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第58話 風呂入りて~

「アイシャ。獣の討伐でお金も貯まったし、家の修理か冒険の装備を整えるかしたいんだが、どっちからしようか」


 最近は冒険者ギルドで獣の討伐依頼をしている俺達だが、他の冒険者の装備を見ると俺達にも防具がいるような気がする。今は以前狩りで使っていた革の上着やすね当てを使っているが、もう少し補強したい。

 それとも生活するうえで必要な、家の補修を先にするか迷っている。


「それなら洗い場を綺麗にしてほしいな。床も壁もヒビがあって怪我しそうだし。それに何か臭くて嫌なにおいがするの」


 洗い場に行って確認してみると、微かに臭いがあるな。狼獣人のアイシャの嗅覚だときついかもしれん。どこからだろうと探ると排水口から臭っているようだ。

 なるほど下水管からの臭いだな。町中では排水管をつないでいるから逆に悪臭が漏れ出てきているようだな。


 前の洞窟の家は、洗い場が広く水脈の近くで清々しい場所だったが、ここは部屋の中だし臭いが籠るのかもしれんな。

 洗い場自体は、バスタブを6つくらい置けるほど広い場所だが水道もない。前の家みたいに横の水脈から水を汲むこともできないし不便だな。


「そうだな、まずは生活環境を改善する事から始めるか。かまどにもヒビがあったな。そっちはどうだ」

「いずれ直さなくちゃだけど、今はまだいいわ。壊れるようなものじゃないから後回しでも大丈夫よ」


 よし、まずは洗い場の修繕からだな。風呂桶も置きたいが金がかかるだろうし、お湯をどうするかも考えんとな。風呂入りて~な。

 アイシャと話していると、入り口からノックの音が聞こえる。


「アイシャ、いる~」

「カリンじゃない。今開けるね」

「今日休みだから、遊びに来た~。げっ! やっぱ、あんたもいるのね」


 そりゃ住んでるんだから俺もいるだろ。しかしこいつはいつも突然にやって来るな。


「町での生活はどう? 困ったことはない?」

「うん、大丈夫。前に他の冒険者の人達と狼を狩りに行ったのよ」

「え~、すごいじゃん」


 アイシャ、狩りじゃなくて討伐な。まあ、あまり変わらんか。


「カリン、あのね。うちの洗い場から変な臭いがするの」

「あ~、うちも時々臭ってるわね。夏が近くなるとそうなるわね。そんなときは排水口に蓋をするのよ。水を流す時だけ蓋を取るの」

「そうなの、山の生活とはやっぱり違うのね」


 洗い場を修繕するなら、できるだけ山の時と同じような環境にしたいな。


「アイシャ、少し相談なんだが。裏庭の井戸を洗い場に移すのはどうだろう?」

「井戸が部屋の中にあった方が便利だけど、できるの?」


 井戸とは言うものの、10センチ角の木製の管が地面から突き出している蛇口のような物だ。移すのは難しくないはずだ。


「ユヅキ、ダメよ。井戸から水を出すとき一度にたくさん出て、いつも溢れているでしょう。洗い場だと水が溜まっちゃうじゃない」

「冬場になると、外だと寒くないか?」

「冬は寒くて冷たいけど、夏はバシャバシャできて気持ちいいから、おあいこよ」


 こいつの考えはいつも能天気だな。


 まあ、それも含めて専門家に聞いてみるか。

 職人ギルドで相談するのが早いなと、俺はギルドに向かう。今日は受付カウンターの方からだな。


「こんにちは」

「あれ、ユヅキさんじゃない。どうしたの?」


 受付担当の虎獣人のお嬢さんが、カウンターに来てくれた。


「俺の家の洗い場のタイルがひび割れていてな。修理してもらいたいんだが、いい職人さんはいないかな」

「それなら、ここね。ここからも近いよ」


 地図を見せてもらい工房の場所を確認する。


「ありがとう。じゃあ行ってみるよ」


 工房に行って洗い場の修理の事を話すと早速見てくれるというので、ひとりの職人さんと家に戻り洗い場を見てもらう。


「なるほど、相当ガタがきてるな」

「そうなんだ。ここを借りた時から、こんな状態でな。今まで修理してこなかったようだ」


 その状態を見た職人が、修理について提案してくる。


「デコボコでもいいなら、ひびの上を塗り固めるが、床下が歪んでいるから別の場所でもいずれひび割れができる。長持ちさせるなら床下から直してひび割れたタイルや排水管も交換した方がいいな」

「壁面のひび割れはどうだ」

「タイルの部分は取り換えればいいし、その上の壁のひび割れは補修すれば大丈夫だ」


 修繕はできそうだが、やり方によって金額が変わるようだな。


「それと裏庭にある井戸から分岐して、この洗い場に引き込みたいんだが」

「井戸を分岐しても、水が出るのはどちらか一方になっちまうぞ。それと井戸は一家に1つと決まっていて、貴族様のお屋敷でもねえ限り2つ以上作ることはできねえしな」


 なるほど井戸だから魔道具で水を吸い上げても、低い方の口からしか水が出ないんだな。水圧のかかった水道の蛇口とは違うようだ。


「じゃあ、外の井戸をこの洗い場に移すことはできるか?」

「ここの排水管が小さい。さっき旦那が言っていた臭いを少なくするためにそうしているんだが、井戸の水がそのまま流れると排水できなくて水浸しになるな」


 カリンも同じようなことを言っていたな。


「分かった、タイルを補修するだけの金額、床下まで直す金額、井戸をここに移動させる金額を出してくれ」

「値段は今日の夕方ごろまでには出せるから、その頃また工房に来てくれ」


 職人は洗い場のタイルの枚数を数えてから帰っていった。

 1階のテーブルに座っていたアイシャとカリンが、俺と職人さんが話しているのを見て尋ねてくる。


「ユヅキさん、どうだった?」

「かなり傷んでいて、少し大掛かりな工事になるかもしれんな。値段次第になるが」

「あまり高いようなら、後回しでもいいわよ」

「日頃使う所だし、できればちゃんと修理したい。それにいずれは風呂も作りたいしな」

「フロってなあに?」


 この国に風呂は無いのか? いや日本語でフロと言ったから分からなかったのか。


「水浴びの代わりに、人が入れる大きさの桶に温かいお湯を入れて、その中に入るんだが」

「なにそれ、人を茹でるの? ユヅキって時々変なこと言うわね」


 うるさいやい、カリンめ。日本では毎日入ってたんだからな!


「俺は上の部屋にいるよ。夕方前には職人さんの工房に行くが、アイシャはどうする。街中に出て行ってもいいぞ」

「今日はここでカリンとお話しているわ。カリン、夕食はどうするの?」

「今日は夕方には帰るわ。ねえアイシャ、ギルドでの討伐の話を聞かせてよ」


 相変わらずふたりは仲がいいな。おしゃべりするカリン達を見ながら俺は2階に上がる。


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