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第95話 ドワーフの町へ ~夜の道~

「アイシャ、前半の夜警は頼む。何かあればすぐに起こしてくれ」


 夜警をアイシャに任せて、俺は荷馬車の下で毛布に包まって眠る。

 夜半頃だろうか、アイシャに起こされた。


「ユヅキさん、近くに獣がいるの。魔獣かどうかは分からないわ」

「数は?」

「1匹よ。カリンは起こさなくても大丈夫だわ」


 俺は剣を構えて、獣のいるあたりを見つめる。

 虎か豹のように見えるが、相手もこちらを警戒しながらゆっくりと歩いている。小川の方に歩いていき、そのまま姿を消した。川に水でも飲みに来たんだろう。


「もう大丈夫そうだな。アイシャ、交代するよ。そこで寝ていてくれ」

「そうね。それじゃ後はお願いね。ちょっとでも異変があったら起こしてね」

「ああ、おやすみ」


 その後は何事もなく朝を迎えた。俺が朝食の準備をしているとカリン達が起きだしてきて手伝ってくれる。


 朝食の後、俺とアイシャは荷馬車の中で眠り、カリンに御者台で警戒してもらう。

 多分今日は盗賊の心配をしなくていいだろう。今後の事を考えて休める時に休んでおこう。

 カリンとゴーエンさんには交代で馬車を進めて、できるだけ距離を稼いでもらう。


 翌日も盗賊に襲われる事はなく、馬車を進める事ができた。


「ユヅキさんよ、明日ぐらいには盗賊が動き出すかもと言っておったな」

「そうだな。帰ってこない仲間を発見していたら、明日襲って来る可能性があるな」

「じゃから、今夜のうちにここを出発しようと思う」


 今から食事をして馬を休ませて、夜半に出発すると言う。確かに昼間だと盗賊に発見されやすいが、夜道も危険だ。


「ワシらドワーフは夜目が利く、少しの明かりがあれば夜も走れる。明日の昼には町に着けるじゃろう」


 夜、カリンに馬車を走らせることはできないから、ゴーエンさんひとりで馬車を操る事になってしまうな。


 こんな事なら俺も馬の扱いを覚えていた方が良かったな。必要に迫られてではあるが、こちらの世界に来て言葉や文字、その他多くの事を覚えてきた。

 学校で習うような勉強とは違う、俺自身が生き抜くための勉強だ。だがまだ足りないということか。


 夜半まで仮眠を取り、ゴーエンさんに荷馬車を走らせてもらう。

 御者台に2人が座り左右からランプで道を照らしながら警戒をする。その間もうひとりは荷馬車の中で休憩だ。3人で交代しながら、ゴーエンさんを補佐する。


「ゴーエンさん、明かりはこの程度で大丈夫か?」

「ああ、それでいい。この街道ならちゃんと馬を走らせられるよ」


 林の中から獣の声が時折聞こえてくるが、こちらを襲ってくる気配はない。盗賊も俺達が夜に馬車を走らせるとは思っていないだろう。


 夜が明けて朝日が昇る頃。馬を休ませて、すぐに出発する。


「ゴーエンさん。ここからは私が馬を走らせるわ」

「そうかい。すまんがカリンさんに頼むとしよう」


 一晩中走り続けたからな。ゴーエンさんも疲れただろう。カリンもこの馬車に慣れて来て、ゴーエンさん並みに馬を走らせられる。ここはカリンに任せよう。


「カリン、この先にある王都の道との合流地点が一番危険な場所だ。それまでしっかりと馬車を操作してくれ」

「ええ、私に任せなさい」


 盗賊が来るとするなら、王都への街道に現れたと言う盗賊達だろう。林の中を突き抜けてこちら側に来るか、王都への合流地点で待ち伏せてるかだな。俺とアイシャで前後を警戒しつつ馬車は走る。


「あれが王都への合流地点みたいよ」

「盗賊はまだいないようだな」


 幸い誰の姿も無い。荷台で休んでいたゴーエンさんも起きて来て、御者台から周辺を覗う。


「あの地点を越えて、坂道を登ればハダルの町だ。カリンさん、御者を代わろう」


 するとアイシャが後方の異変を知らせる。


「遠くだけど、土煙が上がっているわ。盗賊の集団のようよ」


 俺達を襲うため、林を抜けてこの街道にやって来たようだな。合流地点を越えてさらに進むと、王都への道の向こうにも土煙が見えた。二手に分かれて俺達を追ってきたようだな。

 やはり盗賊団か、人数は多そうだ。だが、俺達の方が一歩早かったようだ。坂道を上ると、ドワーフの町の城壁が見えて来た。


「ここまで来れば、もう大丈夫なようじゃな」


 坂の上から後ろを振り返ってみると、ふたつの街道の先に土煙が見えて何かの集団が移動しているのが見て取れる。

 この道に詳しいゴーエンさんがいてくれて助かった。町に入れば、もう襲ってくることはないだろう。


 ドワーフの町は城壁で囲まれていて、魔獣などから町を守っている。小さな村以外は大戦の頃に作られた城壁があり、それを補修しながら今も使っているらしい。

 ハダルは小さな町と聞いていたが城門は立派で、ドワーフ達が作ったであろう鉄と木でできた頑丈そうな城門だ。

 俺達は開いた城門の中に入っていく。


「お、お前達スハイルの町から来たのか」


 交易の途絶えたスハイルからの来訪者と知り門番が驚いているようだが、通行料を受け取ると俺達を町の中に入れてくれた。

 町中をゆっくり走り、ゴーエンさんは一軒の家の前に荷馬車を停める。


「ワシはここの親戚の家に厄介になる。しばらく滞在するが帰るまで時々連絡するようにしよう。あんた達は宿屋に泊まるのだろう」

「ああ、そのつもりだ。宿屋はどのあたりにあるんだ?」

「この道の先に食事処がある、その近くに宿屋が何軒かある。今も営業しているはずだ。宿が決まったらワシの所に来てくれ。それまで荷物は馬車に積んでおくから、必要なものだけ持っていけばいい」


 手持ちの武器以外は、馬車に残しておこう。


「ゴーエンさんは疲れているだろう、ゆっくり休んでくれ。俺達は夕方頃にまたここに来るよ」

「ああ、それじゃまたな。ありがとよ」

「こちらこそ、無理をさせてすまなかったな」


 ゴーエンさんと別れて俺達は、食事ができる場所を探す。閉まっている店が多いようだが、 ゆっくりできそうな店に入り、ホッと息をつく。

 一晩走ってきて腹も減っている。しっかりとした食事を摂ってから宿屋を探そう。


 客は少ないな。ゆっくりできていいが、俺達が珍しいのか店員もこちらをチラチラ見ている。盗賊のせいか旅人や行商人の姿はない、店員も客もドワーフの人達だけだ。

 腹も膨れて近くで宿屋を探したが1軒しかなく、しかも今は満室で夕方にならないと空きがないと言われてしまった。


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