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第173話 ブリシアン将軍

 あの人族の小さな部隊、部隊司令官の名前は何と言ったか……。確かユヅキだったか。

 南部地方を後にして、この帝都までの撤退戦で我々の後を追い、ことごとく邪魔をしてきた部隊だ。


 34輌の鉄車と、後方からの魔法攻撃。攻撃の数は少ないが、魔術師の中に魔女がいる。時折ドラゴンも攻撃を仕掛けてくる。

 後方に伏兵を置き、我ら本隊と挟み撃ちにした事もあるが、作戦が見抜かれ別動隊が全滅した。結局俺は、巧みな部隊運用を行なう少数精鋭の鉄車部隊を追い払うことができなかった。

 戦闘を行なう度に、こちらの戦力が削られていく。このような戦いは将軍になって初めてだ。



 俺が冒険者を辞め軍隊に入ったのは、集団による戦闘が個人による魔獣狩りよりも数段優れていると思ったからだ。

 しがない冒険者をしていた俺に、軍隊へ来ないかと誘ってくれた知り合いは、『スタンピードや他国からの侵略に対処できるのは軍隊だけだ。帝国の軍隊は世界一の軍隊だ』と教えてくれた。


 確かにそうだ。いくら個が強かろうが、数の暴力に対抗できるのは組織だった集団だけだ。

 俺は軍に所属し、軍隊の運用、戦略や兵站の重要性を学んだ。学べば学ぶほど奥は深く、それを知るために広い知識が必要になってくる。


 小さな頃より、父親はおらず母ひとり子ひとりの貧しい家庭だった。早く母に楽をしてもらおうと、冒険者になり金を稼ぐ道しか俺にはなかった。体格には恵まれていて、剣術を教えてくれる師範にも巡り合えた。

 駆け出しから3年、冒険者ギルド内では一番若く白銀冒険者となることができた。俺の事を知ったパーティーメンバーの父親が軍隊に入らないかと声をかけてきた。


 その大隊長が言うには、軍隊に入れば一からの出発で、今稼いでいるより低い給金となるが、君ならすぐにでも昇格できるだろうと言われた。聞くと軍隊は定期的な給金が出て、一定階級以上は辞めても慰労金が支給されるらしい。

 家計はやっと安定し、ある程度の貯蓄もできるようになっている。給金が安くなるのは痛いが、辞めた後もある程度の保証があるというのが気に入った。


「母さん、俺、軍隊に入る事にするよ」

「あんたはまだ若いんだ、自分の好きなことをすればいいんだよ。母さんの事は気にかけなくてもいいからね」

「もう少しだけ苦労をかける事になるけど、すぐ上に上がって楽させるから心配しないでくれよ」


 帝国の軍隊は実力があれば、どこまでも登っていける。冒険者として鍛え上げた肉体と技で俺はすぐに上等兵になれた。

 その後6人の部下を持つ小隊長に、俺は抜擢された。

 人数は冒険者パーティーと同じ程度だが、小隊は作戦の一部を担う最小単位の部隊として機能する。

 作戦を理解し部下に指示を出す。もとより俺が求めていた戦術の一部、作戦を確実に実行していく駒のひとつとなる事が俺の仕事だ。


「上の命令に従うだけで、面白くもない」


 そう言う同僚を尻目に、俺は戦略や戦術、兵法を学び自分の部隊の強化に努めた。

 強くなければ生き残る事はできない。生きて作戦を遂行せねば、全体として機能しない。個の武ではなく、より大きな敵と対峙するための集団としての武を極める。これが俺の目標だ。


 その後も俺は中隊長、大隊長、部隊長、そして連隊長へと登っていく。実力があればどこまでも登っていける。

 だがそれは嘘だった。


 上の副師団長以上になるためには、帝国貴族の一族かその後ろ盾がなければ実力があろうとも登用されない。

 生まれながらにその地位は決まっているのだ。

 だが貴族に取り入り、後ろ盾となってもらうことはできる。


「どの派閥が、この先有利になると思うか」


 信頼できる配下と共に検討する。


「第1皇子の派閥が一番有力であります。次に第2皇子となります。第1皇女の派閥は数が少なく、幼い第3皇子は派閥すらありません」

「第1皇子の派閥は、既に主要貴族で占められており入り込む余地は少ないかと。第1皇女には軍部に進言できるような貴族はおりません」

「すると第2皇子に属する貴族のいずれかになるか」

「第2皇子が管理する帝国の南半分は、戦闘も多く武人の家系が集まっています」

「中には跡継ぎが戦死した貴族もあり、狙い目かと」


 俺は賄賂を送り、貴族との顔つなぎや社交界へ赴く際の護衛として貴族社会への参加を果たした。

 何度も護衛でパーティー会場の壁際にいることが多くなったが、大柄の俺は目立つようで、声をかけてくる貴族もいる。


「あなたはブリシアン連隊長か。武名は聞き及んでおりますぞ」


 師団の中で俺の連隊は筆頭の戦果を上げていて、俺の名を知る者もいる。

 この家も武闘派の家系だったはずだ。


「今度、孫の護衛を頼まれてくれんか。遠出をしたいとせがまれてな」

「はっ! 身に余る光栄。我が精鋭と共に受けさせていただきます」

「そなたの部隊なら安心じゃ、よろしく頼むぞ」


 子守であろうとなんであれ、貴族との繋がりができるなら何でもしてやる。


「本日の護衛を勤めさせていただくブリシアンです。よろしくお願いいたします」


 貴族の屋敷に出向き挨拶する。


「よく来てくれたな。孫のヴェアリスだ」


 紹介された孫は成人を済ませ、とっくに社交界にデビューしているであろう娘であった。

 アルベル家にはもっと小さな子供がいて、その護衛だとばかり思っていた。


 確か社交界に出ず、引き籠っている長女がいると聞いていたがその娘か……。


「今日は1日、よろしくお願いしますね」


 俺の顔を正面から見て挨拶してくる。俺の大柄な体と厳つい顔のせいで若い娘さんには怯えられることが多い。俺は迂闊にも、その美しさに見惚れてしまった。

 父方は武を重んじる家系だそうだが、母方の祖母が医師でその影響から薬草などの植物に興味を持ったそうだ。今日は山に入り薬草採取をしたいと言う。


 その任を全うした1週間後、またアルベル家から護衛の依頼が来た。ヴェアリス嬢が別の山に行きたいと言っているそうだ。

 前は少ししか話すことができなかったが、今日は色々と話せた。ヴェアリス嬢は俺の冒険者時代の話に興味を持ってくれる。俺には草の事や山で見た湖が綺麗だったと、楽しそうに話してくれた。


 俺には分からない専門的な事も多いが、楽しそうに話すヴェアリス嬢を見ているだけで嬉しくなる。

 1年後、俺はアルベル家へ婿養子として迎えられ、最良の伴侶を得ることができた。


 そして今、俺は将軍としてこの帝国を支えている。ユヅキ、お前の思い通りにはさせん。撤退戦はもう終わりだ。ここからは全力を持ってお前を潰しにかかるとしよう。


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