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第75話 シルス2

 2日後、改良したドライヤーの魔道具を持ってユヅキさんが店に訪れた。


「シルスさん、新しいドライヤーができたよ」


 ユヅキさんが、改良したドライヤーと外装の図面をカウンターに置く。


「ユヅキさん、ありがとう……って、私の作ったのと全然違うじゃない。すごいわね。持ちやすいし、なんだかカワイイわね」


 箱型だったドライヤーの外装がくの字型になっている。手で持つ所に魔力を入れる窪みがあって、操作もしやすくなっているわ。


「そんなに喜んでくれて、作ったかいがあるよ」

「こんなのを作っちゃうなんて、やっぱりユヅキさんって不思議な人ね」

「まあ、そんな事より魔術師協会への登録はどうするんだ」

「この魔道具の説明資料は、昨日書き上げました。ユヅキさんの図面もあるし、今から行ってみましょうか。魔道具の申請って初めてだから早めの方がいいと思うわ」


 私達は魔道具と資料を持って魔術師協会に向かう。魔術師協会は貴族街近くの少し高台に位置した3階建ての建物だ。

 受付で聞くと、魔道具関連の部署は通路を入った奥の部屋だと言われた。私が働いていた頃から場所が変わったようね。


 それにしても、この建物に入ってからユヅキさんの方を見ながら、小さな声でコソコソ話している人が多いわ。

 ここにいる職員のほとんどは、魔法大学を卒業している。大学の歴史の授業で、世界征服を挑んだ人族の事がよく出てきていたし、警戒しているのかしら?


 奥の部屋の中に入ると、小さなカウンターと奥にふたりの職員がいた。知らない顔ね。そりゃそうか、私がいた頃の上司も定年で居ないでしょうし、入れ替わっているわよね。


「すみません。魔道具の登録に来たんですが」


 ひとりの女性職員がカウンターに座った。


「魔道具の登録ですか?」


 その職員は後ろの男性職員に「登録ってどうするの」と小さな声で聞いている。

 何だか、よく分かっていないようね。私が勤めていた頃も、魔道具の登録なんてした事なかったから仕方ないわね。


「今日は責任者がいないので、よく分からないんです。すみませんが明日もう一度来ていただけますか」


 無駄足になってしまったわ。ユヅキさんにも謝って、一緒に帰る道すがらこの部署の事を話す。


「魔道具っていうのは、魔術の中に分類されているけど、華やかじゃないから異端みたいに扱われているの」

「それで部署が違うと言われて、奥の部屋に行かされたのか」

「製造も販売も王都でしかやっていないから、この町じゃ魔道具を扱っているのは私の店だけだし」


 王都には魔道具を売っている店が沢山あって、色んな魔道具が売られていた。


「でも、魔道具は人の役に立っているぞ」

「そうなんだけど、所詮魔道具は生活魔法の模倣品と言われているわ。魔道具にできることは普通の人にもできてしまうもの」

「でも、ランプみたいに全属性を持っていないとできない事も、魔道具ならできるじゃないか」

「そうね。あれは素晴らしい魔道具だわ。でもかなり昔に発明されて、それ以来改良も新しい発明もあまり無いのよ。なかなか役立つ発明はされてこなかったの」


 人の役に立って普及する発明なんて、そうそうできるものじゃない。魔道部品の動作原理も大学の上の魔法学院で研究する難解なものだ。その部品を組み合わせて魔道具を作っていくんだけど、その組み合わせも試され尽くしている。


「でも、シルスさんの作ったこの魔道具はすごいと思うぞ。アイシャもすごく喜んでいた」

「だからちゃんと登録して世に出したいんだけど、手続きができるか不安だわ」



 翌朝。ユヅキさんと一緒に資料を持って再び魔術師協会に向かう。

 昨日の部屋に入ってカウンター前に座ると、奥から初老の人が出てきて向かい側に座った。

 この方が新しい責任者のようね。他の部署から定年前にここに回されたってところかしら。


「昨日は留守にしていてすまなかった。魔道具の登録に来られたと聞いたんじゃが」

「はい、新しい魔道具を作りましたので、登録して販売許可をもらおうと思って来ました」

「すまんが今ここで登録することはできんのじゃ。そのような事は全て王都でしかやっていなくてな。ここでは受付と登録のための資料を王都に送る事しかやっておらん」


 そうよね。こんな小さな部署で魔道具の審査なんてできないでしょうね。


「ではここで受付手続きと、どんな資料が必要か教えていただけますか」

「まずこの紙にあんたの名前と新しい魔道具の名前を書いてくれるか」

「作ったのは私とユヅキさんのふたりなんですが」

「ほう、そうじゃな……それなら上下に名前を書いてくれるかな。しかし新しい魔道具の登録など、この町で初めての事じゃないかの。それをあんたらふたりでとは大したものだ」


 その後、名前の横に私達の拇印を押す。


「すまんな、名前の横に発明比率を書かないといかんようじゃ」


 資料を見ながら責任者の人が指示する。


「登録に必要なのは、新しい魔道具の動作説明書と構造説明書、それと形状の分かる図面が必要じゃな。持ってきておるかな」

「はい、こちらに。これが動作と構造の説明書で、こちらが形状の図面です。実物は必要ないのですか?」

「そうじゃな、この資料によると実物は要らんようじゃ。ではこれらを王都に送るように手続きしておくよ」

「お願いします」

「登録できたかどうかは2週間後分かる。またその時に来ておくれ」


 2週間後か、役所仕事みたいなもんだから時間がかかっても仕方ないわね。


「すぐに登録できると思ったのに、残念だったな」

「いえ、時間が掛かると思っていましたので。でも職人ギルドとは違うのですね。前はすぐできたのに」


 ユヅキさんが作った新型の弓を、私との共同開発の魔道弓として再登録した時は、その日の内に登録できた。


「シルスさん。2週間あるならその間に、ドライヤーの魔道具の改良を考えてみないか?」

「改良?」


 ユヅキさんは私の店に戻り詳しく説明してくれる。


「アイシャにも使ってもらったが、風量の強弱の差が大きくて使い辛いと言っていた」

「確かに、魔道部品の魔法力の小と中をそのまま使っていますから」


 部品の種類は大、中、小の3種類だけ。その中間の魔道部品は存在しないわ。


「そうだな。だから改良には時間がかかると思って先に登録を済ませようと思った。でも時間があるなら今から考えてもいいんじゃないかと思っている」

「ユヅキさんには何か良い案があるんですね。聞かせてください」


 ユヅキさんはすごいわね。初めて見せた魔道具なのに、もう改造の事まで考えているなんて。


「まず原理として、火と風を細かく切り替えて両方を発動させているはずだ」

「はい、そうです。そこが一番苦労したところです」

「ではその発動している時間を変えて、風量や火力の強弱を調整できないか?」

「ちょっと待ってくださいね」


 エギルさんに作ってもらった部品に手を加えれば、できるかもしれない。でもあの部品を作るのは難しいと言っていたわ。


「発動時間を変えることは、できなくはないですが難しいと思います。でもそれで強弱の調整ができるのですか?」


 ユヅキさんは絵に描いて、火と風の発動が交互に断続的に繰り返している図を見せてくれた。発動時間を短くすれば全体として弱くなると説明してくれる。


「なるほど、今私が作ったやり方だと、発動が半分、休みが半分で、それが最大の出力になるということですね」

「そうだ、その通りだ」


 発動時間を今の半分にすると風量も温度も半分になると……なるほど。


「そうなると魔道部品も、魔法力が″中″の1つだけでも動作しませんか?」

「上手く調整できたら、それも可能かもしれんな」

「すごいです、すごいです。これなら自分の思うように自由に調整できます。でもそうするとこの部品を少し変えて……」


 話を聞いて改良する方法が次々に沸いてくる。やはりユヅキさんの発想はすごい。これなら部品数を減らして、安くて壊れにくい物ができるわ。



 翌日から実験を繰り返して動作を確かめてみる。


「これならできそうね」


 その形でエギルさんに新しい部品を作ってもらった。

 新しい部品を組み込んで耐久試験をする。これなら大丈夫。改良機の完成だわ。


 ユヅキさんに見てもらおう。


「すごいな、シルスさん。ここまで完璧に作り出すとは。俺は理論的なことは言えるが、動作原理に関わる部分の改良は簡単なことじゃないはずだ」

「いえ、いえ。ユヅキさんの助言があったからですよ。今は3段階の風量ですが何段でも増やせます」


 この方式なら自分の好きなように新しい物が作り出せる。

 アイシャさんにも使ってもらったけど大喜びしてくれた。気に入ってもらえたのなら私も嬉しいわ。


 王都の魔術師協会から登録の連絡が来る日は、アイシャさんも付いて行きたいと言うので、ユヅキさんと3人で行くことにした。


「すみません。私の魔道具、登録できましたか?」


 初老の責任者の方が奥から出てきた。


「すまんのう。不許可になって登録はできなかったようじゃ」

「ええ~!!」


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