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第69話 アイシャの弓2

 翌日から、アイシャの魔道弓用の手袋を改良していった。

 繊細な魔道部品の取り付けや固定の方法、手袋がずれないようにする方法など実用に耐えられるように改良していく。


 手袋をしていると常に部品に魔力が流れてしまうので、簡単に入り切りができるスイッチも付ける。

 何度も試射をして完成に近づけていく。


 そこでふと思った。これを世に出した場合、紛争の火種とならないか? 射程が手袋一つで大幅に伸びてしまう。

 狩り用ならいいが、軍用、兵隊が使うような強力な弓でこれを使うとどうなる? 国同士の秩序を壊すことにならないか? この世界を良く知らない俺には、想像する事もできない。


 アイシャとも話したが答えは出ない。思い悩み、俺はシルスさんに相談することにした。


「シルスさん。前に言っていた、矢に風魔法を付与して威力を増すことには成功した」

「あら、そうですか。良かったですね、ユヅキさん」


 シルスさんは笑顔で素直に喜んでくれた。


「でも、これを世に出せば手袋ひとつで弓の威力が倍増することが知れ渡る。それを軍隊に利用されて、紛争にならないか心配だ。どうすればいいか相談したい」


 シルスさんも神妙な顔つきになり、考えてくれる。


「私達、魔道具に関わる者にもそのような葛藤はあります。物を生み出した人が責任を持つべきだという人もいます。物ではなく、使う人に責任があるという人もいます」


 シルスさんは大学を卒業後、国の魔道具に関わる機関で仕事をしてきている。道具の使われ方を見てきた経験から意見してくれる。


「良かれと思って世に出したものが惨事を引き起こすこともありますが、発案者が責任を負うものではありません。しかし起こりうる危険を知らせることなく、そのまま世に出すのは間違いだと私は思います」


 不都合があるなら、未然に防ぐ手立てを考えるのが発案者の責任だと言う。使い方次第で大勢の人を死傷させる道具は、前の世界でも沢山あった。それはこちらでも同じだ。


「俺はどうすればいいと思う」

「ユヅキさんの考えひとつでいいと思います。世に出さず秘匿するも良し。出す場合は威力を弱めた状態で製品化することもできますし」


 威力を弱めて製品化しても、世に出れば改良され元の威力になる可能性もある。


「それで紛争が起こるかもしれませんし、起こらないかもしれません。そんな未来は誰にも分かりませんので、ユヅキさんが気にしなくてもいいと思います。今後の事についても、相談してもらえれば私は協力しますよ」


 前に作ったクロスボウは、自分で使って役に立つと思ったから製品化した。だが今回の手袋は、アイシャも俺もその威力に驚いている。


「もし俺の一存でいいというなら、世に出さず秘匿することにしたい」

「分かりました。ではこれに関わった人にどう説明するか考えましょう。私はユヅキさんの考えに賛同しますので他人にはしゃべりません。他に関わった人はいますか?」

「鍛冶屋のエギルだな。だが、俺の都合で他の人に秘密を持ってもらうのは心苦しい。シルスさんにも申し訳ないと思っている」


 秘密をずっと抱えて、墓場まで持っていってくれなど頼む事はできない。


「ではエギルさんには、今回は失敗したという事にできますか」

「ああ、多分大丈夫だ。詳しいことは言っていない。嘘を言って俺が苦しんだ方がましだ」

「アイシャさんも、それで大丈夫ですか?」

「アイシャもエギルには恩がある。エギルにずっと秘密を持ってもらうより、自分が嘘をつくことを選ぶだろう」


 これから先も親しい知人に嘘をつき通すのは辛いかもしれんが、アイシャなら分かってくれるだろう。


「それでは、この話は終わりにしましょう」

「シルスさんには、借りができてしまったな……」

「いいえ。私はあなたから大切なことを教わりました。それは私にとって、とても大切なことなのです。その恩を少しだけ返したということです」

「ありがとう。シルスさんに相談して良かった。次からは最初にちゃんと考えてから行動に移すよ」

「何かあったらまた相談してもらって結構ですよ。私もユヅキさんに頼っていますから」


 シルスさんはニコリと微笑んだ。俺だけではこの先どんな行動をすべきか、全く分からなかった。心の負担を軽くしてくれたシルスさんには、感謝の言葉しかない。


 俺はシルスさんの店を後にして家に帰る。アイシャと話し合って、エギルには失敗したと伝えることにした。


「私もエギルの親方には、いつも親切にしてもらっているわ。負担はかけたくないの、ちゃんとユヅキさんに話を合わせるわ」

「すまないな、アイシャ」

「他の人に隠すというのは納得したけど、私が使うのは許してほしいの。これでユヅキさんを救える事は沢山あるわ。ユヅキさんを危険にしてまで、隠そうとは思わないもの」


 これほどの威力を持つ弓なら、今後俺達の役に立つことは間違いない。


「逆なら俺もアイシャのためにそうするさ。人前では使わないようにして、俺や自分が危険だと思ったときはアイシャの判断で使ってくれ」

「うん、そうするわ。ありがとう」


 その後も連日手袋の改良は進めた。そしてフレイムドッグの討伐で実戦に使用する。


「ユヅキさんは、そちらから、私はこっちから狙うわ」

「よし、分かった」


 二手に分かれて木の陰に隠れて待っていると、岩場にフレイムドッグが現れた。アイシャが魔道弓を放つ。

 フレイムドッグが声もなく倒れた。岩場に近づくと頭から胴体にかけて矢が貫通している。

 さすがアイシャの魔道弓だ。この威力なら熊も一撃で倒せそうだな。


 ギルドでフレイムドッグ討伐の報酬をもらうが、全体で120匹以上を倒したそうで、ここで終了となった。結局今回俺達は3匹討伐したことになる。

 アイシャの魔道弓も完成したし上々じゃないか。家に帰ってお祝いでもしよう。


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