第167話 北部戦線2
ここは帝国反抗作戦の中枢となる司令部で、北西部戦線と称している場所。今回はミスリルランクである私も参加する。ここの最高位である私が、この場の指揮を執らないとね。
地図を睨みながら、敵部隊のどこを攻撃するか指示を出す。
「ここよ! ここを私が叩くわ」
帝国の弱い部分。ここを攻撃することで敵兵力を分断できるはず。後はどう連携するかだけど……。
「ならば、我がダークエルフがこちらの部隊殲滅にあたろうかのう」
「それじゃ、王国冒険者はこの部隊の足止めをしよう」
「セルンと私達は中央の側面から攻撃します。今回はキイエも出して空からの支援をします」
「よろしく頼むよ。アイシャ殿」
「はい。こちらこそ、よろしく里長」
「よし、じゃあ準備しようか。共和国の人、補給の段取りを頼むぞ」
「へい、それは私ども商業ギルドに任せてください」
へっ、なに? もう決まったの? 私は地図を指差したまま固まってしまった。
何も言ってないのに、私の意図を理解して各部隊の役割が決まってしまった。
「メルフィルさん、ひとりで大丈夫ですか?」
こんなちっちゃな子にまで心配されるなんて。
「なに言っているのかしら。私はミスリルランク冒険者よ。これくらい大したことないわ」
「そうよ、セルン。近くには私達や冒険者のみんなもいるから、何かあれば助けに行けるわ」
「ここの中央突破は任せなさい。あなた達はちゃんと私の後について来るのよ」
私の大魔法を合図に各部隊が動き出す事になっている。帝国の部隊は無理な行軍を行なって中央部が間延びしている。切り裂くのは簡単だわ。後は分断した部隊に集中攻撃を仕掛ければいい。
さて、あの帝国軍に私の可憐な魔法をお見舞いしましょう。
私が一番得意とする魔術、炎をまとった岩を上空から敵に浴びせる。それを合図に各部隊が一斉に動き出す。私の後方からも大魔法が発動された。
「ワイド ウインドカッター」
「ギガ ストーン」
「トルネイド タイフーン」
このセルンって子は何なの。50人以上を切り裂く巨大な風の刃、マンモス魔獣を横倒しにした巨大な岩魔法、いくつもの竜巻が交差する風魔法。大魔法を連発しているじゃない。
「さすがあいつの弟子ね。ド派手な魔法ばかり使っているわ」
私はもう一方の部隊の足を止めるため、広範囲に沼を作る。見なさいこの広くて美しい沼を。そして濃霧。水と火魔法の微妙な連続技から作った霧。こんな魔術が使えるのは私だけだわ。
「メルフィルさん、こちらは終わりました。加勢します」
あら早いわね、もうこっちに来たの。それなら遠慮なく、また得意の隕石魔法を使おうかしら。沼で動きの遅くなった帝国兵に隕石が広範囲に降り注ぐ。
「すごいですね、メルフィルさん。お師匠様以外でメテオラ見たの初めてです」
そういえば、あいつもこの魔術を使っていたわね。
「あなたもこれを使えるのかしら」
「ええ、お師匠様ほどじゃないですけど。チセ姉さま、どこを狙ったらいいですか」
「それじゃあ向こうの弓使いと魔術師のいる所を狙ってくれる」
このドワーフの娘、遠見の魔道具を使っているわね。この娘もユヅキの家にいた娘だったかしら。
「チセ姉さま、あそこですね。メテオラ!」
まあまあの威力ね。それにしてもよくあんな遠くを正確に狙えるわね。まあいいわ、これでほぼ全滅ね。次は東部にいると言う共和国軍の応援にでも行ってあげましょうか。
◇
◇
「皇帝陛下。北西部地域にて反乱を起こしたダークエルフ族が国境を越えて侵攻しております」
人族と獣人は根絶やしにせよと言ってはいるが、ダークエルフに対して手を出せと言った覚えはない。この広い帝国内、辺境であれば予の言葉も霞む。そのためダークエルフ族を敵に回すとはな。
「北東部地域では共和国軍が介入、国境を超えた模様です」
「共和国は何と言っておる」
「共和国民となったダークエルフ族の救出のため、国境を越えると言っております」
ダークエルフ族の力が欲しいのは分かるが、共和国が国を挙げて介入してくるとは計算外ではあるな。それにしても動きが早過ぎる。共和国がすぐに軍まで動かし、国境を越えて侵攻してくるとは。
「皇帝陛下。その北部戦線には人族が関わっているようです。戦場にてドラゴン3体が確認されました」
「ドラゴンが3体もか! 南部地方でもドラゴンが1体。帝国は4体のドラゴンに囲まれておると言うのか」
何という事だ。南部に出現した白いドラゴンに続き、北部に赤竜と緑竜、そして子供ではあるが青竜まで現れるとは……。その報告を聞き、この場にいる帝国貴族達も騒めき立つ。
「南部地方のドラゴンは、ブリシアン将軍が落としたと報告が上がっております」
「おおっ、さすがブリシアン将軍だ」
その戦果に、他の帝国貴族の者が賛辞を贈る。ドラゴン相手に引かぬとは大したものである。勲章も準備しておかねばならんな。
「皇帝陛下。その際、南部地方の戦場に魔女が出現したそうです。まだ未確認ですが、北部にも2人の魔女がいるものと思われます」
「魔女だと!!」
どういう事だ。王国はこの戦いに介入しないと言っていたではないか。北部に来ているのは王国の魔女であろう。
「王国への確認は取ったのか」
「はい、王国の3人の魔女は国を出ておりません。王国は不介入との回答です」
「だが王国の冒険者ギルドが動いているのではないのか」
「どうも単独で帝国国境まで来ているようです」
それにしても魔女3人は多すぎる。王国魔女の1人は年老いており、共和国には1人しか魔女はおらぬ。防衛以外の魔女を国外に出す余裕はないはずだ。
他国と関係を持たぬ人族。大陸の南端にある国に帝国が戦争を仕掛けたからとて、他国には関係なき事。
だが他国の行動は早く、魔女までが戦場に出てくるとは……。近年にない大戦争の様相を呈しているではないか。一体何が起こっているというのだ。
「諜報部によると、南部は人族の極秘の魔女、北部の魔女は共和国のひとりと王国の後継魔女ではないかとみております」
「お父様、海洋族に共和国、そこに王国まで介入してくるとなると全世界を敵に回すことになります。帝都の守りを固めた方がよろしいのでは」
確かにそうだな。この戦い、予の想定を大きく外れておる。魔女3人に残りドラゴンが3体……その戦力に対抗するためには、帝国の全兵力をもってあたらねば。
「二正面の敵と戦うのは不利。南方遠征軍を帝都に呼び戻せ」
「はっ、了解いたしました」
我ら帝国は王国を仮想敵国として、魔女3人と戦う作戦案は持っている。南部から攻められる想定はないが、少し作戦を練り直せばよい。そのためにも時間稼ぎをしておかねば。
「お父様、やはり人族に手を出したのが間違いではなかったのですか」
「何を言っておる。我が帝国は人族を滅ぼすのが国是。お前はそれに異を唱えるのか」
人族を滅ぼすのは予の悲願。そのため何年もかけ人族の国を調査し、兵力を増強し準備を整えてきたのだぞ。
「申し訳ありませんでした。私は南方方面の支援に当たります」
「オルティア、そのようにせよ。エイドリアンは共和国軍にこれ以上の侵入を許すな。トゥルヌスは速やかに兵を帝都に集めよ」
「はっ、御意のままに」




