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第83話 カリン、冒険者をしてみる

「アイシャ、カリンの事どうしたらいいと思う」


 親子喧嘩して今は2階に泊まっているカリン。親友のアイシャならいい解決策を考えてくれるだろう。


「そうね。昨日の話を聞くと、カリンは自分だけで働きたいみたいだけど、お父さんがかなり心配しているようね。カリンは今まで家の手伝いばかりで、外で働いたことないから」


 3人兄弟だが娘はひとりだ。トマスさんも手元で大事に育ててきたんだろう。


「でもいずれはカリンも家を出て働かないといけないんだろ。それはトマスさんも分かっていると思うんだが」

「そうね。それならここで一人暮らしをしてもらったら、いいんじゃないかしら」

「ここで?」


 一人暮らしと言っても、俺達がいるしな。そう言うとアイシャは今泊まっている空き部屋に、下宿人としてカリンを住まわせてみようと言ってきた。


「家賃も払ってもらって、食事も自分で作って、働いて受け取ったお金をどう使うか自分で決めるようにしたら、カリンも現実的な事が分かってくるんじゃないかしら」

「なるほどな。実際に体験すれば、今後の具体的な方向も分かってくるということか……」

「カリンが酒場の仕事から帰って来たら、私から話してみるわ」


 カリンはアイシャの話を聞いて、「それはいいわね」とここの部屋を借りると言ってきた。元々下宿屋をしていた家だ。設備的にも問題は無いだろう。これからはしっかりと現実を見て、生活してもらいたいものだ。


 そんな話をした翌朝。カリンがバタバタと2階から降りて来た。


「私、冒険者になる」


 またこの子は、突拍子もないことを言い出したぞ。


「あのね、カリン。冒険者ってそんなに簡単なことじゃないのよ」

「分かってるわよ、最初っから魔獣を倒しに行かないわよ」


 いや、こいつは何も分かっていないな。


「それじゃあ、冒険者ギルドに行ってくるわね」

「どうしよう、ユヅキさん」

「まあ、何事も経験だ。そのままやらせとけ」


 俺達もカリンの後を追って冒険者ギルドに行くと、カリンは早速冒険者登録を済ませたみたいだ。


「ほら~、これが私の冒険者プレートよ。すごいでしょう」


 ほんと、能天気なやつだな。


「ほれ、依頼書の見方から説明してやるから、こっちに来い」


 アイシャがカリンでもできそうな、薬草採取の依頼を見つけて依頼書を手渡した。

 ルンルン気分でカリンが受付窓口で依頼書を出して、初めての依頼を受けたようだ。


「カリン、くれぐれも危ない事しないでね。山奥まで行っちゃダメだからね」

「大丈夫よ、アイシャ。じゃあ行ってくるわね」


 その後ろ姿を見送るが、やはり不安だ。トマスさんにも報告しておくか。俺達はカリンの店に行ってから、町を出て自分達の仕事に向かう。



「アイシャ~、ダメだって。半分以上違う葉っぱだって~」

「アイシャ~、こんだけしか報酬もらえなかったの~。もっといい依頼ないかな~」

「アイシャ~、筋肉痛で体が痛いの。湿布の薬草持ってない?」


 何日か冒険者の仕事をしていたが、まあ最初はこんなもんだろう。いつまで続くか見ものだな。


 翌朝、俺がいつもの鍛錬をしていると、カリンが裏庭にやって来た。


「あんた、アイシャの洞窟の家に居たときも、こんな事してたわね」

「ああ、毎朝の日課だ」

「人族の剣術かしら? 私にも教えてくれない」

「お前には少し難しいとは思うが、この剣を持って振り上げてみな」


 俺は子供の頃から竹刀を握っていた。まったく剣を使ったことのないカリンにはできないだろうが、なんにでもチャレンジするのはいい事だ。俺は剣を鞘に入れてカリンに渡す。


「こんなに重いの! これを頭の上にあげて……とっとと」


 後ろに転びそうになっているじゃないか。


「分かったわ、これは無理ね!」


 諦めるの早っ!



「あんたの持っている弓を貸してちょうだい。若い冒険者があんたと同じ弓を持ってるの、よく見かけるわ」


 魔道弓が売りに出されて以降、若い冒険者の間で流行っているからな。カリンも酒場で見かけたんだろう。


「少し待ってろ」


 俺は魔道弓を取りに部屋に戻る。


「アイシャ、少しカリンに武器の取り扱いを教える。すまんが朝食を作っておいてくれないか」

「分かったわ。カリンの事お願いするわね」


 裏庭に戻り、魔道弓と矢をカリンに見せる。


「これが魔道弓だ。まずはそこで見ていろ」


 俺は矢をセットして弓を構える動作をする。矢を外して弦を戻してカリンに渡す。


「まず先端を下に向けて、俺がやったように足をここにかけて弦を引いてみろ」

「ぐぬぬ~、硬いわね。このおぉ~。……フゥフゥ、なんとかできたわよ」

「お前、体の使い方が全然なってないな。なんで足曲げて手だけで引こうとするんだよ。猫背だし」

「猫背関係ないでしょ」

「いや、お前、ネコ科だろ」


 猫科豹族の虎だよな。


「私は猫じゃないの! 虎族なの」


 これは体の使い方など、もっと基本的な事からやらんとダメだな。


「ほれ、ここに足を引っ掛けるだろ。背中を伸ばして軽く膝を曲げて前かがみになってだな、両手で弦を持って腰を伸ばしながら体全体で引いてみな」


 俺はまさに手取り足取り教える。


「あれ、ほんとだ。楽に引けたわね」

「ご飯できたわよ~」


 アイシャが呼んでいる。今日のところはこれくらいにして飯にするか。



「アイシャ。こいつ猫背で体が曲がってるというか、歪んでると思うんだが」

「だから私は猫じゃないって言ってんでしょ」


 また、怒ってやがる。


「確かにカリンはいつも肩が下がっているし、歩き方も少し変な感じがするわね」

「えっ、そうなの。なんか変なの、私」

「アイシャ、朝食の後カリンと一緒に部屋に来てくれないか。ちょっと整体をやってやる」


 俺の部屋の床に毛布を敷いてカリンを座らせる。


「カリン。お前体が歪んでるから、力が入らなかったり歩き方が変なんだ。それを整体で直す」

「え、なに! セイタイってなに?」


 空手の先生から、体の軸と全身のバランスを整えるための整体を教えてもらったことがある。

 確かに背骨や骨盤などの歪みが取れれば、体もスムーズに動くようになる。


「アイシャも少し手伝ってくれ」

「カリン、靴脱いでこうやって足を組んでみろ」

「ユヅキ、変なことするんじゃないでしょうね」

「ほれ、大丈夫だから言う通りにしろ」


 曲げた腕を持って背中を逸らすように伸ばす。ストレッチも兼ねた動きだ。


「アイテテテッ、ちょっと痛いわよ!」

「そんなに痛くはないだろ。これだけも背が伸びて気持ちいいだろ」

「あれ? そういえば、背中が楽になったような気がするわね」

「アイシャ、こっちを押さえててくれ。カリンは力を抜いていろよ」


 骨盤の辺りが正常になるように、コキ、コキと体を曲げたり伸ばしたりしていく。


「ウゲ、グッアヮ! ちょ、ちょっと! どこ触ってんのよ」

「次はこっちな」

「ウゲ! ちょっと痛いってば。ハァ、ハァ、ハァ。こっのお~、なにしてくれてんのよ」


 打ってきたパンチを右手で受け止める。


「ほれ、パンチのスピードも上がったんじゃねえか? まっすぐ立ってみろ」

「あれ、なんか力が抜けた感じがする」

「今まで変なところに力が入ってて、スムーズに動けなかったんだよ。ちょっと廊下を歩いてみな」


 部屋の外に出て、階段から窓のある突き当たりまで真っ直ぐに歩かせる。


「なんかすんなり歩けてるような気がするわ」

「カリン、まっすぐ綺麗に歩けてるわ。今までのぎこちない感じが無くなってるわね」

「なんだか目線も高くなったみたい……背が伸びたのかな」

「骨盤も水平で背中もまっすぐになったからな。どうだ、気持ちいいだろ」

「うん、なんだか息も楽にできてる。吸った空気がすんなり入って体の中を巡っている感じがするわ」


 体の中を巡る??


「カリン、深呼吸してみろ。大きく息を吸って、ゆっくり吐き出すんだ。もう一度」


 2回深呼吸させ、体中に吸った空気を巡らせるように言う。そう、これは魔力を循環させる方法だ。


「カリン。中指を鳴らしてみろ」


 手を上げ自分の顔の前で指を鳴らすと、中指から魔法の風が吹く。暴走ではなく一定の風が吹き続ける。


「アイシャ。私、ちゃんと魔法が発動してる!」


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