表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
325/352

第152話 首都決戦

 翌日、帝国軍が完全に陣形を整えて人族の部隊と睨み合う。中央の部隊が約2000、左翼に800と右翼に1000程に分かれた、数に物を言わせた横列の陣形だな。その後方、一番遠い所には指揮を執る司令部隊が居るようだ。


 それに対して人族は首都防衛隊とイザール市防衛隊を合わせて1320人、戦車420輌が3列横隊になって並ぶ。その後ろにはハルミナが育てた魔術師部隊が若干名と、大型の投石機か……やはり数的に不利だな。


「戦力差を考えると帝国は無難な陣形を選んだな。タティナ、俺達に近い右翼の黒い服を着た部隊は何だ?」


 中央と左翼は正規軍のようだが、帝国とは違う紋章の旗を何本か掲げて服装の違う部隊がいる。


「多分、正教会の部隊だな。個々の兵士はさほど強くないが、命を投げ出して向かって来る厄介な部隊だ」


 宗教関係の部隊かよ。まあいいか、俺達はあの部隊の前衛と後衛の間に突撃して攻撃することになる。


「ユヅキさん、私達こそ命を投げ出す作戦じゃないんですか~。本当に大丈夫なんですかね」

「あのな、ハルミナ。攻撃をしている間、前衛は敵に向かい前方だけに集中している。後衛は前衛の上を飛び越して矢や魔法を撃つため、斜め上を見ているもんなんだ」


 その前衛と後衛の隙間に俺達4人だけで、地面すれすれを走り抜ける。大火力のカリンとハルミナがいる。俺も水の爆弾で攻撃すれば、敵に損害を与えられるはずだ。


 どうやら帝国軍が前進を始めたようだ。


「いいか、戦闘が始まり戦車が2回目の砲撃をしだしたら、カリンの大魔法で敵の数を減らしてくれ」

「2回目の砲撃の後ね。任せなさい」

「ハルミナは前衛の所に浅い沼を作ってくれ」

「浅く、広くという事ですね」

「多分ここからだと戦場の3分の1ぐらいしか魔法が届かんだろうが、それでもいい」


 1回目の戦車からの砲撃が始まった。砲弾は前衛に届くか届かないかの位置に着弾している。射程が見極められているようだな。

 魔法の射程に入れようと帝国の前衛が盾を構えて、全体が徐々に前進し騎馬隊が突入し始めた。

 その時、2回目の戦車からの砲撃が始まる。これはイザール市で改良された射程の長い戦車からの砲撃だ。一気に後衛の弓や魔術師の部隊まで砲弾が着弾し爆発する。


「よし、今だカリン」

「メテオラ!!」

「わたしも沼を作ります!」


 攻撃を受けるはずのない後衛が攻撃を受け、帝国軍が乱れる。その隙に俺達も側面の森から出る。


「よし、突撃するぞ!!」


 俺とタティナが前で後ろにカリンとハルミナを乗せた木の車で突撃だ。全力の高速移動で前衛と後衛の間を走り抜けながら、攻撃を開始する。

 狙いはつけなくてもいい。前衛の背後から、そして後衛の正面に向けて魔法と爆弾の雨を降らせるように攻撃を加えていく。


「この黒い右翼の部隊を徹底的に叩くぞ」


 さっきのカリンの大魔法で倒れている兵が多い。それに追い打ちを掛けて前衛の背後からの攻撃だ、反撃もできないだろう。少し速度を落として攻撃を集中させよう。


 旧型の戦車が前進して距離を詰めて前衛に攻撃しだしたようだな。前後に挟まれる形で右翼の前衛が次々に倒れていく。


「魔術師部隊が私達に気づいたようよ」


 俺達に魔法攻撃してくるが、前衛の味方にも当たり同士討ちになる。そんな後衛に対しても戦車からの砲撃が激しくなってきた。


「よし、カリン。また大魔法を撃ってやれ」

「任せて。ギガストーン・フォール」


 巨大な岩石が雨のように、後衛部隊に襲い掛かる。


「よし。ここは、これくらいでいいな。このまま中央の部隊に突撃するぞ」


 再び最高速で前衛と後衛の間を走り抜ける。


「走っている間もハルミナは前衛に沼を作り続けろ。カリンとタティナは後衛の魔術師と弓使いに対して魔法攻撃だ。接近する敵は俺が前で防ぐ」

「分かったわ」


 今度は数の多い中央部隊だ。 敵の後衛が俺達に弓と魔法で攻撃すれば同士討ちになる。相手が躊躇している間に走り抜けるぞ。


「最高速で絶対に止まるな」

「あ、あのう。戦車からの攻撃がわたし達に当たらないかな~」

「事前に戦車部隊には言ってある、大丈夫だ。だが流れ弾が当たったら、当たった時だ、諦めろ」

「ユヅキも相当無茶な事言うじゃない。面白いわ、やってやろうじゃないの」


 ハルミナの魔法で戦場に沼が出現した。それと同時にカリンの隕石魔法が降り注ぐ。相変わらずド派手な魔法だ。側面からの不意打ちで帝国兵が混乱する中、俺達は戦場を高速で駆け抜ける。


 ◇

 ◇


「どういうことだ! 鉄車の射程外でなぜ攻撃される!」

「鉄車の射程が伸びています。後方の魔術師部隊が直接攻撃を受けています」

「港には無かった新型の鉄車か。こんな短期間で新兵器を完成させていたというのか……。前衛部隊であの鉄車を抑えろ」


 だが前衛の動きは鈍く、前進する戦車部隊の格好の標的となる。前にも後ろにも動けず兵が倒れていく。


「敵からの魔法攻撃です! 右翼、正教会軍の前衛が壊滅状態!」

「相手は人族だぞ。なぜ魔法攻撃があるんだ」

「想定外ではあるが、数ではこちらが上だ。右翼の魔術師部隊を前進させて魔法対決に持ち込ませろ」


 人族には魔法攻撃が無いと、高価な魔法耐性の防具をそろえていない。

 司令部の指示により、右翼の後方が前進するが大魔法と戦車部隊の砲撃でほぼ壊滅状態となる。


「時折発動している、あの大魔法。一体どこにそんな魔術師がいるんだ」

「敵の魔術師部隊は、中央の鉄車の後方に集中。こちらの魔法部隊からは射程外になります」

「左翼も前進させよ。包み込むように物量で攻撃すれば、いずれ我らの勝利となる」


 左翼が前進し戦車部隊を取り囲もうとする中、帝国軍の前衛と後衛の間、自軍のど真ん中を風の速度で走る4人組の存在に気づく者はいない。戦場から遠いこの帝国軍の司令部において、数少ない砲撃でなぜこれほどの被害が出ているのか分からずにいた。



「師団長、陣の中央、何かが走って来ます」

「あれは何だ! 前衛と後衛で挟み撃ちにしろ」


 その小さな部隊の攻撃力は凄まじく、体内を切り裂かれるように陣形の中央部の兵が倒されていく。


「本体の騎馬部隊を出せ! あの走る部隊の前面に回り込み足を止めろ」

「はっ! 了解しました」

「前進している左翼の獣人部隊の一部も使って、側面を閉じさせろ」


 現場の指揮官の指示で、高速で走る小さな部隊の進路を塞ぎにかかる。兵士の数では圧倒的だ。これで包囲すれば完全に殲滅できるはずである。


 ◇

 ◇


「止まるな! このまま突き進め」


 俺達全員の火魔法ジェットを最大出力にして加速する。タティナは左右の剣から火魔法を放ち敵を倒していく。時々前方に騎馬が現れるが、炎を纏わせた水の爆弾を魔道弓で撃ち出し倒していく。

 カリンとハルミナも、水平に岩魔法を連続で撃ち出し敵を排除する。ここの敵全てを倒す必要はない。陣形を崩し前面に対する攻撃を緩めるだけでいい。

 周り全てが敵、狙いをつけずに攻撃しても必ず当たる。できる限りの攻撃を繰り出し、全速力で走り抜ける。


 もうすぐ敵陣を抜けようかという所で、前方に大きな斧を構えたフルプレートの騎士5人が立ち塞がった。魔法攻撃が効かない。耐性鎧か! 


「俺を押し出せ!!」


 木の車を離れて前方へと押し出された俺の手には、超音波振動を起動させた剣が握られている。高速で移動する俺に対応できず、斧を振り上げた2人の騎士が鎧ごと真っ二つになって血を噴き出し倒れる。


「タティナ!」


 すれ違い後方に残る敵のふたりは、タティナの両手の魔法剣で斧が折られ、鋼鉄の鎧を斬り裂かれて地面にうずくまる。高速ですれ違う一瞬の出来事である。

 その俊足の攻撃に驚き、呆気にとられた騎士が振り向いた瞬間、カリンの巨大岩石に潰された。


 後ろの3人と合流し中央部隊を走り抜け、やっと戦場の端まで来ることができた。俺は手持ちの爆弾全てを後方に向かって放り込む。


 本来ここは左翼の獣人部隊がいる場所だが、その獣人達は左手を上げ合図を送りながら前進を続けている。武器を持たない左手を上げる合図は、事前に獣人達と打ち合わせたもの。

 何度も斥候としてイザール市に来た獣人達と示し合わせて、全ての部族が帝国を裏切ったのだ。

 この部隊に配属されているリザードマンは1割ほど。指揮官や各隊の隊長だろう、騎乗している者もいる。


「こいつらは、俺達に任せろ!」


 人族の陣に向かって走り続ける獣人達を後押しするように叫ぶ。

 背の高いリザードマンの頭をめがけて、カリンが高速の岩魔法をぶつける。俺とタティナが剣を手に、リザードマンを斬り伏せていく。


「さあ、あなた達は早く人族の部隊まで走るのよ」


 ハルミナが獣人族の部隊を、援護し誘導する。獣人に攻撃するリザードマンに抵抗し乱戦の様相を呈しているが、ここにいる獣人は冒険者が多い。多少持ちこたえれば、俺とタティナが駆けつけ帝国兵を倒すことができる。


 獣人達は前進してきた戦車部隊とすれ違い、後方へと身を隠すように移動すると同時に、帝国軍に対して魔法攻撃を開始する。これで形勢は逆転した。


「よし、俺達も合流して攻撃するぞ」


 左翼の裏切りで抜けた側面から、敵中央部を殲滅していく。俺達の奇襲で陣形が崩れ、前方と側面からの攻撃で帝国軍は瓦解する。

 その勢いで戦車部隊は前進し、後方の司令部へと向かっていった。


 退路を断つため帝国の後方に浅い沼を作り、後退を遅らせた。今後の事を考えれば、ここでできるだけ兵力を削いでおくことが肝心だ。

 悪路であっても戦車なら進める。総崩れとなり指揮系統もなくなった帝国兵が次々に殲滅されていく。


 人族の国、首都目前の本土決戦は人族の勝利で終わった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ