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第71話 会計処理1

 翌日、俺は職人ギルドに呼ばれている。本当は昨日から来てほしかったようだが、カリンの成人式があるからと断ったのだ。


 事務所に行くと、マスターのボアンと俺に給料の支払いをしている羊獣人のテトリアさんが、机を並べて書類と格闘している。


「おはようございます。ボアンさん、テトリアさん」

「おはよう。君の机はここに運んである。座ってくれ」


 既に用意されていた椅子に座ると、テトリアさんが俺に向かって泣きそうな顔で訴えてくる。


「ユヅキさん助けてください。全然数字が合わないんです」

「すまんな。ユヅキ君、先月の会計処理を手伝ってもらおうと君を呼んだ。君は計算ができるのだろう」


 話を聞くと、毎月の初めに先月の収支を計算するらしいのだが、先月は魔道弓関連や他のギルド間のやり取りが多くて大変らしい。

 計算できる人がボアンとテトリアさんのふたりしかいないので、俺を応援要員として呼んだらしい。


 パソコンも無い、計算道具も無いこの世界。手計算で集計するのは大変だろう。

 それに1ヶ月は45日なので、その分計算する量も多そうだ。

 俺には先月1ヶ月分の収入に関する計算をしてほしいということで、台帳を1冊渡された。見ると日付と文字とこれは金額か? 文字の横に数字が書かれた列があるな。


「俺は字が読めない。この表の説明をしてもらいたいのだが」


 テトリアさんが俺の横で説明してくれる。


「ここが日付で次が収入の内容です。ここが金額で、最後が人の名前や詳細の内容が書かれています。ユヅキさんは、この太い線から終わりまでの合計金額を計算してくれますか」


 金額は大、金、銀、銅、小の文字の後に数字を書いて表し、銀貨5枚、銅貨2枚を銀5銅2と記入しているようだな。

 日頃使わないので知らなかったが、金貨は銀貨100枚、その上の大金貨は金貨10枚だそうだ。


 金額は1列で項目別にもなっていない。ざっと1ヶ月分を見ていくと銀貨4枚という行がいくつもある。


「テトリアさん、ここに同じ金額がいくつもあるが、これはなんだ」

「ああ、それは職人の方々に収めてもらっている会費ですね。おひとり銀貨4枚です」


 なるほど、それならこれは別で計算できるな。15日ごとに小計をするなど、後で検証や再計算しやすいように別の紙に計算結果をまとめていく。


 集計表を見せ、結果をボアンに報告する。


「早いな、ユヅキ君。これが会費の合計で、他は15日ごとに分けているという訳だな。ん、会費合計が合わんようだが」


 俺は台帳をもう一度確認し人数と合計を報告する。会員の人数と今月会費を納めた人数が違うようだ。


「テトリア君と一緒に調べてくれんか」


 会員名簿を持ってきたテトリアさんと一緒に納付の日付を確認していく。


「ボアンさん、すみません。ひとりの記載漏れがありました」

「分かった、だがそれでも収支が合わんな。もう少し細かく分けて調査してみてくれ」


 俺も文字を教えてもらい、各ギルド毎に集計していく。

 集計方法をテトリアさんにも教えて、支出を項目ごと、15日ごとに集計して合計を計算してもらう。


 テトリアさんが担当した支出の伝票と台帳の突き合わせは大変で、協力して調べていくが何箇所か金額の記入ミスなどもあり、修正して計算をし直す。


 3人で丸一日かけて計算した結果、収支の台帳と金庫の残金との金額が合ったようだ。


「ボアンさん、すごいです。合計の金額がぴったりと合っていますよ。こんなこともあるんですね」


 いつも銀貨10枚から20枚程度は違うらしい。それでいいのかとも思うが、手で書いている台帳と手計算ではそんなものか。


「ユヅキ君ありがとう、助かったよ。今月からは帳簿の記載方法を変えんといかんな」


 ふたりとも喜んでくれていたし、俺も残業せずにすんだ。今日の給料は少し多かったが、ボアンのポケットマネーから追加されているそうだ。

 俺は疲れながらも、夕暮れの街をアイシャが待つ我が家へと帰っていく。


 翌日、アイシャと一緒に冒険者ギルドに行くと。


「マスター、ユヅキさんが来ました。ユヅキさんどうぞこちらへ」


 ギルドの職員に呼ばれて、何事かとアイシャと一緒に事務所の中に入っていく。ギルドマスターのジルが慌てたように奥の扉から出てきた。


「ユヅキ、急ですまんが今日と明日、うちの会計処理を手伝ってくれんか」


 もしかしてここもか? アイシャの顔を見て、どうしようか迷っていると、


「アイシャさん、すまない。ユヅキと少し話をさせてくれ。その間、別の部屋で待っていてくれんか。おい、この方を客間に案内をしてくれ。お茶も出すように」


 そう指示して、ジルが出てきた奥の部屋へと俺を連れていった。

 その部屋には大きなテーブルが置かれ、男女4人の職員が伝票を手に疲れた表情で作業している。修羅場のようだな。


「今、先月の集計の最中なんだが、責任者の会計主任が王都に行っていてな。今日戻るはずが、明後日まで帰って来れんそうだ。ユヅキ、お前は職人ギルドで集計処理を1日で完了させたそうだな。すまんが手伝ってくれんか」


 計算できるのはマスターのジルと会計主任ぐらいで、ここにいる職員も少しは計算できるが手伝い程度だそうだ。


 冒険者ギルドは職人ギルドの3倍ぐらいの規模だが、いつもは3日もあればできると言っている。今回は主任もおらず、ジルも忙しくあまり進んでいないらしい。


「だがこちらも、アイシャと依頼をせんといかんしな」

「給料はアイシャさんの分も込みで支払う。なんとかしてくれんか」

「そちらの事情は分かった。では今日と明日手伝うことにしよう。アイシャに言ってくるから待っていてくれ」


 俺は客間に行ってアイシャに事情を話すと、納得してくれたようだ。


「ユヅキさんを頼ってきてるんだから、手伝ってあげて」

「すまんな、アイシャ。今日の帰りは遅くなるかもしれん、先に食事をして寝ていてくれ。俺はここの酒場で食事をしてから帰る」

「分かったわ。私は薬草採取でもしてから帰るわね」

「ああ、すまんなアイシャ。気をつけて行くんだぞ」

「ユヅキさんも頑張ってね」


 俺はアイシャと別れて、さっきまでいた修羅場の部屋に戻る。


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