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第54話 初めての狼討伐2

「みんな怪我はないか」


 リーダーのニックがみんなに尋ねたが、そのニックの腕からは血が流れている。


「あなたが一番怪我してるじゃない。さあ、見せて」


 神官のリアトルが怪我の治療をする。6匹の狼を相手に独りで戦ったんだから仕方ないだろうな。

 この平原で倒した狼は7匹。ロボスが運んできた1匹と森の中にまだ2匹残しているというので、俺とアイシャとネトで取りに行く。



「すごいな、あのルーキー。狼を真っ二つにしてるじゃないか」

「ああ、一刀両断だったよ。おかげで助かった。あのままだとリアトルが襲われていたかもしれん」

「でもなんか謝っていたよな。アイシャさんに平謝りだったぞ」

「なんでも両断しちゃうと毛皮の価値が下がるんですって。猟師が考えそうな事よね」

「あんな状況でそんなことを言うとは、大した連中だな」

「今回は俺が獲物の数を見誤ったかもしれん。総数で10匹か……俺達4人では厳しかったようだ」

「そうだな。森の中の狼にも矢が刺さっていた。あのふたりだけで4匹を仕留めたことになるな」

「初心者を助ける教育のつもりで連れてきたが、助けられたのは俺達の方かもしれんな」



 森の狼を持ち帰り、アイシャと仕留めた狼の下処理をする。

 リアトルさんの土魔法で穴を掘ってもらい、狼の内臓など不要な部分を埋める。頭は落とさずそのままの方がいいらしい。


 10匹の狼を引きずって、湖に注ぎ込む川まで持って行き血抜きをする。

 他の冒険者達も一緒に処理していたが、俺達のように手際よくないな。本職じゃないから仕方ないか。

 川のほとりで休憩がてら食事をする。俺達は持って来ていなかったが干し肉と硬いパンをもらって一緒に食べる。


「俺達冒険者は1日3回食事をするんだ。動き回ることも多いので昼を過ぎてから、時間が空いた時にこうやって簡単な食事を摂る」

「野営するような仕事もあるのよ。野宿での食事の作り方やテントの張り方、夜間の警戒など覚えないといけないの。まだまだ先の事でしょうけど白銀ランクの依頼にはそういうのが多いわ」

「君達ならすぐに駆け上がってくるかもしれんがな」


 冒険者の心得のようなものも聞かせてもらい、陽が落ちる前に町に戻ろうと狼を川から引き上げて背負っていく。

 アイシャはもっと川に沈めてから持ち帰りたいみたいだったが、肉じゃなくて討伐が目的だからな。アイシャには納得してもらった。


 狼はカエルより重いが2匹程度なら背負って歩ける。みんなで狼10匹を分担して背負いながら町へ帰る。

 ギルドに戻り大きなカウンターに仕留めた狼を降ろして、後はリーダーとロボスが手続きをしてくれるそうだ。

 俺達とリアトルとネトがテーブルの席に座って終わるまで待つ。その間にもパーティーメンバーと討伐について話の花を咲かせる。


「アイシャさん達、今日はすごい活躍だったね。ボク達も2匹倒したけど敵わないな」

「そんなことないわ、ネトの魔法すごかったわ。大きな炎が巣穴に飛んでいって。私もあんな魔法が使えたらいいのにね」

「そうだぞ、ネト。しかしあんな魔法どうやって覚えたんだ?」

「王都に魔術を教えてくれる学校があるんだ。ボクは2年間学んで冒険者になったんだよ」


 そんな学校もあるんだな。だからネトは上位のパーティー内でも、活躍できているんだな。


「子供の頃に魔法の適性検査を受けたでしょう。そこで魔法適性のある子は入学案内が届くのよ。私は4属性に適性があったから、王都の教会で医療系の魔術を習ったの」


 俺もここに生まれていたら、魔法の学校なんかに行けたかもしれんな。


「そういえばカリンの所にも入学案内が来たって言っていたわね。結局学校には行かなかったみたいだけど」

「カリンは生活魔法もろくに使えないじゃないか。あれは無理だろう」

「でも魔力は沢山あるのよ」


 などと話していたら、リーダー達が戻ってきた。


「今日はお疲れ様。これが君達ふたりの報酬だ」


 ニックが俺達に銀貨80枚を渡してきた。


「えっ、こんなに。ちょっと多くありませんか? あ、そうだ半分は教育料だって言ってましたね。では40枚もらいますね」

「いや、今回君達はちゃんと仕事をして俺達を助けてくれた。教育料はいらない。我々が前日までに巣穴を見つけた分はちゃんと引いているから、1匹当たりでは少ないが倒した4匹分を報酬として払おう」


 そうなのか? 実地教習で沢山の事を学ばせてもらったのだがな。


「ちゃんと仕事したんだから、その分はもらっておきなさい」

「そうですか。それではありがたく頂いておきますね」

「そうだ、君達。俺らは今晩ここの酒場で祝勝会をする。君達も一緒にどうだ」

「俺は構わないが。アイシャ、酒場とかは大丈夫か?」

「そうね酒場は行ったことはないけど、これも経験かしら。私もいいわよ」

「それじゃ、ニック。俺達も参加させてもらうよ」

「鐘6つを過ぎた頃に酒場に来てくれるか」


 俺達は一旦家に帰り荷物を降ろして、少し休んでからギルドの酒場に向かう。

 酒場ではニック達が既に席についていた。


「ユヅキ君、こっちだ」

「料理は適当に頼んである。アイシャさんはお酒が飲めるのかい」

「ワインは飲んだことがあるので、大丈夫だと思います」

「それじゃ、アイシャ。エールを飲んでみないか」

「ええ、ユヅキさんに任せるわ」


 席にみんなのお酒が運ばれてきた。


「それでは狼の討伐。無事完了を祝して、乾杯」

「乾杯」

「アイシャ、エールはどうだい?」

「少し苦いけど、冷たくてこのシュワシュワ感が何ともいえないわね」

「アイシャさん、このカエルのから揚げとエールはよく合うぞ」


 ロボスが話しかけてくる。


「もしかしたら、これ私達が狩ったカエルじゃないでしょうね」

「そういえば活きのいいカエルが手に入ったとか言っていたな。もしかしたら君達のかもしれんな」


 ニックも話に入ってくる。

 カエル討伐の話はやめてくれ、下敷きになったことを思い出してしまう。


「ニック、腕の怪我はもういいのか」

「それほどの怪我でもなかったし、リアトルに治療してもらったからな。2、3日もすれば完全に治るさ」


 光魔法による治療の専門的な話は聞いた事がない。この際だ、専門家のリアトルに聞いみる。

 深い傷や毒はそれなりの技術がいるそうだが、アイシャが言っていたように基本光魔法を患部に当てればいいそうだ。


「強すぎる魔法は逆に体を傷つけるわ。ユヅキさんの光魔法なら、手を添える程度で傷が塞がったり治りが早くなったりするわね」

「死にかけた人を蘇えらせたり、遠くの人の体力を回復させたりできないのか?」

「なんですかそれ。そんなの聞いたことないですよ」

「すご~い、人族の治療ってそんな事もできるんだね。ボクもそんな魔法見てみたいな」

「いやいや、人族だとかじゃなくて……できたらいいなあって思っただけで」


 やはりゲームとは全然違うみたいだな。慌てて否定した。


「それにしてもユヅキ君の剣技はすごかったな。あれも人族の技かい」

「ああ、確かに独特の剣術は小さな頃に習っている。いつもアイシャに助けられているし、まだ俺の剣術は未熟だがな」


 剣道はこの世界にないものだが、剣技というほどの鍛錬はまだまだできていない。


「なるほど、やはり人族は謎が多いな」

「それはともかく、君達なら充分冒険者としてやっていけるだろう。機会があればまたパーティーを組みたいものだ」

「私達もまたパーティーを組んで、色々教えてもらいたいです」

「それじゃ、君達の栄達を祈って乾杯といこう。乾杯」


 その日の夜は楽しく更けていった。


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