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第50話 今日もカエル

 今日もカエルを狩るために山に入る。


「ユヅキさん、今日は弓だけでカエルを捕りましょう」


 それは助かる。もうあのカエルの下敷きになるのは絶対嫌だ。

 昨日とは違う沼に向かい山道を歩く。途中で薬草の群生地も見つかり、薬草採取もできた。

 沼に近づくと相変わらず「ゲコゲコ」とカエルがうるさい。


「同時に矢を放ちましょう。私に合わせてくださいね」


 アイシャが小さな声で、「イチニのサン」と掛け声をかける。

 アイシャは2本、俺は1本矢を放つ。さすがアイシャだ、瞬時に放った矢を2本とも当てている。仕留めた3匹を小川まで持って行き下処理をする。


「いつもこんな依頼があればいいのにね~」

「そうだな。今日の掲示板には、やたら魔獣の討伐依頼が多かったな」


 町を出る前にギルドに寄って掲示板を確認したが、薬草の採取か、魔獣討伐だけだった。今の俺達にできる事は少ない。薬草だけじゃ報酬が少ないからな~。

 俺達はカエルの血抜きが終わるまで、のんびりとおしゃべりする。


「ユヅキさんのお仕事は、どうなの?」

「今のところは順調だよ。でもずっと続くわけじゃないからな~」


 正規の職員じゃないから仕方ないのだが。


「せっかく冒険者になったんだ。魔獣討伐もやってみたいよな~」

「そうね、いずれは討伐もしないとね。そうだユヅキさん、今日捕ったカエルのうち1匹は家に持ち帰りましょうか。干し肉しかなかったから、新鮮なお肉を食べましょうよ」

「そうだな、こいつらは割と美味いからな」

「さてと、そろそろ町に戻りましょうか」


 カエルを3匹背負って山を降りる。冒険者としての初めて受けた依頼を、これで完了できそうだ。



「おっ、今日もカエルを捕ってきたな」

「ええ。カエル3匹のうち、1匹は家に持ち帰ります。それと薬草の100枚も確認お願いします」


 男の獣人が捕ってきた獲物と薬草を確認していく。


「よし、依頼分は揃っている。これで依頼完了だな。この書類を受け付けカウンターに持っていって報酬を受け取ってくれ」


 俺達は昨日と同じ受付嬢のいる列に並んで順番を待つ。


「いらっしゃいませ。あれ、昨日登録したアイシャさんですよね。依頼順調ですか?」

「はい、この書類を見せなさいって、向こうのカウンターの人が言ってました」

「それでは確認しますね。えっ、カエルを8匹も! ふたりだけで捕ったの? しかも優良が付いてますよ」

「優良?」

「捕獲した獣や魔獣の肉とか毛皮の状態がいい場合は、報酬が上乗せされるんですよ。猟師をしていたと言ってましたね。それだからでしょうか」


 フムフムと感心しつつ書類を見ながら、カウンター下の引き出しから報酬分の銀貨を取り出す。


「ではカエルの報酬、優良付きで銀貨36枚と、薬草の報酬が銀貨5枚です。確認してください」


 おお~、初めての報酬だよ。予定よりも多くのお金を手にして、アイシャもホクホク顔だ。


「それでは、おふたりの冒険者プレートをこの板の上に置いてください。今回の依頼完了分を記録します」


 プレートを置いて受付嬢が魔力を流すと一瞬光ってすぐに消えた。

 これも魔道具か。プレートに何かを焼き付けたように見えたが、プレートを手に取り裏を見ても何も書かれた様子はない。


「それはこの特殊な光を当てないと見えない文字なんですよ」


 受付嬢がプレートを置いた板に触ると、今度はほのかな青い光が出てプレートの表面に文字が浮かび上がる。

 個人の情報は他人には分からないようになっているのか、すごい仕組みだな。


 俺達は報酬を受け取りギルドを後にする。

 家に帰り、仕留めたカエルを解体して肉にする。半分はお世話になったカリンに渡そうと、カリンの店に持っていく。


「こんにちは。カリンいる?」

「アイシャ、冒険者になったんでしょう。どうだった?」

「うん、依頼を受けてお金もらっちゃった」

「へぇ~、幸先いいわね。その調子で頑張んなさいよ」

「それでね、これ仕留めたカエルのお肉なの。カリンの家で食べて」

「え~、いいの。ありがとう。これ、なかなか美味しいのよね」


 カリンの店を出ての帰り道。


「アイシャ、初めて冒険者としての仕事ができたから、帰ってお祝いをしよう」

「そうね、私達の初仕事だものね。カエルのお肉もあるし、少し豪勢な食事にしましょうか」

「それとお酒も買って帰ろう。アイシャはお酒を飲んだことはあるのか?」

「お酒は飲める年齢だけど、飲んだことはないわ」


 この世界では16歳で成人らしく、成人すればお酒も飲むことができる。アイシャは去年成人式を済ませたと言っていたな。

 冷えたエールがいいんだが、エールの持ち帰りはできなかった。


「それじゃ、ワインを買って帰ろうか」


 酒屋で甘めの赤ワインを頼む。ふたりで飲むだけなので少量の革袋に入ったワインだ。

 家に着いたアイシャは、食事の用意をしてくれる。その横で俺は小さな鍋に水と、ワインの革袋を入れて水魔法で水を冷やす。


 最近、水魔法の一種である冷気を作り出せるようになった。魔法を発動させると極々小さな氷が出てくる。これを鍋の水の中に入れて冷やす。


 今日の料理はカエルの肉入りの野菜スープ。それとカエルのから揚げを作る。

 無発酵パンも焼いてテーブルに並べて、椅子に座って2つのコップにワインを注いでいく。アイシャはお酒が初めてだから、ワインは少し水で薄めておこう。


「アイシャの初仕事を祝って乾杯!」

「乾杯! ワインって初めてだけど、甘くておいしいわね」

「アイシャ、お酒は少しずつ飲むんだぞ。一気に飲むと目を回しちゃうからな」

「うん、そうするわ」

「それにしても、このカエルのから揚げは美味いな」


 小麦粉をまぶして揚げて、塩で味付けしただけのから揚げだが、これはいけるぞ。 


「町だと油も手に入れやすいし、いろんな料理も作れるからいいわね」

「そうだな、町での生活もいいもんだ」


 アイシャと楽しくおしゃべりしながら夜が更けていく。

 アイシャの目がトロンとなってきた。お酒も入っているし眠くなってきたか。


「アイシャ、そろそろ寝ようか」


 アイシャはこちらを見つめ、両手を広げてダッコのポーズをしてくる。


「仕方ないな、アイシャは甘えん坊だな」

「フニャン。ユヅキさんならいいにょ。甘えてもだいじょうびゅなにょ」


 首にしがみついてくる。仕方ないな、お姫様ダッコをしてアイシャの部屋のベッドまで運ぶ。


「おやすみ、アイシャ」

「おやしゅみなしゃい」


 俺も自分のベッドで横になる。まだ始まったばかりの町での生活だが、これからも頑張っていこう。


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