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第6話 治療1

 獣人の娘をベッドから起こそうと、背中を支えゆっくりと上半身を起こしてやる。

 すると掛け布団が獣人の裸の胸から滑り落ちてしまった。


「キャッ!」


 小さな悲鳴を上げた獣人が、幼くはない胸を腕で隠してこちらを睨みつけている。


「いや、あのね、怪我がね……、治療でね……」


 飛び退き手をバタバタさせ慌てふためいている俺の姿を見て、獣人の娘はクスリと笑った。

 部屋の角にあった木箱を指差し、何か取って欲しそうにしているので蓋を取ると、服などが入った衣装ケースのようだった。


 中にあった下着には手を触れず、服を1つ手に取って見せる。獣人の娘は首を横に振る。どうも違ったようだな。

 2枚目を見せるとポンチョのような部屋着だったが、これが欲しかったようだ。


 ベッドの横に行き獣人の娘に手渡して、後ろを向いて服を着るまで待つ。衣擦れの音が収まったのを見計らい、椅子に座って獣人の娘と向き合った。

 話し掛けてみたが、やはり俺の日本語は通じないようなので、自分を指差すなど手振り身振りで話す。


「俺は、ゆづき みかせ、だ」


 俺の名は御家瀬(みかせ) 夢月(ゆづき)。ここはヨーロッパ風だし名前が前でいいだろ。


「ユリュキ、ニュキャーシェ?」


 少し違うな。


「ゆ・づ・き。み・か・せ」

「ユヅキ。ミュカゥシェ?」


 苗字は難しいのかな。日本とは発音が全然違うようだ。


「ゆづき」

「ユヅキ?」


 そうそう、と笑いかける。


「君の名前は?」


 獣人の娘を指差す。


「○△※※、アイシャ」

「アイシャ?」


 ウンウンと頷いてくれた。


 病み上がりで唇が少し渇いているようだ。まずは水を飲んでもらって軽い食事でもしてもらおう。

 立ち上がりかまどへ行く。コップに水瓶から水をすくい、アイシャに渡して水を飲むように促す。


 水筒の丸いコップを見て何か不思議そうに眺めているようだが、俺は奥の食料庫に肉を切り取りに行く。


「これを使ってもいいか?」


 アイシャに尋ねると、「いいよ」というように頷いてくれた。


 かまどで薄切りにした肉を焼き、水を多めにして非常食の粉を使ったおかゆを作る。ついでに俺の分も二人分作っておこう。


 昨日は気がつかなかったが、水瓶の裏側に木の器とスプーンが落ちていた。たぶん俺が蓋を開けた時に落としたアイシャの食器だろう。

 汚れてはいなかったので水瓶の水で軽く洗って、今作ったおかゆを取り分けアイシャの元に行く。


「おかゆを作ったが食べるか」


 ジェスチャーで聞くとウンと頷くので、ベッド横の椅子に座っておかゆをスプーンにすくう。


「ハイ。あ~ん」


 とスプーンをアイシャの口元に持っていく。

 アイシャは顔を赤らめて、ダメダメと腕を突き出し手をヒラヒラと振った。仕方なく器を手渡したが、怪我人なんだから遠慮しなくてもいいんだがな。


「まあ、そんなお年頃かね~」


 俺は席を立って隣の部屋から自分の小さな鍋を持ち込んで、ベッドの横に座って一緒に食事をすることにした。

 アイシャは少しうつむき気味に、モジモジしながらおかゆを食べている。口に合ったのか満足げに完食してくれた。その元気な様子に俺もなんだか嬉しくなってくる。


 食後に薬を飲んでもらおうと、食器を下げたついでに鞄から薬瓶を取り出し寝室に持っていく。

 この薬を飲んでくれとカプセルを1錠手渡すと、アイシャは白いカプセルをシゲシゲと眺めて尋ねるように話してくる。


「※○△※、☆☆※※□□※☆※△△?」


 何を言っているのかよく分からんが、大丈夫、大丈夫と錠剤を口に入れてコップの水で飲み込むような動作をしてみせる。

 アイシャは納得してくれたのか錠剤を飲んでくれた。

 薬を飲むアイシャの薄いピンクの口元を見て、昨日口移しで飲ませたことを思い出して今度は俺がモジモジしてしまった。


 まだ傷も完全に塞がっていないだろうし、アイシャにはゆっくり眠るように言って寝室を後にする。


 かまどのある部屋に戻り、そういえば水瓶の水が残り少なくなっていたのを思い出す。持ってきた水筒の中身ももう空だ。水はあの川から汲んできてるんだろうか?

 まだ日も高い今のうちに水を汲みに行ってもいいんだが、川までの道を覚えていない。


「ちょっと外に出てみるか」


 入り口の扉を出て外の様子を見てみる。家の周りは高い木で覆われていて見通しがきかないし、耳を澄ましても川音は聞こえてこない。

 扉の前には下草が生えていない所はあるが、整備された道ではない。たぶんアイシャが日頃行き来してできた道だろうな。


 どちらに行けばいいのか分からんが、少し歩いてみるか。

 獣がいるかもしれないので家からショートソードを持ち出し、アイシャが通っていたであろう道を進んでみる。


 木々の間から遠くに雪をかぶった山頂が見えた。ここが山の中腹だというのは分かるが、川の方角や位置がさっぱり掴めない。

 山の麓にあった湖もちらりと見えたが、そこへ行く道は見えない。周りの様子を探るためにも、もう少し歩いてみるか。


 俺が最初にいた扉も近くにあった丘も、川向こうにあるはずだが最早見つけることはできないか。

 1時間以上周りを見て回ったが、やはりアイシャがいなければ身動きが取れないようだ。

 食べられそうな木の実もいくつか見かけたが、素人の俺では食べれるか判断できない。医者のいない山の中で病気になったら大変なことになる。


 太陽は空高く天頂付近なので昼頃なのが分かる。

 今日までの感覚だと1日は24時間くらいか……前の世界と同じように過ごせる感じだな。少し腹が減ってきて俺の腹時計も今がお昼だと言っている。

 仕方がない、アイシャの家に戻るか。


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