第19話 お疲れ、俺
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
米粒一つ残さずに完食した一道。こんだけ綺麗に食べてもらえたらそりゃ作った側として満たされるものもあるわけで、つい頬が緩んでしまう。
「にやにやしてどうしたの? 木塚君」
「……別に、なんもねーよ」
「意味もなく笑っているということね気持ち悪い」
喜びも束の間、一道は自分の体を抱くようにし、座ったまま器用に後ずさる。
見事に上げて落とされちゃったよ、心のツームストンパイルドライバーくらっちゃったよ。まぁ確かにね、理由なく笑ってる人が目の前にいたら不気味で気持ち悪いと思うのは無理ないけれども、なんとなくこう察しませんかね? 流れからして。
「じっと見つめてなに? ――ま、まさか私が可愛いからって襲うつもりじゃないでしょうね⁉」
だめだこりゃ。
思いが通じないどころか盛大に誤解されてしまう始末。俺は自惚れ一道に「そんな気さらさらねーよ」と呆れを隠さずに返し、食器を片づけ立ち上がる。
「あら、拗ねちゃったのかしら?」
「んなわけ。さっさと職務を終わらせてお家に帰ろうってだけだ」
「そう。あ、キッチンにいくならついでにアイス取ってきてちょうだい」
「食後すぐに甘いものか?」
「スイーツは別腹ってよくいうでしょ? それよ」
「腹がいくつもあったらそいつはもうクリーチャーかなにかだよ……太るぞ?」
「生憎と太りにくい体質なのよね私。だからデリカシーのない発言して自分がモテないアピールしなくても結構よ木塚君。そんなこと、とうにわかっているから」
クッソ、一矢報いてやろうと思ったら倍になって返ってきやがったぞチキショウ!
「……わかったよ。取ってくる」
「最初から素直に従いなさい」
彼女の言葉を背に受け、俺はキッチンへと向かった。
……バニラでいいか。
皿洗いを済ませ、冷凍庫からカップアイスを取り出し一道の元に。
「ほいよ」
「ありがとう」
「一応、スーパーに行く前に風呂沸かしておいたから、あっためなおして入ってくれ」
「ええ」
「んじゃ、今日のところはこれで」
「ええ。また明日もよろしくね」
アイスを堪能している一道に俺は別れを告げて部屋を後にした。
時刻は20時18分、閑静な住宅街とあって外はやけに寂しく不気味だった。
……念の為だ。
俺はスマホを取り出し一道に『戸締りちゃんとしとけよ』とメッセージを送る。
『帰りにアイス買ってきて』
するとスマホがすぐに振動、俺は返信早いなと確認するが送り主は一道ではなく妹だった。
家事代行が終わったと思ったら今度はお使いクエストって……。
夜道を一人、肩を落として俺は歩く。
こうして記念すべきお世話係の初日が、終了した。




