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第35話 職人ギルド2

 ギルドマスターのボアンが、加入手続きの書類を俺の前に置いた。


「君は字が書けるか? ここに名前を書いてもらいたい。押印だけでもいいんだが、登録した他の書類と合わせるのにサインがあった方が分かりやすいんでな」

「こちらの国の字でなくてもいいのか」

「ああ、サインだからな。当人だと分かればいい」


 それならと、書類の下に、夢月(ゆづき) 御家瀬(みかせ)と漢字でサインする。


「これは何と読む? こちらでフリガナを書こう」

「ユヅキ ミカセだ」

「なるほど、家名持ちか、どうりでな。ではここに押印してくれ」


 親指を置くと少し光り書類に印が残った。門番の取り調べ室で作った書類と同じだ。これ魔法だよな。


「もうすぐしたら商業ギルドの連中が来る。その時にそのクロスボウを見せてやってくれるか」

「ああ、分かった。使い方を説明すればいいんだな」

「そうしてくれ。悪いが私は下で仕事がある。来たら君に知らせるから、ここで待っていてくれるか。飲み物でも持ってこさせるから、ゆっくりしててくれ」


 ボアンが出て行ってしばらくすると、女性職員がお茶を持ってきてくれた。

 俺には分かるぞ。三角に尖がって中までモフモフで、よく動くその耳は猫であると。君は猫獣人だな!

 耳をモフモフしたい気持ちを押さえて、静かに声をかける。


「ありがとう、お嬢さん」


 キランと渋い笑顔で見つめたら、怯えられてしまったぞ。なぜだ! 俺はモフモフを愛でたいだけなのに……。

 意気消沈している俺をボアンが呼びに来た。


「商業ギルドが来たぞ。こっちに来てくれ。ん~、どうした落ち込んで」


 いえ、何でもありません。

 ボアンと向かった先は、少し広い会議室のような部屋だった。


「お待たせして、すまんな」


 ボアンの隣に俺が座り、向かいには狐獣人の女性とガタイのいい狼獣人の男が座っている。

 女性は三角の耳がピンと立った、女優かと思うぐらい優美な獣人だった。


「いいえ、いいのよボアン。早速だけど例の弓のことが分かったそうね」

「ああ。そのクロスボウを、このユヅキ君と一緒に開発する事になった」

「開発ですって! あっ、申し遅れたわね。私は商業ギルドのマスター、シェリル。お見知りおきを」


 俺に向かって挨拶した女優のような人が、ギルドマスター……総責任者なのか。


「例の弓はユヅキ君が作ったものでね。職人ギルドに加入してもらって、ギルドとして開発していくことになった」

「人族が職人ギルドに加入? 輸入ではなく新しい武器だというの?」

「ああ、まったくの新機種だ。だがその弓はまだ試作品でね、完成させて製造するにはもう少し時間がかかる。試作品を見て、売るかどうかの判断をしてもらいたい」


 シェリルと名乗った商業ギルドのマスターが、少し考えるような仕草をする。


「新しい武器ということは、値段もついていないということね」

「そうだ。こちらのコストは計算して出すが、売る場合の売値はそちらで自由に決められるということになる。売り上げの一部は職人ギルドに収めてもらうがな」

「それは構わないわ。その弓の試作品というのを見せて頂けるかしら、売れる物でなければ意味ないことだし」


 俺は部屋に持ち込んだクロスボウをテーブルの上に置いた。


「これが、そのクロスボウだ。これは弓を扱えない俺が狩りで使うために作ったものだ」

「ジル、ちょっと見てくれる」


 ジルと呼ばれた狼獣人が弓を手に取り、弦を引くなど色んな角度からじっくりと観察する。


「確かに見たことのない弓だ。実際に使ってみたいがいいか?」

「そうだな、裏庭で試してくれるか」


 4人で裏庭に行き試射することになった。

 ジルという獣人が弓を扱い、俺が使い方を教える。ふたりのギルド長には危なくない場所まで下がっていてもらおう。


「この弓はどれぐらい飛ぶ?」

「矢を飛ばすだけなら、70m……いやこの端から壁を越えて倍以上飛ぶが、的に当てるとしたら、壁の手前のあの木ぐらいだろうな」

「なるほど、どう扱うか教えてくれ」


 武器の扱いには慣れているのか、使い方を教えたらテキパキと操作し撃つ体勢になる。的には大きな木の板を用意してもらった。


「よろしいか?」


 いいと言うと引き金を引き矢を放つ。矢は勢いよく飛んで行き、的の板に突き刺さる。


「すまんが、もう1本撃たせてくれ」


 矢をもう1本渡すと、サッと弦を引き矢をつがえて撃つ。

 矢は同じような場所に突き刺さった。照準器があるとはいえ、初めてで同じ場所に当てるとは、腕がいいんだろうな。


「なるほど、よく分かった」


 ジルはクロスボウを両手に持って丁寧に俺に返してきた。その後4人はそろって元の会議室に戻り、話を再開する。


「見た感じ武器として機能しているようだったけど。どうだった、ジル」

「扱いが簡単な割に威力もあり正確だ。もっと威力はあってもいいと思えるが」

「普通の弓と同じように、弓の強さは何種類かのタイプを用意するつもりだ」

「どの客層に売れるかは、こちらで考えるとして開発は進めてもらえるかしら、ボアン」

「分かった。ではそういうことで、よろしくな、シェリル」


 ふたりのマスターが握手をした。交渉は上手くいったようだな。


「ユヅキさんと言ったわね。もし売れるものがあれば、直接私の所に来てもいいのよ」

「おいおい、そういうのは止めてくれんか」


 笑いながら冗談を言うふたりは、昔からの付き合いなのか仲がいいな。

 商売となるとそうもいかんのだろうが、同じ仕事をするならこんな風に気心の知れた相手としたいものだ。


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