表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
333/352

第160話 帝都 宮殿にて オルティア皇女

「南方遠征軍が、港の戦いで敗北したと言うのは本当ですか」

「皇女殿下。敗北ではありません。戦略的後退です」


 参謀長が礼儀正しく頭を下げつつ、悪びれる風もなく人族の国上陸後の状況を説明していく。古株の帝国貴族であるこの者は話術に長け、言質をとられない言い回しは家名をもじってカスミレ文学とまで言われる程だ。

 ですがいくら詭弁を弄していようとも、私には苦しい言い訳にしか聞こえませんね。皇帝や兄さまのいる前で敗北を認める訳にもいかないのだろうけど。


「どこまで後退したのですか」

「南部地方のミアプラの町に陣を張っています」


 ミアプラというと、南部地方へ入る東海岸の南の町。サルガス港から、そんな後方まで退いているとは。


「我が軍は人族のサルガス港への上陸を阻止し、対岸の軍港を占領し作戦は成功いたしました」

「それでなぜ後退ということになるのだ」


 前回の報告で、人族の国への上陸作戦は成功したと聞いていた。北方より戻られたエイドリアンお兄さまも、少し怒られているのか語気が荒くなる。


「その後順調に内陸へと侵攻を続け、戦果を上げつつ首都近くまで侵攻したところで、最前線からの連絡が途絶えております」

「サルガス港と人族の軍港の間は、1日1回補給船が行き来するのではなかったのか」

「海洋族が航路を妨害。我らの輸送船が沈められたのです」


 部屋がざわめく。


「外交部。どうなっているのか」


 同席していた、外交責任者から経緯が説明される。


「海洋族からは、無断で領海侵入した事について質問が来ておりまして。現在、対応中です」

「人族の軍港へ侵入したのは、人族が攻めてきたから()む無く反撃しただけではないか」

「いえ、問題にしているのは、各港からサルガスの港へ船を出したことについてであります」


 開戦前に各港から、南端まで兵と物資を輸送したことですね。この外交責任者はおどおどとした態度、責任者とは名ばかりの役人でしょうか。

 しかし以前、この者から事前協議で問題ないと聞いていたのですが。


「海洋族は我らの戦いに口出しせず、中立だと言っていたではないのか?」

「開戦当初は何も言ってきておらず、今になってサルガス港の事を問題視しております」

「このタイミングと言うなら、人族の側と手を組んだと言う事ではないか」

「いえ、そのような情報は入っておりません。問い合わせがあったと言うだけでして……」


 船を沈めたと言うことは、警告ではなく完全に人族側に付いたと考えた方がいいですね。人族と海洋族2つを敵に回すとは。今後、他の港から運搬船を出すこともできなくなりそうですね。

 その後は参謀長から、戦況についての報告が続く。


「その数日後、夜間に人族によるサルガス港への2度目の奇襲を受けました。その際、ドラゴンの襲来を確認しております」

「ドラゴンだと!!」


 皇帝も息を呑む。


「白いドラゴンが2属性の魔法を使ったと報告にあり、新種のドラゴンであると結論付けております」


 やはり、ドラゴン族は人族の側にある。伝承の通りですね。

 報告を受けた後、父上と兄さま2人と共に部屋に残る。


「兄さま、どうなさるおつもりですか」

「南方に関しては、トゥルヌスの持ち分。そちらで対処せよ」

「元はと言えば兄上が兵を貸さないから、このような事になったのではないか」

「1万もの兵を出しておきながら、何を言っている」

「増援部隊の半数近くは正教会の軍ではないか。それに想定外の事が多く、南部地方の獣人の離反もあり仕方なく後退したまで」


 やはり南部地方の反感を買っていたのですね。最悪の事態を考えて事に当たるのが上に立つ者の勤めではないのですか。このような所で言い争いをしていても仕方ないことでしょうに。


「お父様、人族と交渉してみてはいかがでしょうか」

「まだ敗北した訳ではない。この時点でそのようなことを言うとは、オルティアもまだまだだな」


 海洋族と、ドラゴン族を敵に回して勝てるのでしょうか? 戦況が不利になってからでは交渉する事もできなくなるというのに。


「現在地点を第1防衛線、後方の東岸オアシス地帯を抜けた所を第2防衛線とする」


 皇帝の裁可により戦闘継続となった。




「南方軍に派遣していたビアギルとは連絡がつきましたか?」

「それが、ビアギル様は戦死したとの報告が入りました」

「そうですか、ビアギルが……」


 ビアギルは南方遠征軍将軍の傍についていたはず。安全であるはずの司令部にまで攻撃の手が伸びていたと言う事でしょうか。

 やはり人族に手を出したのが間違いではなかったの。


「代わりの参謀クラスの者を派遣なさい。足りない物資や兵があればこちらからも送るように」


 少しはトゥルヌス兄さまにも恩を売っておきましょう。

 でも今回の事でトゥルヌス兄さまの派閥は、政治的影響力が低下するでしょう。正教会も相当な被害を受けたと聞いている。それはそれでいいのですが、戦争を起こした以上負けるわけにはいきません。負ければ元も子もありません。


「北方はどうなっていますか」

「共和国が輸出の制限をしていると報告を受けています」

「共和国は商人の国。情報封鎖はしていても何かしらの異変に気づき、こちらの足元を見て商売をしているのでしょう」


 戦争が長引けば帝国内の経済にも影響が出てくるかもしれませんね。今のうちに何か手を打っておいた方がいいでしょう。


「帝国通貨の価値を下げないように、通貨の金と銀の含有量と流通量の調整を行ないなさい。貿易に関しても不当な価格での取り引きをさせないように監視の強化を」


 食糧の確保だけは何としても行なわないといけないのに、こんな状況下で戦争を継続してもいいのでしょうか。

 戦争を煽っているのは正教会。あそこだけは警戒しないと。


「正教会への内偵は進んでいますか」

「はい、信者、教会関係者になりすまして調査をしております」

「帝都内にある、教会本部の動きは?」

「今回の遠征の失敗で動揺はあるようですが、最高司教の権力は揺るがないものと思われます。引き続き修道女による内偵を続けます」


 国内外共に頭の痛い問題ばかり続く。こういう時にこそ皇帝の権力がものをいう時なのに……。私にもう少し力があればいいのですが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ