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第79話 シルスの魔道具1

【シルス視点に戻ります】


 昨日はよく眠れたわ。やっぱり馬車の旅で疲れていたのね。

 ユヅキさん達はもう起きているかしら、せっかくの王都だし朝食は外で食べた方がいいわね。


「ユヅキさん、アイシャさん。起きていますか?」

「はい、どうぞ」

「魔術師協会が開くまでまだ時間もあるし、街で食事をしましょうか」


 近くにあるカフェで、おいしいモーニングを頼む。


「ユヅキさん。王都まで来ましたが、私はまだ不安です。王都は魔道具の製造販売の全てを管理している所。私の知らない優れた魔道具があっても不思議じゃないんです」

「確かにそうかもしれん。この店の自動ドアも魔道具のひとつなんだろう。だが構造は重りを使った単純な物だ」


 店に入る時、扉が勝手に開いてアイシャさんはすごく驚いていたわ。なのにユヅキさんは平然としていた。王都は初めてのユヅキさんなのに、あんな魔道具を見ても驚きはしないようだわ。


「シルスさんの開発した魔道具は、動作原理自体が優れている。自信を持っていいと思うぞ」

「あのドライヤーは、本当にすごく、すごくいい物なの。自信を持ってください」


 アイシャさんが私の手を握って励ましてくれる。その暖かい手に、私も勇気をもらえたような気がするわ。


「もしシルスさんと同じものが既にあったとしても、それを確かめるのは良いことだと思うぞ」

「良いこと……私にとってですか?」

「原理を理解しているシルスさんなら、次の新しい魔道具を生み出すことができるはずだ。今日はそのきっかけになると思っている」

「次の新しい魔道具……」


 確かにそうだわ。今は温風が出る魔道具だけど、応用はいくらでもできる。この仕組みは作った私が一番理解しているもの。


「この王都に優れた魔道具があるなら、その知識を吸収して上を目指せばいい。シルスさんには、もう次が見えているんじゃないか?」

「そうですね、私には作りたい魔道具がまだまだあります」

「それなら怖がることはない。魔術師協会に行ってちゃんと確かめよう」


 そう。ユヅキさんはいつも私に勇気をくれる。


 私達は宿屋に戻り、魔道具の資料を持って魔術師協会に出向く。

 王都の魔術師協会は5階建ての大きくて立派な建物だ。中の受付で魔道具関連の場所を尋ねる。


「学校関連の魔道具でしょうか? 一般の魔道具でしょうか?」

「新しい魔道具の登録を行なっている部署なんですが」

「それでしたら階段を上った3階、右手手前31番の部屋になります」


 受付の人が指し示す階段を上って、魔道具関連を扱う31と書いている部屋に入る。中は広くて沢山の人達が仕事をしている。アルヘナの魔道具部門とは全然違うわ。

 あっけにとられてカウンターの前に立ち尽くしていると、受付の人がやってきた。


「今日はどんなご用件でしょうか?」

「は、はい。私アルヘナの町から来たんですけど……魔道具を登録しようとしたら、このような通知が来まして。その説明をしてもらおうと……」


 王都から届いた不採用通知を受付の人に見せる。その紙には、『王都魔術師協会 魔道具担当 ヘテオトル』と書かれている。


「担当者を呼びますので、その椅子に掛けてお待ち下さい」


 壁際の長椅子に座って、事務所内の様子を呆然と見ているとアイシャさんが話しかけて来た。


「なんかすごい所ですね。人がいっぱいいるのね」

「私も魔道具関係は小さな部署だと思ってましたけど、王都ともなると違うものですね」


 忙しく働く職員達に見入っていると、1冊の台帳を手にした鹿族の男性が私達の前にやって来た。


「魔道具の登録に関する質問があるということですね。こちらへどうぞ」


 鹿族の人に連れられて通路奥の部屋に入る。


「私は今回の登録を担当しました、ヘテオトルと言います」

「私が魔道具を作ったシルスです。こちらは連名者のユヅキさんです」


 ヘテオトルさんが台帳を見ながら私達に説明してくれる。


「10日ほど前の事なのでよく覚えていますよ。今回登録されようとした『ドライヤー』というのは既に登録されている『温風装置』という魔道具と似ていまして。書類内容を精査したところ、同様の魔道具であると判断しました。ですので誠に申し訳ないのですが、今回は不採用という形になります」


 丁寧な説明をしてもらえたけど納得はできない。ユヅキさんが担当者に詰め寄る。


「その温風装置という物を見せてもらえないか」

「あいにくこちらでは現物を扱っていないので、見ることはできません」

「では、その登録書類を見ることはできますか?」

「はい、それであれば見ていただけます。しばらくお待ちください」


 一旦外に出ていたヘテオトルさんが、登録された書類を持ち込んできた。10枚以上ある申請書と図面の束がテーブルの上に置かれる。


「多分目を通されるのに時間がかかると思います。私は隣の事務所で仕事をしていますので、終わりましたら呼んでいただけますか」


 ヘテオトルさんが部屋から出て行った後、文字の書かれた書類は私が上から順番に読んでいき、ユヅキさんが図面を丹念に見ていく。

 アイシャさんはそわそわと落ち着かない様子だけど、少し待っていてくださいね。


「どうですか、シルスさん」

「確かに書類上はよく似ています。火と風の魔道部品を組み合わせて温風を作ると書いています」


 私が書いた申請書と同じ事が書かれていた。


「図面の方はどうですか、ユヅキさん」

「最初にシルスさんが作った形とよく似ているな」


 図面を見せてもらうと、四角い箱に丸い穴の開いた外観が見て取れる。その穴から温風が出る仕組みみたい。ユヅキさんがくの字型に、外形を改良してくれる前の原形と同じね。

 私の魔道具は形を変えただけの物だと、判断したのかもしれないわ。


「箱の中は金属と思われる渦巻き状の管が入っている。管に風を通している間に温める機構のようだな」


 ユヅキさんが説明してくれたけど、私の魔道具とは原理的に違うみたいね。でも書類だけでは詳しく分からない。


「やはり現物を見てもらって、説明した方がいいだろうな」


 そうね。私は担当者を呼んでもらって、こちらの考えを説明することにした。


「ヘテオトルさん。書類を見た限り温風を出すというのは同じですが、動作原理が全く違うように思えます」

「動作原理に関する事は、書類に書かれておりませんね。このような異議申し立てはよくあるのですが、一度下りた判断を覆すにはそれなりの根拠と最高責任者の判断が必要で、なかなか難しいものなのですよ」


 暗に私達に諦めろと言っているのかしら。ユヅキさんも少し怒って詰め寄る。


「では、現物を見てもう一度考え直してもらいたい」

「現物をこちらに持ち込まれたのですか? どこにあるのでしょうか」


 ヘテオトルさんは私達の後ろの方を見ているけど、その目の前に図面とドライヤーの魔道具を置き、テーブルがコツンと音を立てる。


「これがそちらに提出していた図面と、その現物です」

「ウッ!」


 ヘテオトルさんがテーブルに置かれた魔道具を見て息を呑んだ。


「……こ、これがドライヤーという魔道具なのですか。触ってもいいですか」

「ええ、これを見て再考してもらいたいのです」

「す、少しこの図面と現物をお借りします」


 手に取り操作していたヘテオトルさんは、ドライヤーを持って慌てた様子で事務所に戻っていった。

 少し事務所が騒がしいけど、しばらくしてヘテオトルさんともうひとりの職員の人が部屋に入ってきた。


「俺は魔道具の製造部門に務めているスワトルというものだ。提出された図面は他と形式が違っていて、見誤った可能性がある。この図面について説明してくれないか」


 スワトルという人は職人気質のようで、率直な物言いで話してくる。ユヅキさんが図面の見方を説明し、3枚目が実物大の大きさだと説明する。


「なるほど、魔道部品は火と風が同じ場所にあって、それが2ヶ所とこちらにもう1つだな」

「ええ、今は改良して火と風は1ヶ所になっています」

「提出して2週間余りでもう改良だと! いやそれはいい……今はこの登録の審査についてだ」


 スワトルさんが真剣な目で図面を確かめる様子を見て、ヘテオトルさんが尋ねる。


「スワトルさん。この図面と現物を見てどう思いますか」

「確かに、これだけ小さくできるということは動作原理が違うのかも知れん。図面をしっかり理解していなかった俺の責任でもあるが、再考の余地はあると思うな」


 良かった! 願いを聞き届けてくれた。アイシャさんと手を取り合い喜んでいると、ヘテオトルさんが申し訳なさそうに私達に話してくる。


「この件は最高責任者の判断を仰ぎますので、少し時間をいただく事になります」

「時間が掛かるとは、どれくらいでしょうか?」

「こちらも急ぎますが、2週間程度はかかるかと思います。審議という形をとりますので、できればその際に出席してもらいたいのですが」


 そんなに長い間、この王都に滞在するの? 戸惑っているとヘテオトルさんが日程の説明をしてくれる。


「3日後に来ていただければ、その後の大体の日程が分かると思います」

「分かりました、ではその日にまた来ます」


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