第81話-1 シルスの魔道具3
王都の観光を満喫した翌日。私達は魔術師協会に行って審議会の日程を聞きに行く。それによつて今後の予定を決めないといけない。
「こんにちは。ヘテオトルさんはいますか?」
私の声を聞いて、事務所の奥からヘテオトルさんが慌ててこちらにやって来た。息を整えつつ、私に聞いてくる。
「シルスさん、こんにちは。実はあなた達の審議会が急遽2日後に決まりました。その日に来ることはできますか?」
前は2週間掛かると言っていたのに、一体どうしたのだろう。でもこちらとしては早いほうがありがたいわ。
「準備はできていますので、それは大丈夫ですけど、そんなに早く開催できるんですか」
「最高責任者直々の計らいでして、我々も驚いているんですよ」
この王都魔術師協会は、王国内の各地に広がる魔術師協会を束ねる大きな組織。国直轄でトップの協会長は国王が任命した貴族だったはず。
ここも魔術部門と魔道具部門の2つに分かれていて、その一方の最高責任者の方が、私の魔道具のために直接動いてくれるだなんて。
「2日後の鐘4つに審議会が開かれます。その前にここに来てもらえれば、私が案内しますので」
「ありがとうございます。審議会、よろしくお願いいたします」
これなら、アルヘナに帰らなくてもよくなったわ。
私達は審議会のための準備をし、2日後の鐘4つのかなり前に魔術師協会に到着した。仕事中だったヘテオトルさんが審議会の部屋に案内してくれる。
「ここで、しばらくお待ち願えますか」
「少し早すぎたか。誰もいないな」
「私、こういう場は初めてで……緊張をほぐしたいからちょうどいいです」
私達が案内された椅子の前に置かれた長机に、資料と実物を置いておく。
左隣にも同じように椅子と長机が並べられていて、正面の一段高い場所には大きめの机と椅子がいくつか置いてあった。
心の準備はできているつもりだったけど、部屋に入るとドキドキするわね。もう一度資料を手に取り確認しておく。
「アイシャは別に来なくても良かったんだぞ」
「ドライヤーの魔道具が認められるか決まるんだから、私もちゃんと見ておきたいの」
アイシャさんは、この魔道具が大好きだものね。彼女が居てくれるだけで心が落ち着いてくるわ。
しばらくしてヘテオトルさんが入ってきて説明をしてくれる。
「今日は私が審議会の進行役を務めます。私が指示したら意見を述べてください」
「はい、分かりました」
「正面の机に審議官が座ります。図面や資料は既に渡していますが、審議官に実物を見せる際は、私に手渡してください」
その説明の後、商人らしき人達3人が入ってきて左側に並べてある椅子に座る。
――ガラン ゴロン ガラン ゴロン
鐘4つの音が遠くに聞こえた。いよいよ、審議会が開かれる。
正面の一段高い場所に黒い服を着た審議官らしき人がふたりと、豪華な服の女性がひとり横の扉から入ってきた。
私達の斜め前に座っていたヘテオトルさんが立ち上がり、開会を宣言する。
「これより魔道具の登録に関する審議会を開きます。おふたりの審議官と、今回は魔道具部門の最高責任者、コルセイヤ・フォン・ブリンクス様に立ち会っていただきます」
この正面に座る豹族の女性が最高責任者のようだわ。
商業ギルドマスターのシェリルさんと同じくらいの年齢かしら。同じように美しい人だけど、キリッとした実務型の感じがする凛々しい方だわ。
「今回は魔道具登録の不採用に対する異議申し立てとなっています。不採用理由は既に同様の登録がなされているのが、その理由となっております」
今回の審議会の趣旨をヘテオトルさんが説明した後、左に座る商人達を紹介する。
「先に登録されたデヌークさんに来ていただいています。デヌークさん、登録した魔道具の説明をお願いします」
商人のひとりが立ち上り口を開く。
「ワシは貴族街の商店協会の会長を務めています、デヌークと申します。
この温風装置は、既に2年前に登録を済ませております。火と風を同時に扱い、温風を発生させる画期的な装置となっています。
温風で髪を乾かすことができ、貴族の方々の屋敷や美容院に設置され高評価を得ている製品です」
進行役のヘテオトルさんが、内部の動作について具体的な説明を促す。
「内部には風を起こす2つの中型の魔道部品が組み込まれており、発動した風は鉄製の渦巻き管を通ります。
内部の4ヶ所に取付けられた火の中型魔道部品で、急速に管内の風を温めて丸い穴から温風が出る仕組みとなっています。風が通過する間に急速に温めるのに苦労いたしました」
続いて、隣に座っていた従業員らしき人が立ち上り説明を続ける。
「実際の製品を見ていただければ、その優秀性が分かると思い実物を持ってきております。おい、持ってこい」
後ろの扉が開いて、ふたりの屈強な男達によって運ばれてきた大きな四角い箱。これが温風装置なの!! 人の背丈の半分程もあるじゃない! 確かに図面と同じ木の箱に丸い穴が開いているけど……。
「会長、あいつら驚いてますぜ」
「どこの田舎から出てきた連中か知らんが、王都の魔道具にかなうわけがないわい」
商人が前に出てきて、温風装置を動作させる。
「ここに指から魔力を入れますと、この穴から暖かな温風が出てきて前に座るお客様の髪を乾かします」
穴の前に細い紙の帯を持っていき、髪に見立てて風になびかせる。
動作はしているけど、なんだか耳障りな大きな音がしているわ。私が作った初期型の手に乗る木の箱とも、全然違っている。
「では、今回新たに登録申請をしたシルスさん。説明をお願いします」
「私達が登録しようとしている魔道具も温風を出すものですが、動作原理が全く違うものです」
よし! 声もうわずらずに、ちゃんと落ち着いて話すことができているわ。
「内部は火と風の中型魔道部品を重ねて温風の出口に向けています。
通常は同時に発動できない部品ですが、短時間に切り替えて交互に魔法を発動させることで、出口からは風と炎が順番に出る形となり、全体としては温風となります」
それに対して隣の商人が口を挟む。
「何をバカの事を言っている。交互に発動などすれば、炎が出た時に髪が燃えてしまうわい。笑わせるな」
そうね。普通はそう考えるでしょうね。
「こちらに現物があります。お確かめください」
「なんだ、あのデンデン貝は?」
いいえ、これが私のドライヤーの魔道具よ。あなた達の大きな装置とは、全く違う新しい魔道具なのよ。




