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第87話 風呂作り2

 エギルから、風呂釜の部品が完成したと連絡を受けた。


「ユヅキ、注文の品ができたぜ」

「お~、これだこれ」


 湯を沸かす風呂釜のタンクだ。金属製のタンクから2本の給排水管が飛び出ている。炎が当たる底面も波打たせて、効率よく湯が沸くようにしている。

 最初、全部が金属製の鉄パイプを使ったボイラーのような物にしようとしたが、金属は高い。石釜を手作業で作って、その中にこのタンクを入れた方が安上がりになるそうだ。


「お湯を沸かす物だと聞いたが、変な形のやかんだな」

「まあな。この飛び出ている筒にも水が入るが、水漏れは大丈夫か?」

「溶接部分も確認しているし、ならし作業もできてるからすぐにでも使えるぞ」

「ありがとう。さすがエギルだな、風呂ができたら入りに来いよ」


「フロ?」と変な顔をしていたが、俺はタンクを持ってタイル職人のゲレルの工房に行く。


「ゲレルいるか?」

「よう、ユヅキ。この前言ってたフロのことか?」

「ああ。タンクができたんでな、打ち合わせに来た」

「なるほど、ここの四角い2本の管に配水管を取り付けるんだな」


 持ってきたタンクをしげしげと眺めて、手持ちの配水管と接続している。


「それとな、フロガマは別の職人で暖炉を作っている奴にしてもらう。ユヅキの図面だと暖炉の作りに似ているそうだ」


 そうだな煙突もあるし、暖炉や薪ストーブと同じような物かもしれんな。


「俺が先に行って壁に穴を開けて、そのタンクに接続できるように配水管を取り付ける。その翌日に職人が位置や高さを調節して釜を作る段取りだ。それでいいか?」

「ああ、それで頼む。それと食堂にあるかまどの修理も一緒に頼むな」


 後回しにしていた、かまども今回一緒に修理してもらう。これで料理も作りやすくなるな。


「かまどの修理は1日目で終わらせるようにするよ。工事開始予定は3日後だったな。それでいいか」

「ああ、よろしく頼む」


 もうすぐ風呂ができると、ルンルン気分で家に戻る。

 早速洗い場に行って、風呂釜の位置や穴を開ける箇所に印を付けておく。

 この事は隣町の大家さんに了承も得ている。前に井戸を部屋中に入れる時も聞いたが、使い勝手のいいようにしていいと言ってくれた。



 岩を積み上げた浴槽も、今日中には完成する。もうすぐ木工職人のグラウスに頼んでいたスノコと手桶もできるはずだ。明日の仕事帰りにでも寄ってみるか。なんだかワクワクしてきたな。


「最近ユヅキさん、ものすごく機嫌がいいわね」

「ユヅキ。いつもにも増して、にやけた顔してて気持ち悪いわよ」


 うん、うん、カリン。今は何言っても怒らないぞ。


「もうすぐ念願の風呂ができるからな。アイシャもかまどが修理できて嬉しいだろ」

「ええ、それはそうね。使えなかった所が使えるから、料理が早くできるわね」

「私、洗い場の隅の四角い大きな箱が邪魔になるんだけど」

「今でも洗い場は充分広いじゃないか。洗濯も水浴びもできてるだろう」

「でも、なんか邪魔なの」


 カリンの奴が我がまま言ってやがるが、そんなのは気にしない。明後日からは工事が始まる。その翌日には風呂に入れるぞ~。



「ほほう、これがフロか。思ってたよりでかいな。ここに水を張るのか」


 風呂工事の日、朝からゲレル達職人が来てくれた。


「そうだ、いいだろう。で、ここの壁に穴を縦に2つ開けてほしい」

「フロガマのタンクを見せてくれ。それに合わせる」


 タンクを手渡して、後は職人達に任せる。食堂の方でも、かまどの修理が始まっているようだな。

 かまどは半分以上が叩き割られていて、近くでアイシャが心配そうに見守っていた。


「アイシャ、大丈夫だよ。後は職人達に任せよう」


 俺達は2階の部屋に上がって、工事の邪魔にならないようにする。

 夕方前には、工事が終わって1階に降りてみると、かまどは土台部分から綺麗に仕上がっていた。上下色違いの煉瓦で、形も最新の四角いデザインに変わっている。


「ユヅキさん、すごい、すごい。こんな綺麗になるなんて」


 アイシャも喜んでくれて、俺も嬉しいよ。

 風呂の方はどうなったかな。


「ユヅキ、これでどうだ」


 浴槽の壁に四角い配管の穴が開いていて、配管口には網が付いている。

 穴の周りは綺麗にタイルがカットされていて水が漏れないようにしてある。


「完璧じゃないか。すごいな、さすがプロだ」

「おう、気にってくれたか。じゃあ、また明日来るよ」

「ありがとな」


 いよいよ明日、風呂釜を作れば完成だ。アイシャは早く新しいかまどが使いたいらしいし、今晩は早めの夕食にしよう。


 翌日、アイシャとカリンに冒険者の仕事に出てもらい、俺は休みをもらった。

 ゲレルが風呂釜を作ってくれる職人を連れてきて、裏庭の壁から配管が突き出た場所に案内する。


「ここに暖炉を作れということか。家の外に暖炉とは変わったことを言うやつだな」

「まあ、ユヅキのやる事だからな。この場所にこの図面の釜を作ってくれ。昨日俺が作った配管は、釜に合わせて短くしてこのタンクを繋げる。うまくできそうか?」

「釜は2段になっている。1段目ができて、そのタンクを繋げるときに呼ぶ」


 来てくれた暖炉職人は大柄の熊の獣人で、必要なことしかしゃべらない無口な人だったが腕はいいそうだ。

 後はその職人に任せて、俺とゲレルは室内に戻りテーブルに座ってお茶を飲む。


「ところで、あのフロと言うのはお湯を沸かして、その中に人が入るということだが、そんなに良いものなのか」

「ああ、そりゃーいいもんだぞ。水浴びとは全く違って、その日の疲れが吹っ飛ぶ。俺の国では毎日入っていたんだぞ」

「ほほう、毎日とは贅沢なもんだな。薪代もかかるだろうし、新しい釜とかも相当金がかかったんじゃないか」

「そうだな。だが風呂自体は俺が自分で作ったし、金属のタンクも小さい。思ったより金は使わなかったぞ。でもそれだけかけても、作る価値はあるんだよ。完成したら一度風呂に入りに来いよ」

「ユヅキがそこまで言うんなら、一度入らせてもらおうか」


 釜の1段目ができたそうで、ゲレルが配水管にタンクを繋げてくれた。


 夕方前には風呂釜も完成し、井戸からの水を張って試運転をする。風呂の排水口から温かいお湯が出てきて、水漏れも無いようだ。

 風呂釜の火力を調整する蓋の扱い方も教えてもらったし、これならちゃんと使い(こな)せそうだ。


「完成だ。ありがとう」


 感動して風呂釜を作ってくれた職人と両手で握手して、ブンブンと上下に振る。暖炉の職人は変な奴だなという顔をして帰っていった。

 いい湯加減になってきたところでアイシャ達が帰ってくる。


「アイシャ、おかえり。すまないがお風呂ができたところなんだ。先に入りたいんだが」

「ええ、いいわよ。夕食を作っておくわね」

「ええー、先に水浴びしたい」

「カリン、それなら一緒に風呂入ろうか?」

「なに言ってんのよ、この変態。さっさと入ってらっしゃい!」


 この世界に来て初めての風呂だ。感動しながら湯船に浸かる。


「うぉー、これはいい。やっぱ日本人は風呂だね~」


 いい湯加減に、ゆったりした浴槽。大人ふたりは余裕で入れるな。これは贅沢だ。腕を横に広げてのんびりと、湯気に煙る洗い場全体を眺める。

 浴槽の外にはスノコを敷いて床が冷たくないようにしてある。木の手桶も、木の椅子もいい香りだ。

 最高だね。


 風呂を上がって、火照った体を冷ましつつ食卓につく。


「ユヅキさん、なんだか幸せそうね」

「ちょっと、そのシャツ一枚の格好何とかしなさいよ」


 いいよ、いいよ、カリンが何を言っても構わんさ。今は最高の気分だからな。


「私も後で、おフロ入ってみようかな」

「それじゃ入る前に、風呂の入り方を説明しとくよ」

「アイシャ、やめといた方がいいよ。人を煮るんだよ」


 そう言うカリンも洗い場に入ってきて、一緒に説明を聞いている。


「まず、この手桶でお湯をすくって体にかける。浴槽は少し高いから、ここの階段を使ってくれ。中で少し寝るようにして肩までお湯に浸かるんだ」


 お風呂のマナーなどを話した後、アイシャが浴槽の中に手を入れる。


「少し熱いわね」

「そうでしょ、アイシャ。やっぱりやめといた方がいいよ」

「そうか、少し冷めてぬるくなってるんだがな。慣れてないならこれぐらいの方がいいかも知れんな。体を洗う時はこの木のスノコの上で洗ってくれればいい」


 あとは石鹸もあればいいんだが、あれはすごく高い。残念だが今の俺では買えんな。

 ひと通り説明した後、一旦外に出て、アイシャとカリンは着替えを持って洗い場に入っていった。結局カリンは水浴びだけにしたようだな。


「アイシャ、どうだった」

「ユヅキさん、おフロなかなかいいわね。体がポカポカしてきた」

「そうだろ、そのままベッドに入れば、ぐっすり眠れて疲れも取れるぞ」

「カリンも今度入ってみたら」

「アイシャが、そう言うなら今度私も入ってみようかな」

「そん時は俺も一緒に入ってやるよ」

「何言ってんのよ、このバカ!!」


 そう顔を真っ赤にすんなよ。本当に風呂はいいんだからな。今度ゆっくり入ってくれ。




お読みいただき、ありがとうございます。

今回で第2章は終了となります。


次回からは 第3章 ドワーフ編 です。お楽しみに。


ブックマークや評価、いいね など頂けるとありがたいです。

今後ともよろしくお願いいたします。


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