第161話 補給基地襲撃
ミアプラの町まで撤退した帝国軍を追って、森を挟んだ平原に人族は集結している。今日は軍による現状報告と作戦会議に、俺と獣人の代表者が呼ばれ出席する。
「獣人達の協力もあって、現在戦車482輌が稼働。魔法部隊や突撃部隊も充実して帝国軍と拮抗している状況だ」
戦車は増産されていて、人と獣人が乗った部隊も編成されているようだ。
現在、ミアプラの町周辺に陣取っている帝国兵は後方部隊を含め約3000人。敵も増援されたようだが戦車1に対して歩兵6の戦力計算なら、今は均衡している状態だな。
南部地方に住む獣人各部族は人族と同盟を結ぶ形で協力体勢にある。実際は人族の指揮の元、一体となって軍の運用を行なっている。
獣人達はあまり気にしなかったようだが、属国扱いするのを嫌って人族が同盟としてはどうかと提案したそうだ。同盟を了承した獣人達は、積極的に協力し帝国と対峙している。
先日、帝国軍が出てきて小さな戦闘があったようだ。双方とも多少の損害は出たものの小競り合い程度で終わっている。
「今、ここで戦えば双方とも損害が大きい。帝国軍と睨み合っている状況だ」
帝国が占領しているあの町にはクロウサギ族がいる。何とか早く帝国軍を追い出したいのだが……。
「この砂漠を戦車で渡って、後方の補給基地を叩くのはどうだ」
昔の大戦の時に実際に人族が取った作戦だ。
「クーラー付きの戦車があるはずだ。それで砂漠を越える。それとグライダーの航空戦力と合わせて後方を叩けないか」
「補給基地にも500人以上の兵が集結している。それを倒すには戦車80輌は必要なはずだ……その数を本隊から抜くと帝国との戦力バランスが崩れるな」
「ダミーの戦車を作れないか。あの町の距離からならダミーだと分からないはずだ」
俺達はグライダーで偵察できるが、帝国には単眼鏡も通信機器も無い。帝国からは正確な監視ができず、情報量の多さでは人族が圧倒的に有利だ。
「総司令部に進言はしてみるが、あまり期待はするなよ」
俺の作戦案は正攻法ではない奇策になるからな。決断するのは勇気がいるだろう。だが犠牲を少なくするにはこの方法だと思うんだがな。
2日後、俺の案が採用された。但し補給基地に向かうのは戦車65輌。その戦車に3人乗り込み総勢190名の人族と獣人の部隊だ。走るだけなら戦車に3人乗り込む事ができるからな。それに希望通り上空からグライダーで攻撃する許可もでた。
本隊にはタティナとハルミナを残し、補給基地攻撃の陸上部隊には俺とカリンが参加する。グライダーパイロットはコウジとユキのふたりに任せる。
「じゃー、出発しよう」
砂漠の中央部を走破するには、戦車でも3日かかる。ミアプラに集結する帝国主力に気付かれないように、離れた位置から砂漠地帯に入る。
「ユヅキ。すごいね、ここから冷たい風が吹いてるよ」
「そうだろう。人族が開発したクーラーって言うんだぞ」
この技術が残ってくれたようで助かる。電子制御できないので冷風は強弱の切り替えしか無いが、ちゃんと冷たい風が出ている。人族の国は暑い地方だから、民生品として冷房の技術継承ができたのだろう。
前方の戦車から連絡が入った、サンドウォームの巣を発見したらしい。事前に戦わず回避しつつ、スピードで逃げ切る作戦を立てている。
避けるルートを通るが、戦車の振動を感知して何度か襲われた。砂漠を越えるまでに2輌の戦車が動けなくなってしまった。乗員は救出できたが、攻撃の要の戦車を失うのは痛い。
「あのサンドウォーム。戦車なんて食べる事できないのに、なんで襲ってくるのよ」
「振動だけで感知してるからな。戦車の音はでかいから、どうしても寄ってくるみたいだな」
なんとか砂漠を越えて、帝国の補給基地近くまで来ることができた。この近くに町はなく、基地は平地に陣を張って物資の集積をしている。
「予定通りなら、もうすぐグライダーが来て爆撃してくれるはずだ」
「……こちらグライダー機……ただいまより爆撃……開始します」
無線を受信した。空爆と共に戦車からの総攻撃を開始する。油断していた帝国軍は対応が遅れ、高く積まれた物資や兵士のいるテントが燃え上がる。
ここは基地だけで住民はいない、こちらも遠慮なく砲弾を撃ち込む。やっと騎兵がこちらに向かって走ってくるがそれほど数はいない。戦車後方からの魔法と弓の攻撃で充分対応できる。
グライダーは爆弾を全て落としたのか、補給のためサルガス港の基地へと帰っていった。後は戦車を前進させて基地内を掃討していくだけだ。
半日後、補給基地を完全に破壊し黒い煙が立ち昇る。
「あっさり落ちたわね」
「そりゃ、砂漠を越えた部隊に、後ろから襲撃されるとは思ってなかっただろうからな」
作戦を成功させ、俺達は本隊に帰還するため元来た砂漠の道を進む。本当なら補給基地奪還のため東海岸を北上する帝国軍を押さえて、本隊と挟み撃ちにしたいところだが戦車の数が少なすぎる。こちらが全滅する可能性がある。俺達は再び砂漠を走破し、基地に戻る事になる。
2日砂漠を戻ったところで、グライダーがこちらに向かって飛んできた。
「至急、帰還してください! 本隊が帝国軍本隊と交戦しました」
「なに! そちらを狙ってきたか!」
補給基地が襲撃を受けたことを知った帝国軍本隊は、補給基地の救援に向かわず人族の本隊へと戦いを挑んだようだな。
東海岸を北に向かう確率が高いと見ていたが、俺達がいない分戦力が少なくなっている本隊側へ行くとは……。
「カリン、ここに滑走路を作ってくれ」
他の魔術師とも協力して、砂漠に土魔法で一時的に滑走路を作ってもらう。土ばかりの乾燥した大地だ、滑走路はすぐにできた。
「グライダー機、パイロットを交代する。この滑走路に降りてくれ!」
今から戦車を向かわせるが、本隊到着まで1日かかる。たぶん間に合わないだろう。
「カリン、すまんが俺と一緒に来てくれ。本隊の援護に向かうぞ」
「タティナやハルミナは大丈夫かしら」
「大丈夫さ、あいつらは俺よりも強いからな」
強がりを言ったが、帝国軍が全軍で本隊を攻撃しているとしたら、早く行って援護しないと危ない。何とか間に合ってくれればいいが。




