第49話 カエル捕獲
ギルドの掲示板で受けられそうな依頼がないか、アイシャと見ていく。
俺達は初心者だ。青銅ランクの☆1つの依頼だけを探す。
「薬草の採取が多いみたいね。これなら私でもできると思うの」
「この絵を見て、どの薬草か分かるのか?」
「これは湿布薬かな。こっちは胃腸薬の薬草だと思うわ」
「数は80となっているが大丈夫か?」
「そうね、確かに数は多いみたいだけど、今の季節なら群生している場所があるから大丈夫かな」
さすが山や林の事については詳しいな。俺はその手伝いをすればいいか。
「アイシャ。どれか1枚依頼書を持って行って、できるか聞いてみよう」
「そうね。それじゃこれにするわ」
1つの依頼を選んで、その後もギルド内を見て回る。
掲示板の裏側には、飲み屋が併設されていて割と人が集まっている。この掲示板周辺にも机と椅子が置いてあり、冒険者が仲間を募集しているのか、他の冒険者に声を掛けているようだ。
どちらもガラの悪そうな連中が多い。俺がアイシャを守らねば。
「アイシャ様、ユヅキ様、こちらへどうぞ」
冒険者証ができたのか、さっきの受付嬢が呼んでいる。受付カウンターの前に行くと、銅の小さな板が置いてあった。
「こちらが青銅ランクの冒険者証となります。裏面のここに指を置いて拇印していただけますか」
裏には俺の名前なのか、こちらの世界の文字が書かれている。その横に指を置くと淡く光り印が残る。これで登録が完了したようだ。
カウンターに持ってきた依頼書を置いて、受付嬢に見せる。
「これを受けたいんだが、どうだろう」
「これは湿布薬の葉を採取する依頼ですね。湿布薬の葉は知っていますか?」
「これぐらいの大きさで臭いのきつい葉っぱですよね」
「そうです。それを100枚8日以内に持ってきてもらえれば結構ですよ」
その説明を聞いていたアイシャが、カウンターの横にあった依頼書を見つける。
「すみません。そこにある依頼はカエルの捕獲ですよね。これも一緒に受けられますか?」
「今受理した急な依頼なんですけど、明日までの2日間で4匹以上のカエルを捕まえるという依頼です。青銅ランクが受ける簡単なものですが、カエルは臆病で普通1回に1匹しか捕れないので、おふたりだけでは難しいと思いますよ」
いや違う! あいつらは獰猛で俺に襲い掛かってくるんだぞ。怖いんだぞ~。
「私達は猟師でカエルも薬草も捕っていたので、できると思います」
「それなら大丈夫かもしれないですね。それにこの依頼は至急の依頼で、指定数のカエルが取れなくても、捕った分の報酬は出るので受けてもいいかもしれませんね」
「捕れたカエルは、内臓とか目玉とかは要るんですか?」
「この依頼書によると、カエルの皮と肉があればいいようです」
それなら大丈夫だと、アイシャは薬草の依頼と一緒に受けるようだな。俺達は依頼書を持ってギルドを後にする。
「ユヅキさん、ちゃんと依頼受けられたわね。山でしてたのと同じような依頼があって良かったわ」
「そうだな。少し期限まで短いが、俺は明日まで休みだしちょうどいいか」
「どっちの山に行こうかな。ここから近い方の池ならカエルもいるし、そちらに行きましょうか」
アイシャは張り切っているようだな。最初の依頼だし、なんとか成功させたいな。すぐに家に戻りナイフやクロスボウを持って町の門に向かう。
今回は山の家に向かう反対側の東門を出て山に入る。門番さんに首にかけた青銅のプレートを見せて通してもらうが、なんだか冒険者って雰囲気でかっこいいぞ。
「ユヅキさん。前にカエルを捕りに行った時、カエルが襲って来たでしょう。あれと同じ事できますか?」
確か前はショートソードの超音波振動を起動させた瞬間に、飛び掛かってきたな。
「たぶんできると思うぞ。でもあれをやるのか~」
「今度は大丈夫よ。襲われる前に私が弓で倒すから」
ホントかな~。怖え~な。
薬草を探しながら山道を登って行く。池はここから1時間弱で行けるそうだ。
もしそこにカエルがいなくても、近くにもう1ヶ所沼があるから今日中には捕れるだろうと言っていた。
池に近づくと「ゲコゲコ」とカエルの声が聞こえてくる。なんだか嫌なんだよな、あの声。完全にトラウマになっている。
「ユヅキさん、ゆっくり静かに近づきましょう。まず私が1匹仕留めるから、その後ユヅキさんが出ていってね」
池の周りに人の半分くらいあるカエルが、20匹以上ゲコゲコと鳴いて集まっているじゃないか。あそこに突っ込むのかよ。
アイシャが静かに弓を構えて矢を放つ。
1匹は仕留めたが、他のカエルが一斉に逃げ出す。俺はショートソードを強く握りしめ池に向かって走り出した。
――ブゥ~ン
超音波振動を起動させると、興奮したカエルがこちらに向かって飛び掛かってくる。
クロスボウで1匹、剣でもう2匹を仕留めたが、カエルは容赦なく俺に飛びかかってきた。
「ぐえ~」
「キャー、ユヅキさん。大丈夫!」
またもカエルの下敷きになって粘液でぐちゃぐちゃだ。ほんとに凶暴な奴らだ。どこが臆病なカエルだよ、あの受付嬢に見せてやりたいよ。
襲ってきたカエルをアイシャは2匹仕留めていて、計6匹を近くの小川で血抜きするため内臓を取り出し小川にさらす。
「ユヅキさん、ごめんなさい。もっと倒せると思ったんだけど。お腹のあたりも蹴られて赤くなっているわね」
優しく摩ってもらったが、なんだかくすぐったいぞ。
まだ夕暮れには時間があるが、俺達はカエルを背負って町に戻る。薬草の採取はできなかったが、今日はこれで充分だ。アイシャに1匹だけ持ってもらって城門に向かう。
門を通るとき門番にギョッとした目で見られたが、背中に3匹とお腹に2匹抱えて歩く俺の姿は、カエルが立って歩いてるように見えたのだろう。
街中を冒険者ギルドまで歩いて行ったが、周りの人も俺達を避けているじゃないか。
「すみませ~ん。依頼品を持ってきたんですが」
大きな受け取り用のカウンターにカエルを持って行き、アイシャが声を掛ける。奥から虎獣人の男が現れて、依頼書とカエルを確認していく。
「すごいな、今日だけで6匹仕留めたのか。ふたりだけでか?」
「ええ、そうなんです。引き取ってもらえますか?」
「もちろんだ、状態も良さそうだしな。解体はこちらでやっておく。依頼は4匹以上となっているが、期限は明日までだ。明日も捕りに行くかい?」
「そうね、後2、3匹は捕れると思うし明日も狩りに行くわ」
「よし、それなら6匹受け取った事を、この依頼書に書いておくよ」
男の獣人は依頼書に何か記入して依頼書を返してきた。明日も狩りができるからか、アイシャはなんだか機嫌がいいな。
しかし明日もカエルかよ。俺は憂鬱な気分で家に帰る。




