表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/352

第36話 ギルドの仕事

 商業ギルドのふたりが去った後、ボアンは俺に数枚の紙とインクを渡してきた。


「その弓の部品図と組立図を描いてもらいたい。ギルドへの登録書類と、職人に見せてどう作るか話し合ってもらう」

「描き方は鍛冶屋のエギルに渡した図面の形でいいか?」

「あれは分かりやすかったな、それで頼む。正式書類となるので、ここに君の名前を書いてくれ」


 インクで墨入れする図面だな。これが正式な特許出願と設計図になるようだ。だがずっとここに居て図面を描く訳にもいかない。


「俺はカウスの林の山に住んでいる。狩りもしなくちゃならんから、1週間後の昼に持って来るがそれでいいか?」

「君の事情はエギルからも聞いている。それで充分だよ」


 了解も取れたし、持ち帰る紙とインクとペン一式が入った革の袋を手に持つ。


「君はこのギルドの技術職員ということになる。もちろん給料も支払う。今後はここで行なう打ち合わせに参加して、その弓を完成させてほしい。では、下に行って皆に紹介しよう。一緒に来てくれ」


 俺は荷物を持って、ボアンと一緒に下の事務所に降りていく。こんなのは新入社員の時以来だな。何年も会社勤めしているから慣れてはいるんだが。


「みんな仕事中すまないが、ちょっと聞いてくれ。この者はユヅキという。今日からここの技術職員として働いてもらう。非常勤で時々しか顔を出さないが、よろしく頼む」

「俺はこの国に来て間がない。知らない事も多いがよろしく頼む」


 おや? お茶を持ってきた猫獣人がいるぞ。ニコッと微笑んだが、目を逸らされてしまった。なぜだ!


「ユヅキ君、今日はこれで終わりだ。そこの職員に今日の分の給料をもらって、帰ってくれて結構だ」


 ボアンは書類を1枚その職員に渡して自分の席に戻っていった。


「ユヅキさん、ではこちらへ」


 俺は羊獣人の女性職員に案内されて、大きな机の前に座る。


「ユヅキさんは非常勤なので、仕事が終わったら私の所に来てください。その日の給料をお支払いします」


 なんと日給制でその都度お金がもらえるのか。


「私達職員は6日働いて2日休みの交代制なんです。私が休みの日に仕事があれば次回来られた時、一緒にお支払いします」


 この世界で週休2日制とは、すごいホワイト企業じゃないか。


「では、今日の分です。どうぞ」


 羊獣人の女性職員は机の引き出しから銀貨12枚を俺に差し出す。今日だけでこのお金がもらえるのか! ホワイト企業バンザイ。


 俺はお金を革袋に入れて職人ギルドを後にした。少し遅くなったがカリンの店に戻るとしよう。



「ユヅキ、遅いわよ。アイシャが待ちくたびれているじゃない!」


 いや、カリンに怒られる筋合いはないのだが。


「すまんな、アイシャ。そっちの用事はもう終わったのか?」

「ええ、こっちは。ユヅキさんは何か問題でもあったの?」

「いや、色々あって職人ギルドの職員になった」

「あんた、鍛冶屋のエギルさんに呼ばれただけで、なんでギルド職員になんのよ。おかしいでしょ!」


 いやだからな、カリンは怒らなくてもいいぞ。


「職員といっても、時々ギルドに出向いて頼まれた仕事をするだけだから。今まで通りちゃんと狩りもするぞ」


 説明すると、アイシャはなんだかホッとした顔をする。


「それにな、給料もくれる。今日も銀貨12枚もらってきたんだ」

「はあ~、なんでこんな短時間でそんなにもらえるのよ、あんた悪い事してんじゃないの!」


 いやちゃんと仕事? 打ち合わせ? したぞ。確かに午前と午後合わせて半日ほどだったがな。


「まあ、詳しくは家に帰ってから話すよ。アイシャ、そろそろ帰ろうか」

「そうね。カリンありがとう、また今度ね」


 俺は食料品などの荷物を抱えてカリンの店を出る。


「じゃあ、ユヅキさんはその弓を職人さんと一緒に作るってこと?」

「ああ、多少は忙しくなるが狩りの空いた時間にできると思うぞ。アイシャには迷惑をかけないようにするよ」

「迷惑だなんて。お仕事上手くいくといいわね」


 夕食の後、俺は早速クロスボウの図面を描いていく。


「へぇ~、これがズメンっていうお仕事? なんだか難しそうね」

「それほど難しいものでもないが、少しずつでも進めておきたいからな」

「うん。じゃあ先に休むわね。おやすみなさい、ユヅキさん」

「ああ、おやすみアイシャ」


 翌日からは狩りや毛皮作りの合間にも図面を描いていく。丸一日の休みもあるし1週間あれば完成できるだろう。

 2日間の狩りでは鹿1頭とウサギ7匹が狩れた、上々である。毛皮作りもアイシャが頑張ってくれて、図面を描く時間を作ってくれた。すまないなアイシャ。


 前の世界では仕事に急き立てられ、只々忙しかった。

 慣れない営業に回されて先輩に怒られて、好きでもない人付き合いで夜遅くまで残業が続いた。何のために仕事をしているかも分からなくなっていたな。


 今は、やりたかった物を創り出す仕事をしている。パソコンも無い、三角定規も自分で作った、不便この上ないが自分の手で創る喜びがある。毎日が充実している感じだ。

 予定通り図面を描き上げ、明日は町に降りて職人ギルドへ行く日だ。


「アイシャ、明日はひとりになるけど大丈夫だよな」

「ええ、休みだし山菜取りでもしているわ」

「今日は少し疲れたよ。悪いが先に寝かせてもらうな」

「そうよね、明日も早いし無理はしないでね。おやすみユヅキさん」

「ああ、おやすみアイシャ」


 久しぶりに机の上の仕事が続き疲れていたのか、ベッドで横になるとすぐ眠りに落ちてしまった。


 翌朝。アイシャと朝食を食べた後すぐ町に向かう。

 今日は弓を作ってくれる職人さんも来てくれるはずだ。プレゼンのようなものをするのだろうな。そのあたりは前の世界での経験が生きる。

 考え事をしながら町の城門を潜ると、ついカリンの店に行く道に向かってしまった。


「おっとしまった。今日はこっちの道だった」


 少し後戻りしたが、早い時間に職人ギルドに到着し、俺は、ギルドの事務所の扉を開けて中に入っていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ