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第7話 アイシャ

【この回はアイシャ視点となっています】


 ここ10日程、何も狩ることができていない。そろそろ大物でも狩らないと食料にもお金にも困ってしまう。

 今日も川を越えて魔の森に入ってみよう。


 川の手前は人がよく行き来するカウスの林。野草や薬草も豊富な林だ。

 対岸は魔物が多く住む魔の森。でも川一本で急に変わるわけではなく、奥深くまで入り込まなければ、そんなに危険じゃない。


 私は小さな頃から、ここに住んでいるし、親に連れられて川に遊びに来たこともある。

 川の浅瀬を渡り、昨日仕掛けておいた罠を見に魔の森へと足を踏み入れる。


 しばらくすると血の臭いがする。近づいて行くと、罠に掛かった小さな鹿が倒れていた。内臓は食べられているようだけど他は綺麗なままだ。周りに獣の気配はないわね。


「死んですぐなら肉や毛皮は使えるでしょう」


 近づいていくと、黒い影が頭上を掠める。

 咄嗟に身をかがめて飛び退き横に転がる。今いた場所にサーベルタイガーの爪が通り過ぎた。


 迂闊だった! 地面ばかり気にしていた。森に入って来た私の気配に気付いて木の上に潜んでいたんだわ。

 食事を邪魔されたからか、怒りの形相でこちらを睨んでくる。


 サーベルタイガーは魔獣ではないけど、獰猛で俊敏な獣だ。


 なんとか逃げる隙を作らなきゃ。素早く弓に矢を番えて放つ。サーベルは難なく矢を躱し、円を描くようにスピードを落とさずこちらに向かって走ってくる。


 私も木の陰に隠れながら川の方に向かって走って行くけど、回り込むように横から襲いかかってきた。

 持っていた弓をサーベルの顔めがけ横凪にはらう。


「ギャゥン」


 サーベルの鼻先に命中して、弓が砕けた。

 大事なお父さんの形見なのに……。でも時間は稼げた。


 そのまま走って川の見える距離まで来たその瞬間、後ろから追いすがってきたサーベルの爪が足に喰い込む。


「キャアァ~~」


 そのまま吹っ飛ばされ、小さな崖を転がり落ちた。


 河原に落ちたようだけど、サーベルの爪に抉られた左足がひどく痛む。落ちた時に足を挫いたのか立ち上がる事すらできない。

 手で這いながら川の方に移動する私を追って、サーベルも河原に降りて来てゆっくりとこちらに向かってくる。


 ここまでなの!? 諦めかけた、その時。


「うおぉ~~~」


 叫びながら走って来る人影を見た。


 その人は剣を構えてサーベルと私の間に立ち塞がった。こんな山奥まで来ているなんて、どこかの冒険者だろうか。

 そう思っていると、持っていた剣が突然唸りだした。ビックリしたサーベルが後に飛び退く。あんなにジャンプするサーベルを今まで見たことないわ。恐怖のあまり毛を逆立てて唸っている。


 勝てないとみたのか、そのままサーベルは森に帰って行った。助かったの?

 その冒険者が私を抱き上げてくれて何か言葉を掛けてきたけど、何を言っているのか分からない。外国人なのか母国語で話をしているようだわ。


 男の人のようだけど頭の上に耳がない。顔の横に付いた耳はエルフのように尖っているわけでも、ドワーフのように鼻が大きいわけでもない。


 昔話で聞いた人族!? でも目は赤くないし背中に黒い翼があるわけでもない。

 人族は恐ろしい種族だと聞いていたけど、この人から恐ろしい感じは伝わってこない。


 しかしサーベルに抉られた足からは大量の血が出ている。もう痺れて感覚もない。

 家に帰ろう! 冒険者に家の方向を指し示した。


「すみませんが、私を家に連れて行ってくれませんか?」


 言葉は通じないようだったけど分かってくれたのか、荷物を取りに戻ってから私を背負ってくれた。

 大きな背中越しに家の方向を指し示す。お父さんの背中もこんなだったな……と思い出しながら男の人の背に揺られる。


 足からはまだ血が流れている。息も苦しくなってきた。


「私はこのまま死んでしまうのかな……」


 ――半年前。お父さんも狩りの途中に獣に襲われて、背中を怪我した。血がたくさん出て、町まで行ってお医者様に診てもらった。


「大丈夫だよ」


 と、笑顔を見せてくれていたけど、1週間ほど苦しんだ末に亡くなってしまった。


 お母さんは私が小さい頃に亡くなったとお父さんから教えてもらった。

 顔はぼんやりとしか覚えていないけど、優しい笑顔だけは覚えている。


 私もこのまま死んでしまうのなら、お父さんとお母さんが遺してくれたあの家がいい。お父さんと過ごしたあの家……。

 意識が朦朧としだした頃、やっと家が見えてきた。大切な家……私とお父さんとの思い出が詰まった大切な家だ。


 ◇


 ◇


 どれだけ時間が過ぎたのだろう。私は家のベッドの上に寝かされていた。

 起き上がろうとしたけどうまく動けず、ベッドの側にあった椅子を倒してしまった。


 奥の部屋から私を助けてくれた冒険者が慌てた様子で駆け寄って来て、何か言葉を掛けてくれた。


 言葉は分からなかったけど、そこには泣き笑いのような男の人の顔があった。




 お読みいただき、ありがとうございます。

 今回は、第3話 異世界サバイバル2 ~ 第5話 獣人の家 部分のアイシャ視点となっています。


 次回もよろしくお願いいたします。

 (次回からは、1話か2話の更新となります。)


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