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第67話 フレイムドッグ2

 アイシャがこちらに駆け寄って来てくれた。


「よくやったな、アイシャ」

「ユヅキさん、怪我はない」

「こっちは大丈夫だ。マントのお陰で何ともないよ」


 倒したフレイムドッグを平原まで運び出す。


「これは、頭も要るのか?」

「普通、犬の肉は食べないから毛皮だけなんだけど、魔獣はどうなのか分からないわね」


 川に行って、首と胴体をそのまま沈める。


「フレイムドッグ、素早かったな。俺の矢は全部躱されたよ」

「そうね。私は死角から狙ったから当たったみたい。今度からは左右に離れて狙った方がいいわね」


 フレイムドッグを川から引き揚げて町に運ぶ。念のため頭は革袋に入れて一緒に持っていき、ギルドの受け取り用の大きなカウンターに獲物を置いて聞いてみる。


「頭と胴体をそのまま持ってきたんだが、これで良かったのか」

「こいつの場合、頭は要らんな。胴体の毛皮は使えるし、魔獣の場合は心臓の付近に魔石がある。だから胴体だけをそのまま持ってきてもらえればいい」


 ほほう、魔石というものがあるのか。何に使うか知らんが役に立つなら使ってもらえばいい。



 夕食の後に、もう一度フレイムドッグ討伐の作戦を練る。フレイムドッグは死角からの攻撃に弱い。というより正面では矢を躱される。

 死角を作るためには、アイシャと離れて攻撃しないとダメだな。しかし、アイシャが襲われた場合、炎攻撃を防ぐ事ができない。


「もう一枚マントを買いましょうか?」


 アイシャの場合、マントよりも全身を守れるローブの方がいいんだが。ローブ……そういえば俺はローブを持っているじゃないか。あれは女神様からもらった物だから、炎の耐性があるかもしれない。

 俺は鞄にしまっていたローブを引っ張り出す。


「アイシャ、このローブに炎の耐性があるか調べてみよう」

「これは、ユヅキさんのローブね。こんなフカフカのローブ、無理じゃない?」


 確かに俺のマントも店で見たローブも、薄手の布のような素材だった。このローブはボア生地のように起毛加工され、燃えやすそうではあるな。まぁ、試しにやってみるか。


 燃えたら困るので洗い場で、桶に水をいっぱいに入れて置いておく。

 アイシャはいつでも消火できるようにして、俺はローブに炎を飛ばす。ローブ表面で炎は飛び散り消えた。ローブには焦げた跡もない。

 何回か繰り返しても大丈夫だったが、俺の弱い魔法だけじゃ少し不安だ。


「明日、シルスさんの所に行って相談してみよう」



 翌日、アイシャとローブを持って専門店街にある魔道具店に向かう。


「こんにちは、シルスさんいるかい。ユヅキだ」

「あら、ユヅキさん。まだドライヤーの魔道具はできていませんよ」


 シルスさんは、この前のドライヤーの研究をしているのか寝不足のような顔で出て来た。


「初めまして、私アイシャと言います。いつもユヅキさんがお世話になっています」

「あっ、これは、初めまして。ユヅキさんの奥さんですか。こちらこそいつもお世話になっています」


 髪の毛を手で整えながらシルスさんが挨拶する。


「あ、あの私は一緒に住んでいるんですけど、奥さんじゃなくて……」

「ああ、結婚式はまだということですね」


 少し勘違いしているぞ。まあいいか。


「今日はこのローブの炎の耐性を見てみたいんだが、シルスさんは火魔法を使えるか」

「使えますが、見たところそのローブに炎耐性は無いように見えますが」

「俺の火魔法だと大丈夫なんだがな」


 ほらと、生活魔法の火魔法を飛ばしてみせる。


「なるほど……これはおいくらで買われました?」

「人から譲り受けた物で、値段は分からんのだが」

「最高級ローブでそのような物を見たことがあったので。いえ、失礼しました。じゃあ試してみましょう」


 東門の近くに岩肌の見えた崖があるからと、桶に水を入れて東門へ行く。

 崖の岩の上にローブを置いて少し離れたところから様子を見守る。


「じゃ~、小さな魔法からいきますね~」


 シルスさんは指を弾いて、ファイヤーボールと言えるような火の玉をローブに飛ばす。

 ――ボンッ


 炎はローブに当たって弾けた。近づいてローブを見たが焦げ跡はない。


「それじゃ~、少し大きな魔法いきますね」

 ――ブォ~ン



「これなら、どうだ!」

 ――ドォ~ン



「これでもか~!」

 ――ドゴォ~ン



「まだまだ~!! エクスプロー……」

「いや、いや! もういいです!!」


 慌てて止めに入る。フレイムドッグの炎とは桁違いのすげ~炎攻撃で、ローブが宙を舞っているじゃないか。だが燃えた様子はないな。


「ハァ、ハァ、ハァ。すみません、少し熱くなってしまいました。お恥ずかしい」


 魔法大学を卒業した専門家だと聞いていたが、これほど威力のある攻撃魔法を連発するとは……。おしとやかな外見とは違い、シルスさんはこういう事に夢中になってしまう人だったんですね。


「それにしてもすごい性能のローブですね。ドラゴンの炎でも耐えちゃうかもしれませんよ」

「いやいや、それはいくらなんでも」


 俺達が町に戻ると、門番さんに「お前たち、門の外で何してやがった!」と、怒られてしまった。



 このローブならフレイムドッグに対抗できるな。シルスさんにお礼を言って魔道具店まで送る。俺達はそのまま冒険者ギルドに行って、明日からのフレイムドッグ討伐の予約をした。


「しかしシルスさんって、すごい人ですね。情熱的というか過激というか」

「いや、いや。気の弱い内気なお嬢さんだったんだがな……」


 おかしいな。どこで変わってしまったんだ。


「でもこれで、明日が楽しみね」



 翌日、朝から魔の森に向かう。俺がマントでアイシャはローブを着こむ。

 途中でウサギを狩っておくことも忘れない。

 前に行った岩場は血が付いていて、さっきまで食べていた様子だったので違う岩場に行く。


 餌を仕掛けておいて、離れた木の陰から様子を覗うが、今回はアイシャと離れた配置でどちらかが死角になるように位置取る。


 フレイムドッグが岩場に現れた。座って餌を食べるまで待ってから弓を仕掛ける。


 アイシャの矢だけが当たって、フレイムドッグはアイシャの方に向かって走っている。

 もうすぐ炎がアイシャを襲う。その時に俺が死角から矢を当てないとアイシャが危ない。俺は必死になってフレイムドッグの斜め後方に走っていく。


 炎を吐いた。アイシャは無事か! ここからでは確認できないが、片膝をついて正確に狙いをつけて矢を放つ。

 よし当たった。急いで駆け寄り剣で止めを刺す。


「アイシャ、怪我はないか!」

「大丈夫よ。このローブすごいわね」


 どうやら無事だったようだ。ふたりでフレイムドッグを平原まで引きずっていく。ここまでくれば他の獣や魔獣に襲われることもない。

 これで2匹目だが、やはり魔獣相手は危険が伴うな。


「ユヅキさん、最近矢がよく当たるようになってきたわね」

「この魔道弓のお陰だな」


 素人の俺でも、飛距離や矢のスピードもアイシャと同じぐらいになっている。


「なんだかユヅキさんだけずるいな」

「ずるいと言われてもだな……」


 やはり風の魔道部品の力が大きい、以前より遥かに威力が増しているからな。風の魔道部品? 矢に付与?


「おおっ! アイシャの矢も速くなるかも!」

「びっくりしたわ。どうしたの、ユヅキさん」


 急に叫んで驚かしたようだな。フレイムドッグを町に運びながら説明する。


「この魔道弓は矢のすぐ近くに、風の魔道部品が埋め込まれていて矢を速くしているんだ。それをアイシャの弓にも取り付ければ威力が増すはずだ」

「そんなのできるの?」

「うん~。できるかどうかは分からんが、また明日にでもシルスさんに会いに行って相談してみるか」


 お読みいただき、ありがとうございます。

 

 【設定集】目指せ遥かなるスローライフ! を更新しています。

 (第1部 第2章 に関する地図等)


 小説の参考にしていただけたら幸いです。


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