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第39話 職人ギルドの歓迎会

「アイシャ。明日なんだけど、夕方にギルドの人が俺の歓迎会をしてくれるんだ」

「えっ、夕方に町へ行くの?」

「夜はギルドに泊まるから、心配しなくても大丈夫だよ」


 明後日は、アイシャも町へ降りる。カリンの店で待ち合わせしようと話をした。

 仕上がっている毛皮は、明日俺が持って行こう。お金だけをアイシャに持ってきてもらえばいいが、ひとりで山道を降りる事になるな。まあ、アイシャなら心配ないか。



 翌日の午後。毛皮を持ち俺はひとり町に向かう。

 歓迎会ってお酒とか出るんだろうな、久しぶりだな~。こっちに来てお酒なんて飲む暇もなかったし、それほど飲みたいとも思わなかった。


 前の世界では営業でお客さんの接待か、家での晩酌で毎日飲んでいたように思う。

 別にお酒が無くても楽しく生活できるじゃないか。医者に止められて禁酒が辛いと言っていた先輩に教えてやりたいくらいだ。


 ちょっと早いがギルドに到着し、事務所の入り口を開ける。


「こんにちは、ボアンさん」

「やあ、君か。この仕事を片付けるから少し待っていてくれ。上に荷物を置いてくるといい。ミアン君、部屋まで案内してやってくれ」

「ユヅキ、こっちなの。ついてくるの」


 階段を上がった一番奥の部屋が宿泊できる部屋みたいだ。中は2段ベッドが2つと大きめの机と椅子が4つ置いてある。職員が使う宿直室のようだな。

 荷物を置いて事務所に戻ると、ボアンに呼ばれた。


「ユヅキ君。実はクロスボウに関する問い合わせが、職人からも商業ギルドからも来ている」


 クロスボウの詳細は俺にしか分からないところがある。ボアンでは対応しきれずペンディングとなっているようだ。


「すまないが明後日から2、3日連続でここに来てはもらえないか」

「その日は狩りの予定なのだが……。急ぐというのであれば仕方ないが、狩りの仲間とも相談したい」


 俺ひとりで決める事はできない。明日返事をすると言うと、ギルドは休みで誰もいないそうだ。


「デンデン貝を私の机に置いておいてくれないか。無理を言っているので報酬も少し多く出すし、ここに来ている間は2階に宿泊してくれていい」


 どうも忙しいようだな、机の上には書類が積み重なっているぞ。

 ボアンが仕事を終えて立ち上がった。


「じゃあ、皆さん。そろそろお店に行きましょうか」


 幹事役の男性職員が先頭に立ち、店まで案内してくれる。


「そういえばユヅキ君、君はお酒が飲めるのかい? 聞かずに店を予約したもので少し心配していたのだが」

「俺は、大丈夫だ。こちらのお酒がどんなものか知らないから楽しみだよ。ところでミアン、お前は酒を飲んでもいいのか?」

「ワタシはもう成人しているの。お酒も飲めるし結婚もできるの。ユヅキは失礼なの」


 こちらの成人が何歳かは知らんが、16、7才ぐらいにしか見えんミアンは前の世界では完全にアウトだろ。


 予約の店は居酒屋風の2階建てで、カウンターと4人掛けのテーブルが並んでいた。俺達は2階に案内され、細長いテーブルが2列並んだ場所に座り歓迎会が始まる。


「……という訳で職人ギルドに所属してくれたユヅキ君を歓迎する。乾杯」


 木のグラスにビールであろう酒で乾杯する。


「おお~、シュワシュワで割といけるな」


 エールと言う酒で飲み慣れない味だが、ちゃんと冷えていて地ビールといった感じだ。


「ねえ、ねえ。ユヅキさんってどこに住んでるの?」


 確かこの虎獣人の子は、受付嬢をしていた子だな。


「カウスの林の上、山の中腹に住んでいる」

「うわっ、あんなとこから通ってんの! 大変だね」

「ユヅキ君はひとりでこの町に来たのかい? 他に人族は見かけないのだが」

「この国にはひとりで来た。今は猟師の仲間、いや師匠と一緒に狩りをしている」


 なかなか答えにくい質問もあるが虚実混ぜてうまく話す。転生したなど言える訳ないからな。

 ここの料理は美味しいし、ワインのような酒もある。みんな和気あいあいと食べて飲んで、楽しい時間を過ごした。うん、うん。接待とは違うこういう雰囲気はいいものだな。




 ん~、昨日は少し飲みすぎたか……朝日はもうとっくに昇っていた。久しぶりの寝坊だな。しかしアイシャが来るにはまだ早い時間だ。

 宿直室を出てギルドの裏口から外に出る。鍵を閉めてカリンの店に向かうが、途中で何か食べていこうと大きな広場に向かう。


「今の時間、店はやってるのか?」


 こんな早い時間に街を歩いたことはなかったが、広場の周りの店は開いていて食事ができる店もあった。軽い食事をしていると鐘3つが鳴る。


 午前9時だが、大概の店はこの時間に営業している。獣人達の朝は早いからな。カリンの店ももう開いているかと店に向かう。

 だが店のドアには閉店の看板がかかっていた。まだ開いていないのか? 扉を押すと鍵はかかってないようで中に入る。


「カリン、アイシャは来ているか?」

「どうしたの、ユヅキ。ひとりで来たの? アイシャは?」

「昨日この町に泊まって、アイシャとはここで待ち合わせなんだ」

「えっ、アイシャひとりであの山道降りてくんの、なんで一緒にいてあげないのよ!」

「ギルドの用事があったから仕方ないんだよ。それに俺がこの国に来るまでアイシャはいつもひとりでここに来てたんだろ?」

「そういえばそうね。でも山道は危ないんだから一緒にいなさいよね」


 まあ、その方がいいんだが、アイシャは俺なんかよりずっと強いんだぞ。


「カリン、いる?」


 しばらくするとアイシャが入ってきた。


「アイシャ、おはよう」

「おはようユヅキさん、早かったのね。待たせちゃったかしら」


「いや、今来たところだよ」と、どこかで聞いたセリフを口にする。俺が持ってきた毛皮をカウンターに並べていくが、ドアに閉店の看板が出ていたはずだ。


「うちは今日休みなの。アイシャから今日来るって聞いていたから待ってたのよ。買い物でもしようって言ってたのよね」


 そうだな。たまには友達同士、街で遊ぶのもいいことだ。


「あれ、アイシャ、その髪留めどうしたの。綺麗ね」

「あの……、これはユヅキさんに買ってもらって」

「えっ~! ユヅキからのプレゼント! けど高そうな物ね。まさか盗んだんじゃないでしょうね」


 なんてことを言うんだ、カリンは。


 毛皮の取引も終わり、アイシャとカリンと3人で街に出ていく。

 あんまり邪魔しても悪いが、方向は同じだし途中までいいかと大きな広場まで来ると、向こうからミアンが歩いてきた。


「あっ、ユヅキなの。ワタシというものがありながら浮気しちゃだめなの」


 なに言い出すの、この子は。

 そんなミアンにカリンが食ってかかる。


「なに言ってんのよ! あんた誰なのよ」

「ワタシはギルドの職員で、ユヅキの先輩なの。ユヅキは入った時からワタシに色目を使ってきて困るの。周りをウロウロと近づいて気を引こうとするし。でもワタシは一途でまじめな人が好きなの」


 バカヤロウ! 俺はそんな事してねえだろうが。


「本当なのユヅキさん!」

「いや、いや、いや。そんな訳ないだろう。ミアン、変なこと言うなよ!」


 その後もミアンは勝手な事を口走る。


「でも、まじめに働いて、ワタシにちゃ~んと気を使って優しくしてくれたら、考えなくもないの」

「なに言ってんのよ、ユヅキは私達の方が先なんだからね」


 カリンこそ何言ってんだよ。先ってなんだよ、先って。

 おっ、カリンも気がついたのか、顔が真っ赤になっているじゃね~か。


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