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第168話 南部戦線 帝国撤退

「ブリシアン将軍。皇帝陛下からの命令書と書状をお持ちしました」


 ようやく来たか。人族と全面対決し双方とも損耗して膠着状態になっている。今回の増援があれば決着をつけられる。


「お前は、オルティア皇女の参謀だな」

「はい、ビアギルに代わり私が兵と共に派遣されました」

「……要請していた兵の数と合わんようだが」

「南方遠征軍には撤退命令が出ております」


 撤退命令だと! 俺は椅子から立ち上がり、怒りに任せてそいつの持ってきた命令書を手に掴み取り確認する。


「帝都はここの状況が分かって言っているのか! 増援があれば人族を壊滅できるのだぞ」

「帝国北方の国境にて、大きな紛争が起きました」


 ワナワナと震えた手で握りつぶした命令書を床に叩きつける。


「そんなもの俺の知った事か! これまでどれだけの犠牲を払って、ここに留まっていると思っているんだ。北方はスディーバ将軍の管轄だろうが」

「ダークエルフの里の襲撃に端を発し、共和国との抗争となり現在大規模な戦闘となっています。その際にドラゴンが3体参戦し帝都に侵攻中とのことです」


 ドラゴンが3体だと! 北方にも人族がいるのか?! 大空を自由に飛ぶドラゴン。人族の国から北方国境まで移動する事も可能ではあるが……。

 人族に手を出すと言うことは、こういう事なのか。昔の大戦の二の舞ではないか。今度は帝国が滅ぼされる……


「そのため、帝都の守りを固めよとの命令です」

「しかし今、撤退すれば追撃を受け、また多くの犠牲者が出る……」

「多少の犠牲は仕方ないかと。皇帝陛下からの勅命でありますので」

「この地に赴き人族の国を攻めよと言うのも、皇帝陛下からの命なのだぞ。そして今また撤退せよと言うのか!」

「それ以上は反逆罪に問われます。撤退のルートについては考えております。どうか命令に従っていただきたい」


 ◇

 ◇


「キイエじゃない! どうしてこんなところにいるのよ」


 キイエの鳴き声を聞いてカリンもやって来た。キイエの背中にはデンデン貝が2つと帝国北部の地図が括り付けられていた。

 そのデンデン貝には、懐かしいアイシャの声が録音されている。


「アイシャだ。アイシャとチセが来てくれているぞ」

「セルンも来てくれて、戦っているって言っているわ」


 カリン宛のデンデン貝にはセルンからの伝言が入っていたようだ。

 俺は急いで現地司令部のテントへ行く。


「俺の仲間が帝国の北で戦っている。帝都に向けて侵攻中だそうだ」

「なるほどそれでか。ミアプラの町にいる帝国軍の半数が、東海岸の後方へと移動をしている。その行動が我々をおびき出す罠か、撤退行動なのかを議論していたところだ」

「北部の戦いのために撤退しているんじゃないのか」

「そう見せかけた罠かもしれんが、総司令部にも別ルートで北部での戦乱についての情報が入っているそうだ。その情報源の人物をこちらに送ると言っている」


 帝国北部の情報をこの人族の部隊まで届けた者がいるのか? アイシャ達は俺に直接キイエで連絡してくれた。港の総司令部ということは船で来た人物か。


「司令。総司令部から送られてきた人物を通しますが、よろしいでしょうか」

「構わん、ここに通してくれ」


 情報源という人物が来たようだ。部屋に入ってきたのはウサギ獣人の女性だった。


「ユヅキ様。やはりあなたはここにおられたのですね」

「君は確かソニアさんのお姉さんじゃないか」


 アルヘナ動乱の際にソニアさんからお願いされて、領主に付いていた暗部の3人を助けたことがある。


「はい、オリビア・ハメイトンと申します。アルヘナでは命を助けていただき、ありがとうございました」


 あの時助けたふたりと共に、今は帝国内の情報収集をしているそうだ。デンデン貝でソニアさんやギルドマスターからも、オリビアさんをよろしくと言われた。


「今、戦っておられる南方方面の将軍はブリシアン将軍ですが、帝都への撤退命令が出ています」

「すると今の帝国の動きは罠でなく、本当に撤退していると」

「はい、皇帝からの命令ですので、逆らうことはできないでしょう」


 さすが、諜報に長けたハメイトン一族だ。帝国内部の情報も教えてくれた。だがここの司令官はその情報が正しいのか判断に迷っているようだな。戦局を動かす重要な情報ばかりだからな。


「ユヅキ君、この方の情報は正しいのだろうか」

「この人というか、ハメイトン一族は古来より、情報収集から暗殺までをこなす優秀な暗部として活躍してきた一族だ」

「二重スパイという事はないのかね」

「別の知り合いからも、よろしくと頼まれている。大丈夫だ」


 ギルドマスターのジルからの伝言だ。信用して間違いない。


「ユヅキ様は命を助けていただいたお方です。裏切るような真似は致しません」

「分かった。ならば明日帝国を追撃するようにしよう。ただし人的損害を出さぬよう長距離攻撃を主にした戦いをするように。皆、準備に取り掛かってくれ」


 俺とオリビアさんは司令部のテントを出て、カリン達の待つテントに向かう。


「オリビアさん、俺に付いて働いてくれると言う事だが、俺は給金を出す余裕はないぞ」


 オリビアさん達暗部というのは、領主やギルドマスターに雇われて働くものだ。俺のような一介の冒険者ではとても雇えるようなお金を支払うことはできない。


「私の事はオリビアと呼び捨てで結構です。今回の帝国の件が終わるまでは、ユヅキ様に尽くすようにと族長からの命令です。恥を(そそ)ぐようにと言われております」


 まあ、こんな優秀な諜報員をタダで雇えるならすごい儲けものなんだが、このバニーガールの人達は怖いんだよな~。


「オリビアさん、それじゃ俺の仲間の所まで挨拶に行こう」

「私の事はオリビアと呼んでいただければ……」

「いやいや、君のような優秀な人が俺のために働いてくれるんだ、仕事仲間ということでお願いするよ」

「そうですか……ユヅキ様は人が良いのですね。私がユヅキ様にお仕えすることに変わりありませんので、それで結構です」


 オリビアさんの情報通り帝国軍は撤退していく。占領していたクロウサギ族の町に籠城する部隊も置かずに、夜中に町でかき集めた物資を慌てて馬車に積み込んだようだ。


「帝国軍はミアプラの町をそのままにして撤退するようだな」


 行軍スピードを上げるためか、夜逃げするように町を出てすぐに東海岸へと入って行った。

 殿(しんがり)に少数の部隊を置き、人族の足止めをしながらの撤退である。人族は殿を撃破しながら追撃していく。


「オリビアさん、帝国とはこのような行動をとるものなのか? 犠牲が相当出ているようなんだが」

「皇帝から直接の命令が出ていますので、それを完遂することが一番となります。反すれば粛清が待っていますので」


 とはいえ人族としては敵兵がいないか、慎重に確認しながらミアプラの町へと入って行く事になる。ここまで人的被害もなく町を解放できたので、ありがたい事なんだが少し時間がかかるか。


 さてここで、俺は軍の人達と相談をしないとダメだな。


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