんでもんみたいなもんだったんだもん!
「やっぱ、駄目か?」
「う~ん、協力したいのは山々なんだよ? 他ならぬいーくんの頼みだしね! でも……う~ん」
清香の発言はおおよそ肯定的と取れる。が、歯切れがいいとはお世辞にも言えない。
「何か引っかかることでも?」
「引っかかるというか……凪ちゃん、がさ……」
凪ちゃん、というのは一道や清香とよくつるんでいる二渡凪のことだろう。ポニーテールと男勝りの大雑把な性格が特徴の。
「二渡が?」
俺が続きを促すと、清香は決まりわるげに笑った。
「凪ちゃんさ、凪ちゃんはさ…………速川君のこと、好き、みたいなんだよね」
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