第163話 南部戦線1
「みんなもう少し頑張るのよ」
「はい、ハルミナ先生」
帝国軍が全勢力で襲ってきている。さっき爆弾を落としたグライダーが北の方へと向かって行ったから、ユヅキさん達が来てくれるはずだわ。それまで何としても耐えないと。
「右翼01から25戦車部隊、後退せよ。中央はそのまま戦闘継続」
さっきから無線の声がうるさい。徐々に後退させているようだけど燃え上ってる戦車もある。
「魔術師部隊、中央前面を攻撃せよ」
「みんな、聞いた。真ん中に向かって魔法を撃つわよ」
火や風、水など得意な魔法で攻撃し、迫る敵を戦車と共に撃退していく。
「カオル! 大丈夫。しっかりして」
魔力切れを起こしているようね。
「この子を後方へ」
魔力量の多い子供達が選ばれているけど、全体的に非力な子が多い。もう3人も魔力切れになって下がらせた。
左の方では白兵戦が行なわれているようだわ。あそこにはタティナがいる。高速移動しながら戦っているのがチラチラと見える。
「さあ、私達も頑張るのよ。次は右の戦車が下がった辺りを攻撃するわよ」
帝国軍は騎馬を使って素早く攻撃してくる。魔法耐性のある鎧を着ていて魔法攻撃も効果が薄い。
「これなら、どうかしら」
浅い沼を広範囲に作って、相手の進行を遅くする。これなら魔法耐性も関係ない。ユヅキさんに教えてもらった戦法だ。動きが遅くなれば戦車の人達で敵を倒せる。
「キャー」
「どうしたの!」
右の森の方から直接攻撃を受けた! なぜ! そんなに近づいた敵はいなかったはず。
中級魔法だろうか威力のある魔法が複数撃たれて、あの子たちが怪我をしている。
「お医者さんの兵隊さん、こっちへ来て!」
無線機に向かって叫ぶ。攻撃があった方に魔法攻撃したけど、どこに敵がいるか分からない。
「先生、ハルミナ先生。こんな大怪我をしています! どうすれば……」
腕がちぎれて泣き叫んでいる子がいる。近くの兵隊さんが腕を縛り上げて血を止めてくれる。こっちの子はぐったりして動かない。足に酷い怪我をしている子もいる。
「あなた達はこちら側にまとまって」
怪我した子達を後ろに寝かせて、他の子は攻撃があった反対側に移動させる。
「よくもこの子達を!」
火魔法をいくつも撃ち森を焼く。私が攻撃して後ろにいる子達を守らないと。
「俺達第08小隊が前に出る。ハルミナ! お前は司令部の言う方向に攻撃をしろ」
無線機から大きな声が聞こえて、攻撃のあった森に向かって戦車6輌が突撃していった。
「魔術師部隊は左翼後方に攻撃を集中せよ。左翼前面に沼を生成。足止めを」
右からの攻撃が気になるけど、今度攻撃されたら私が防いでみせる。
「さあ、あなた達は左の後ろに向かって魔法攻撃よ」
司令部の指示にしたがって攻撃を続ける。さっき戦車が突撃していった右の方から激しい戦闘の音が聞こえるけど、こちらからはよく見えない。
左の方で戦っているタティナも心配だ。
「こちらグライダー機、ユヅキだ。攻撃参加する」
ユヅキさんだわ。ユヅキさんが来てくれた!
上空には白いグライダーが帝国軍に向かって飛んで行った。グライダーから魔法攻撃をしている。カリンも乗っているのね。
「魔術師部隊は中央前面にのみ攻撃を集中せよ」
「さあ、みんな頑張るのよ」
まだ敵の数は多いけど、ユヅキさんも来てくれた。このまま頑張れば大丈夫、大丈夫よ。
「何! 一体あれは何なの!」
帝国軍の後方からすごい数の魔法攻撃が空に向かって撃たれた。地上からグライダーに向かって白い線を引きながら、何本も撃たれる魔法弾。
「ああ、ユヅキさん……」
グライダーが魔法攻撃を受けて落ちていく。
◇
◇
「左翼を前に出せ。砂漠側へ追いやるように軍を進めよ」
「将軍、ドラゴンが戻ってきて攻撃しております」
「魔術師部隊に通達。全勢力を持ってドラゴンへの攻撃を行なえ。前衛部隊は敵の鉄車を近づけさせるな」
ドラゴン対策用の三人一組による長射程魔法攻撃だ。
開戦当初に飛び去ってまた舞い戻ってきたドラゴン。この疲れたドラゴンでは、我らの総攻撃に耐える事はできまい。
「ドラゴン、撃墜しました!」
「よし、本隊も前へ出よ!」
人族も巧みに躱しながら後退しているようだが、このまま力で押し切れば我らの勝利は間違いない。
ドラゴンも落ちた。敵の鉄車も4分の1は潰したか。もうあと一息だ。
「将軍! 魔女です。魔女が砂漠に出現!!」
「なんだと! なぜここに魔女がいる」
各国に2、3人しかいないと言われる、魔術師の最高峰。たったひとりでも戦局を変えてしまう魔術と魔力量を持つ化物。その魔女がこの戦場にいるのか!!
「う、右翼が壊滅! なおも大魔法を連続発動。これでは持ちません」
「全軍、撤退せよ!」
戦果は上がっている。ドラゴンを落としたんだからな。一旦兵を引き再攻撃のための編成をするべきだ。たったひとりの魔女により全滅するわけにはいかん!
軍をミアプラの町まで後退させ、人族と睨み合いの状態に戻す。
「我が軍の損害は」
「はい、魔女の攻撃で右翼部隊が崩壊、全体で4分の1以上の損害が出ています」
「それほどの被害が出たのか……。全滅ではないがこれでは再攻撃も難しいか……」
「将軍、あの魔女はどこの国の魔女でしょうか」
我が国にはひとりもいない魔女クラス。歴代に女が多いから魔女と称しているが、その存在は国家機密。王国に3人と共和国に1人いると言う噂だが、それがここまで来るとは思えん。
「人族の最終兵器かもしれんな。いずれにしても敵の損害も多大だ。もう一押しで壊滅できる」
そうだ、今回の戦いで敵に相当な損害を与えたはずだ。こちらも手傷を負っているが、帝都よりの増援部隊がまだいるではないか。後一押し、後一押しで我らの勝利となる。人族め、次で決着を着けてやるぞ。




