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第154話 サルガス港上陸作戦1

 獣人達に聞いたサルガス港の様子を伝えようと司令部に行くと、兵士が部屋へと案内してくれる。


「ユヅキさんですね。こちらの部屋へどうぞ」


 案内された部屋には、イザール市で会ったことのある軍関係の人達がテーブルを囲み座り、俺を待っていた。ここにいる4人で今回の作戦立案をしているという。テーブルには港の詳しい地図が置かれ、記号や矢印などが書き込まれていた。


「今、奇襲作戦の具体案を検討中だ。サルガスの様子を詳しく聞きたい」

「帝国兵は港の周辺一帯にテントを張り駐屯している。それとは別に民間人が多数いる。町を占領され連れてこられた住民達だ」

「その者達の場所を地図に示してくれるか」


 聞いていた場所を地図に書き記す。


「だがそれは夜間寝ている場所だ。夜間に攻撃するのは可能か?」

「前回とは違い、今回の奇襲は夜間を考えている。船での輸送と航空機での爆撃もだ。グライダーで夜間飛行はできると聞いたが大丈夫か」

「目印となる光が欲しいな。船上に明かりを灯せるか」

「ならば、上空だけを照らす小型サーチライトを用意しよう」


 夜間飛行には危険が伴う。対岸の陸地に居る帝国軍は、夜間松明を灯しているはずで目印になる。暗い海峡を飛行するには、対岸に向かう味方の船を目印にするのが一番だ。

 今回のパイロットは訓練を続けているコウジとユキだが、ふたりなら成功させてくれるだろう。


「それと帝国軍は2種類の部隊があるようだ。どの場所にどの部隊がいるか分るか?」


 今までの戦闘を分析した結果、正規軍と私兵集団の2つの部隊が存在するそうだ。正規軍は統率が取れているようだが、もう一方は好戦的で前に出てくるらしい。孤立するので倒しやすいが士気が高く、その戦闘力は侮れないという。


 首都決戦でも、敗色が濃厚になった時点で正規軍は敗走した。これは軍として当然の行動だ。最後の一兵まで戦えというのは、もはや軍隊ではないからな。

 一方、私兵団は最後の最後まで立ち向かって来たらしい。タティナの言っていた正教会軍の事だな。


「そいつらは、黒い服を着ていなかったか」

「確かに黒い集団だったな」

「帝国の正教会に所属する部隊だ」

「正教会……架空の存在を崇めて、その指示に従うと言う宗教集団の事かな」


 非科学的で、自らの命を軽んじる集団と人族は認識しているようだな。


「今回の奇襲作戦で損害が出れば正規軍は引くだろうが、ユヅキ君の言う正教会軍は最後まで戦い続ける可能性がある」

「獣人達に聞くと、サルガス港にも黒い集団が居ると言っていた」

「まあ、撤退してくれる部隊は追う必要はないのだが、正教会軍は壊滅させた方がこちらの被害が少なくて済む」


 なるほど、敵軍全てと戦う必要がないなら助かるな。敵は4500人程だが、港から近い方と、遠い高台に分かれて駐屯している。正教会軍と思われる黒い服を着てる集団は1000人程で、港の西側に居ると言っていたな。


「なるほど、この配置からすると高台のここが敵の前線司令部のようだな。ここも空爆対象に入れておこう」

「ここに獣人達民間人が寝ている場所がある。この者達を避難させたいが可能か」


 俺は獣人達に、対岸で働かされている者達も助けると言っている。戦闘に巻き込まれないようにしたい。


「我らが民間人に対して攻撃をすることはないが、兵士の駐屯地に近い。巻き込まれる可能性はあるな」


 民間人とはいえ敵国民だ。責任は帝国にあり、人族が避難に協力する余裕はないと言う。


「船を1隻貸してくれないか。戦闘前に獣人を対岸に送り込んで避難誘導させる。それに関しては俺が獣人達と話をしよう。そちらに迷惑はかけない」

「分かった、その程度なら我々も協力しよう。これで上陸する場所を絞ることができそうだ」


 その後も魔術師部隊の運用など情報交換をする。


「ありがとう、ユヅキ君。お陰で作戦が立てやすくなった。君は軍部に所属する気はないかね」

「いや、俺は民間人のままでいさせてもらうよ」

「そうか、協力に感謝する。今後もよろしく頼む」


 俺は依頼を受けた傭兵扱いになっているそうだ。お金も受け取れるし、今までやっていた冒険者と同じ感覚だな。


「ねえ、ユヅキ。港にいるナミディアさんに聞いたんだけど、海洋族が帝国の船を沈めたんだって」

「へぇ~、すごいな。ナミディアさん達も一緒に戦ってくれるのかな」


 聞くと、領海侵犯した帝国に怒って、海洋族は船の航行を認めないと言ったらしい。帝国の出した補給船を1隻沈めて本気であることを示したそうだ。


「それで、みんな安心して奇襲作戦の準備をしているんだな」


 港では帝国から奪った船に戦車を積み込んで着々と準備を整えている。その準備も整い、明日の夜には奇襲作戦を実行すると連絡が入った。


 俺達は真夜中の奇襲作戦に先立ち、夕方に獣人達と一緒に小さな船で対岸に渡る。


「ナミディアさん、すまないな。水先案内を頼むよ」

「はい、任せてください。ユヅキ殿のお役に立てて嬉しいです」


 オールの付いた10人が乗れる小さな船。そこにカリンとタティナ、それと各種族の獣人冒険者を乗せて海峡を進む。皆でオールを漕ぎ、カリンが後方に風魔法を送り手助けする。

 冬のこの時期、辺りはもう真っ暗だが、灯火を灯さずナミディアさんの音波探知器官を頼りに対岸へと向かう。崖近くの小さな砂浜、そこに船を着けて俺達は坂道を登る。


「ユヅキさん、あそこが俺達獣人が寝るテントだ」


 港から離れた陣地の端に、大きなテントがある。そこに150人程が捕らえられていると言う。


「他のテントにも近い。気付かれずに見張り役を倒すのは難しいな」


 タティナの言うように、テントの入り口には松明が灯され6人のリザードマンが警戒している。兵士が眠るテントにも近い。


「それなら俺と各部族の者で、テントの裏から中に侵入して脱出の準備をしよう。タティナ、奇襲が始まったら入り口の兵士を倒してくれるか」


 獣人4人と一緒に俺が忍び込む。あのテントには女子供ばかりで戦える者はいない。事前に話しておいて、スムーズに脱出し避難する必要がある。

 見張りに見つからないよう、隠れつつテントの裏から侵入する。


「あ、あなた達は……」

「静かにしてくれ。お前達を助けるために来た」

「その後ろの人は、人族じゃないの。どうしてここに……」

「この人に助けられて、俺達は無事対岸の港に居る。あんたらの旦那さんもいるはずだ」


 近くの人から順番に、ここから避難する事を伝える。ここには猫族や犬族その他の少数民族が集められている。同じ部族の者が助けに来てくれたと安心したようだ。


「いいか、間もなく人族による奇襲作戦が行なわれる。その混乱に乗じてこの裏手から森へと逃げてもらう」


 寝ている子供も起こして、誘導に従って走ってくれと説明する。


「……こちらグライダー機のコウジとユキ。サルガス上空に侵入し……これより……爆撃を行ないます」


 グライダーからの通信が入ってきた。今回から俺が作った魔波通信機を使った、作戦オペレーションを行なう事になっている。

 前に作っていたデンデン貝による通信が実用できるようになったのだ。通信範囲は半径10km程だが、それで充分だ。


 海岸線の方から爆撃音が響いてきて、外が騒がしくなる。奇襲作戦が開始されたな。多分これで近くにいた兵達もいなくなるはずだ。

 テントの入り口付近で戦闘の音が聞こえて、タティナとカリンが入り口から入って来た。


「よし、みんな。入り口とこの後ろからも脱出するぞ」


 俺がテントの後ろを切り裂き、皆を脱出させる。森へ向かう道から後ろを振り返ると、港近くの海岸線一帯が火の海となっている。グライダーの空爆に続き戦車部隊も上陸してきたようだ。


「後の誘導は頼んだぞ。俺達はここから攻撃参加する」


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