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第10話 作戦開始

 本日の予定、映画館からの遅めのランチからのカラオケ。


 速川と二渡には『二人でゆっくり話せる機会を設ける』と事前に伝えてある。


 映画館では速川と一道、ランチでは速川と二渡、そして最後にフリートークタイムの場としてカラオケを選んだ。婚活パーティーの流れをネットで調べ、応用しただけのプラン。


 てなわけで。


「席はどうする? 一道さんはやっぱ端?」


 俺は横にずれ、自動券売機の画面に映し出されている座席表を四人に見せる。


「そうね、端がいい。あと、できれば後列がいい」

「おけ、んじゃ一道さんはここで、その隣に速川、真ん中が清香で、俺、二渡の順でっと……それでいいよね?」


 そう清香に確認すると、


「うん! いいよ! 皆もこれでいいよね?」

「おう! 構わねーよ!」


 簡単に賛同が得られた。


「別に、いいけどさ」


 反対意見が誰一人としていなかったからだろう、口元を尖らせ見るからに渋々といった様子の二渡だったが、異論を口にはしなかった。


 気がかわられでもしたら困るのでささっと購入し、発券されたチケットを皆に。


 そして各自がポップコーンやら飲み物やらと好きな物を買って、いざ館内へ。


「なぁ一道、『恋を愛する』っておもしれーの?」

「速川君は馬鹿なの? 私は観てみたいとは言ったけれど、観たとは一度も言ってないわ。観てもいないのに面白いかどうかの判断がつくと思う? お願いだからよく考えて質問して」

「ぬふッ! じゃ、じゃあ気になってたからってことだよな?」

「当たり前でしょ。逆にまったく興味ない映画を観に行こうってなる?」

「な、なんねーよな。あ、ポップコーン食べる?」

「手がベタつくからいらない」

「そっか。じゃあかわりに俺のメロンソーダでも――って間接キスになっちまうか! ごめんごめんッ!」

「さっきからなに? ひどく耳障りなのだけれど。映画館は静かにする場所と今まで誰からも教わる機会がなかったの?」

「いや知ってるけど」

「ならその醜い口を閉じてなさい」

「おふッ」


 席に着くなり速川が一道にしかけるが、結果は見事に撃沈。


 恋愛に発展するビジョンがまったく見えないが、本人は満足そうだし成功ということで。


「な~に『やり遂げました!』みたいな顔しちゃってんの木塚ぁ」


 恨めしげな声に顔を動かせば、ジト目をした二渡が。


「話が全然違うんですけど~」

「待て待て、これも作戦の内なんだよ」

「取ってつけたような嘘にしか聞こえないんですけど~」

「ホントなんだって! いいですかよく聞いてください? これから観る『恋を愛する』は青春恋愛映画なんですよ。んで、その手の物語を見終えた後ってどういう気持ちになると思います?」


 俺の問いに「う~ん」と思案気な顔して唸る二渡。


「恋愛がしたくなる、かな?」

「そうその通り! 余韻に浸っちゃうんだよ! つまりあと2時間もしないうちに速川は猛烈に恋したくなっちゃう状態になるってわけ。この映画イベントは単なる前哨戦ってこと、だからそう焦んなって」

「でも『恋を愛する』を選んだの真琴じゃん」

「あれはたまたまなんだよ。本来なら俺の口から出てた。まさか、一道さんと被るなんて」

「……信じるからね?」

「任せとけ! それより、もう始まるみたい」


 他作品の紹介やパントマイムも終わり、辺り一帯は更に暗くなった。


 二渡の言う通り、取ってつけた嘘だったけど……何とかなるもんだな。


     ***


 二時間後、俺達は比較的開けた場所に移動してきたていた。


「一道、ありがとな? 俺をあの映画と出逢わせてくれて。むちゃ感動したし超泣いちゃったよ」

「そう、それは良かったわね? ちなみに私はまったく頭に入ってこなかったわ。あなたの嗚咽と咀嚼音があまりにもうるさくて」

「しょうがねーだろ? 我慢できなかったんだからよぉ。それにポップコーンが美味かったんだよぉ……」

「はぁ。また一人で観にこよ」


 相変わらず恋の匂いを微塵も感じさせない速川と一道。


 一方、清香と二渡は、


「恋したい! 恋がしたいよ清香ッ!」

「そうだね! 凪ちゃん!」

「あんな彼氏が欲しいッ! 欲しくなっちゃったよ清香ッ!」

「そうだね! 凪ちゃん!」


 手を合わせてキャッキャウフフしている。


 確かに。〝視覚からの情報を遮断〟していたとはいえ、聴覚から得る情報だけでも泣けるストーリーであることはわかった。ちゃんと観てたら俺も泣いてたかもしれない。


 さてさて、誰が俺を〝イジってくれるのかしらん〟?


 しばらくもしないうちに清香が俺の期待に応えてくれた。


「それにしても……いーくん、〝寝てた〟でしょ?」

「は⁉ 木塚寝てたの?」


 清香の傍にいる二渡が驚きを露わに。


「い、いや? そんなことは、ないけど?」

「じゃあどの辺が良かったか言ってみて?」


 と、清香が。


「えっと、主人公がその、余命三ヶ月のヒロインに泣きながら告白するシーンとか? あれは心に刺さったよな?」

「そんなシーンなかったし、主人公、女の子だよ?」


 じーっと俺を見つめてくる清香。


「さすがにないわ、伊代」

「速川君に言える筋合いはない、と私は思うけれど、それでもまだマシね、彼よりは」


 気付けば速川と一道も参戦し、四人から冷ややかな視線が向けられる。


 なんか、想像してたのと違うんだけど……ま、いつかは笑い話に昇華するだろう。


「すいません。爆睡してました」


 そう前向きに捉え、俺は深々と頭を下げた。

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