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第78話 ユヅキの星座

【アイシャ視点】


「シルスさんはここでゆっくり寝ていてくださいね。私達は今から夜間の警戒をするから」


 私は馬車を降りて、護衛のグルトンさんと話をしているユヅキさんの元に行く。

 グルトンさんは本当はふたりで護衛をするはずだったけど、相棒の人が急に体を悪くして今回はひとりで護衛していたらしい。


 報酬の半分を出すから一緒に護衛をしてほしいと私達に言ってきた。私達も野営の方法を教えてくれるならと、それに応じた。

 今から初めての夜間警戒のお仕事だ。


「夜間は交代で警戒に当たる。夜半過ぎまでは俺がする、その後、交代してあんた達が朝まで警戒する。もしも異変があったら躊躇せずに寝ている相手を起こせ。分かったか」


 私達は白銀の冒険者であるグルトンさんから夜警の方法を教わる。


「寝る時は地面にシートを敷き、武器を持ったまま毛布に包まって寝る。夜は夏でも冷えるから体を壊さんようにな。起きている者は、火を絶やさないように焚火の周りで警戒する」

「寝るのはこのあたりでいいか?」

「ああ、その馬車の下でいい。雨が降る時もある。そこなら雨もしのげるからな」


 その他にも注意する事柄をいくつか聞いて夜警態勢に入る。グルトンさんは焚火の近くで腰を降ろしてお茶を飲む。

 私は馬車の下、弓を近くに置いて毛布に包まり、ユヅキさんも剣を抱えたまま私のすぐ横で寝てくれる。顔が近くてちょっとドキドキしちゃった。

 寝慣れない地面の上だけど、昼間動いたしお腹がいっぱいでいつの間にか寝ていたわ。

 夜半過ぎ、ユヅキさんにゆっくりと肩を揺さぶられる。


「そろそろ交代だよ」

「ふぁ~い」


 私はもぞもぞと起きだしてグルトンさんと交代する。

 馬車の周辺の様子を確認しながら見回った後、焚火の前に腰をかけた。これから朝までは長いけどしっかりと馬車を護衛しないと。


「こんなところで、冒険者のお仕事をするとは思わなかったわね」

「そうだな、でもシルスさんを守れて良かったよ。魔道具を作るのが夢だと言っていたからな。無事に王都まで行って、その夢を叶えさせてあげたいよ」

「私の魔道弓もシルスさんのお陰でできたんだものね」

「そうだな。ちゃんと恩返ししないとな」

「ねえ、お茶を飲む? これ眠気覚ましの薬草入りなんだって」

「ああ、頼むよ」


 渋めのお茶を飲みながら私達は星空を眺める。カリンの成人式の夜もこうやってふたり星空を眺めていたっけ。


「前に言ってたユヅキさんの星座だけど、ケファイトス座にしようと思うの」

「ケファイトス? どんな神様なんだ」

「4大英雄のひとりよ。知を司る神様なんだって」

「え~、そんなすごい神様、俺には似合わないよ」

「そんなことないわよ。ほらあそこの星の雲が交わっている辺り、明るい6つの星がケファイトス座よ」


 夜の星の雲、星の川とも言われる光の帯が、夜空に大きく十字の形で交わっている。明るい星が多い賑やかな空、その星空にユヅキさんにも加わってもらいたい。


「アイシャ、ありがとな。それじゃ俺の星座はケファイトス座にしよう」


 英雄の星座、私の命を救ってくれたユヅキさんに最もお似合いの星座だわ。その近くには私の星座もあるのよ。


 時々見回りをして明け方まで何事もなく過ぎ、私達は朝食の準備をする。

 人数が多いけど野菜を切ってスープを作りパンを焼く。いつもの朝食と同じだわ。グルトンさんや御者さんも起きてきて一緒に手伝ってくれる。


 馬車の乗客も起きてきて皆で朝食を食べてから、また今日の馬車の旅が始まる。


 昼間の警戒は御者台にひとりいればいいそうだ。なので私達は馬車の中で少し眠らせてもらう。

 しばらく眠った後、御者台の警戒を交代するからグルトンさんも寝てくださいと言ったけど、慣れているから寝なくてもいいと言っていた。

 横に並んで今までどんな冒険をしてきたとか、魔獣の特徴や倒し方を話してくれる。


 馬車は順調に進み、3日後の夕暮れ前には予定通り王都に着いた。王都の城壁は高く、私達の町の3倍ぐらいあって城門も頑丈な木と鉄でできていた。


「これはすごいわね」


 私とユヅキさんは城門を眺め、口をあんぐりと開ける。


「初めて王都に来る奴は、みんなそうやって上を向いて口を開けているな」


 グルトンさんにからかわれて、顔が赤くなるのが分かる。ユヅキさんも同じみたいで、ふたり顔を見合わせて笑い合った。

 馬車は城門内のすぐ近くの停車場に到着して乗客がみんな降りていく。


「宿は決まっているか?」

「いや、まだ決めていない」

「それなら俺達がよく泊まる宿がいいぞ。冒険者なら優遇してくれる」


 グルトンさんとユヅキさんが宿へと向かう後ろに付いて、私とシルスさんが歩いて行く。

 大きな通りには何台もの馬車が行き交い、暗くなりかけた歩道には明るい照明が灯る。5階建ての大きな建物が建ち並ぶ前の歩道にも人が多くて、キョロキョロしてたら「迷子になるわよ」とシルスさんに手を引かれた。


 グルトンさんが言っていた宿に荷物を降ろす。


「じゃあ、冒険者ギルドまで来てくれ。今回の報酬を渡すよ」


 グルトンさんに連れられて行った王都の冒険者ギルドは、4階建ての大きな建物。

 受付窓口があって酒場も併設されて造りは一緒だけど、横幅も奥行きもアルヘナより3倍程大きいわね。日も落ちた時間なのに人も多くて、昼間と変わらないわ。


「一緒に来てくれるか」


 受付窓口に行って報酬を受け取り、冒険者プレートを台の上に置く。


「ありがとうございます、実績までつけてくれて」

「元々相棒とふたりの仕事だったからな。あんた達のおかげで無事王都まで来れたんだ、当然だよ。それにしても本当に鉄ランクのレベル1なんだな。アルヘナの冒険者は質が高いな」


 グルトンさんとはここでお別れね。彼は片手を上げ笑みを残して、王都の街並みに消えていった。

 宿屋に戻り、1階の食堂でシルスさんと一緒に夕食を摂る。


「明日はやっと、王都の魔術師協会に乗り込めるな」

「何の連絡もなしで急に来ているから、すぐに対応してくれるかは分からないけど、朝一番に行きましょう」

「そうですよね、早く行って文句を言ってやらないと」


 そうよ、シルスさんのあんなにすごい魔道具を認めないなんて絶対おかしいもの。


「シルスさん、長旅で疲れたでしょう。今日は早く休んで明日に備えましょう」

「そうね、じゃあ部屋に戻りましょうか。また明日よろしくお願いしますね」

「ええ、それじゃ。おやすみなさい」


 馬車では床か固い土の上だった。ユヅキさんの隣、ベッドの上で寝れる幸福感に浸って朝までゆっくり眠る。


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