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第156話 町の解放

「ユヅキさんですね。自分達は戦車部隊、第102小隊の者です。今回ユヅキさんに随行するように命令を受けています」


 戦車4輌に乗った8人の若い兵士が来てくれて敬礼する。司令部と相談した際、戦車4輌の戦力を貸してくれると言っていたが、その者達だな。

 後方の憂いを断ち切るということで、西側の帝国軍を叩いてほしいと言われた。補給物資も供給してくれるそうだ。ぎりぎりの戦力の中で俺達に戦車を与えてくれるのはありがたい事だ。


「そうか、すまないな。後ろにある箱は砲弾か?」

「はい、480発あります。それと燃料の炭と水です。馬車に積み込んでよろしいでしょうか」

「じゃあ、みんなで積み込もうか」


 獣人達と一緒に運搬用の馬車に積み込んで港を出発する。

 町の解放に向かう獣人は50人余り。戦闘経験豊富な白銀ランクの冒険者を多く選び、少数精鋭の名に恥じないメンバーだ。


 この港から一番近い村は、山ヤギ族の村だそうだ。そこには普通のヤギ族とは角や足の形が少し違う、少数民族が暮らしている。

 村には2つ門があり、帝国軍は門の近くと村長の家に居ると言う。


「敵の数はそれほど多くない。2つの門同時に攻めよう」


 門の近くには10人ぐらいの兵士がいるようだが、戦車とカリン、ハルミナの魔法攻撃で対応してもらう。俺とタティナが村長の家に行き中の兵を倒す作戦だ。

 山ヤギ族の冒険者は、部族の命が懸かる戦いを前に緊張しているようだな。


「大丈夫だ、俺達猫族も居るんだ。これだけの人数で戦えば一気に攻め落とせるさ」


 猫族の冒険者に肩を叩かれ励まされる。少数民族同士、今まで交流はなかったようだが同じ目標に向かう仲間だ。俺も協力して、何としてでも成功させないとな。


 砲撃が始まった。


「タティナ、あの柵を飛び越えるぞ」


 村は木の柵で囲まれているが、胸の高さ程だ。門から離れた柵を飛び越え、高速移動で教えてもらった村長の家まで行くと、ひとりの兵士が家から飛び出してきた。

 タティナが斬り払い、俺が家の中に突っ込む。中にもうひとり兵士がいたが、剣を抜く間も与えず一撃で倒す。


 家に侵入してきた俺に驚き、村長一家は立ち尽くしていたが怪我などはないようだな。


「助けに来た。しばらくここを動かないでくれ」


 外に出て門へと向かったが、帝国兵は既に倒されていた。

 村民を広場に集め、同じ種族の冒険者が経緯を説明して安心してくれと話す。


 今回の戦闘は長距離からの攻撃だけで片が付いたようで、怪我人もいない。損耗も無いのでこのまま次の山ヤギ族の町へ向かうことにした。

 するとこの村で、魔法が使えると言う若い女性が一緒について行きたいと言う。


「怪我をするかも知れないし、最悪死ぬことになる。それでもいいか」

「はい、あの町には私の恋人がいます。連れて行ってください」


 そこまで言うならと同行してもらう事にする。次の町まではここから1日掛かる。

 1500人程が住む町には城門が1つあり、頑丈な城壁に囲まれているそうだ。帝国兵も多く、馬車の中でしっかりと作戦会議をしておかないとな。


「城壁の中に立て籠もられると厄介だな」

「ねえ、ねえ。敵を1ヶ所に集めて一気に叩いちゃえばいいんじゃないの」

「ハルミナ、そう簡単にいかんだろう」

「ユヅキ、こっちから攻撃すれば城門の上から反撃してくるわ。そこに私の大魔術を撃ち込めばいいじゃん」

「門は1つだ。正面に立てば兵力を集中してくるだろうな」


 タティナの言う通りなんだが、誰が正面に立つんだよ


「そりゃ、ユヅキさんしかいないじゃないですか」

「そうだな、ユヅキだな」

「そうよね、ユヅキよね」


 えぇ~、俺かよ。俺を囮にして相手を集中させるのか~。


「でもよ~、どうやって一気に倒すんだよ」

「ねえ、ここの町の人。城門1つぐらい壊してもいいわよね」

「町の城門は頑丈な城壁に囲まれている。あの城壁は壊せないぞ」

「そうなの。腕がなるわね」


 カリン、お前のその挑戦的な目はやめろ。怖いぞ。



 翌日の昼前、山ヤギ族の町に到着した。確かに立派な城壁に守られた町だ。門の近くには岩場と林があり、他の仲間にはそこに隠れてもらう。

 囮とはいえ、俺ひとりでは無理だ、戦車2輌も一緒に来てもらう。俺は戦車の砲塔の横の外装に立ち、戦車を走らせて門へと向かう。


 門は固く閉じられ、城壁の上には歩哨だろうか数人の兵士がこちらを注視している。戦車を見るのは初めてのはずだ。砲塔を向けられていても、これが兵器だとは思っていないようだな。

 門の正面、戦車を左右に停車させて、兵士に聞こえるように大声で叫ぶ。


「港の帝国軍は、俺達人族が全滅させた。お前達も投降するなら命は取らん。降伏しろ」


 戦車上部のハッチから、兵士ふたりにも顔を出してもらい挑発する。


「お前ら、人族か!」


 歩哨が連絡したのか、城壁に敵兵が集まってきた。


「全滅だと、そんな事が信じられるか。たかが3人風情で何を言っている。返り討ちにしてやる」


 矢と魔法攻撃が飛んでくる。カリンが俺と戦車を囲むように土の壁を築いてくれた。俺は戦車の後ろに隠れながら魔法攻撃で応戦する。

 うへぇ~。帝国兵の奴ら容赦なく攻撃してきやがる。カリンの作った壁に守られているとはいえ、怖え~。俺のショボイ魔法を山なりに城壁へと飛ばす。


「人族が魔法だと! 生意気な」


 敵の攻撃が激しさを増す。戦車からも砲撃するが城壁を崩すことはできなかった。さらに城壁の上に兵士が集まりだしてきた。


「ギガメテオ!!」


 上空から巨大な隕石が門に向かって落ちていく。カリンの大魔術が炸裂する。

 轟音と共に城門が砕け散り、砂ぼこりと白煙が空高く舞い上がった。


 最初からそこに何も無かったかのように、城門の2倍の幅だけ城壁が完全に無くなっている。その崩れた城壁から戦車が町に突入し、門の横にあった敵の兵舎に砲撃する。

 後ろから馬や馬車で獣人冒険者が町の中に走り込み、町にいる兵士たちを殲滅していく。



「あっけなかったわね」


 町に突入して鐘半分もしないうちに制圧できた。そりゃそうだろ。最初に城壁を破壊した時点で、ほとんどの帝国兵は死んでいたからな。

 この町の代表なのか、落ち着いた感じの女性の山ヤギ族が俺達の前にやって来た。


「あの城門を破壊したのはあなた達でしょうか」

「町長、町長じゃないか。町のみんなは無事なのか」


 この町出身の獣人達が、町長の元に駆け寄る。


「抵抗した者達は殺されてしまいました。あなた達は町から連れ出された者達ですね。無事帰って来れたんですね、良かったわ」

「サルガスの港で働かされていたんだ。それを人族の人達に救われた。他の町の者達と一緒に助けに来たんだよ」

「……そうですか、よく助けに来てくれましたね。家などは壊されていないから、家族の者に会ってきなさい」


 この町の出身者は自分の家族の元へと走って行った。


「レドモン無事だったのね。良かった。良かったわ」

「シンシアか! なぜ君が。この町を救ってくれたのは君なのか」


 恋人のために戦ってくれた魔術師さんも、無事再会できたようだな。


「この町を救ってくれた代表の方はいますか?」


 町長が戦っていた獣人達に聞いて回っている。俺が紹介されたが、別に代表という訳ではないんだがな。まあ、話は聞こう。


「あなたは人族の方ですね。帝国兵は人族と戦うと言っていましたが、あなた達が勝ったと言う事ですか。それでこの町をどうするつもりなのか教えていただけますか」


 人族が勝って、この町を再占領しに来たと思っているようだな。


「人族は今も帝国軍と戦っている最中だ。俺は人族だが冒険者だ。港で強制的に働かされていた人達の依頼で、ここや他の町を解放するために来ている」

「すると他の町も同じようなことが起こっていると……。そういえばあなた達は隣町の猫族の方ですね」


 ここの町長も隣に住む猫族とは、ほとんど交流が無く初めて見る顔ばかりだそうだ。しかし一緒になってこの町を救ってくれた、猫族達に感謝の言葉を掛ける。


「俺達もユヅキさんに助けられて、これから俺達の町を解放しに行く。人族も協力してくれてあの戦車も貸してくれたんだ」

「そうですか。それであんな一気に帝国兵を倒すことができたのですね」


 破壊された城門の辺りを見ながら町長が話す。今まで占領され苦しめられていたが、どうにもできなかった帝国兵。それをたった1回の戦闘で一掃され驚いているようだ。


「俺達は先を急いでいる。この町の城壁を破壊してしまったが許してくれ」

「城壁はまた作ればいい事。お陰で住民の犠牲者は出ていません。ありがたいことです」


 そう言ってもらえると助かるな。


「他の町にも行くのなら、先に冒険者ギルドに来てくれますか。ここの冒険者も一緒に連れて行ってほしいのです」


 冒険者達は、この町のために戦おうとしたが、住民の犠牲者を出さないために町長が抑えたそうだ。賢明な判断だな、負ける戦いはしない方がいい。

 報酬は町から支払うからと、20人以上の冒険者を出してくれた。


 今日はこの町に宿泊する事にしたが、宿も食事も町で用意してくれた。

 明日からは、皆と一緒に猫族の村と町を解放しに行こう。




 お読みいただき、ありがとうございます。

 

【設定集】目指せ遥かなるスローライフ! を更新しています。

 (第2部 156話以降) 帝国南部地方-地図


 小説の参考にしていただけたら幸いです。

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