表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/352

第151話 首都決戦前夜

「カリン。ユヅキを船に置いて来て良かったのか」

「ええ、私がいなくてもアイシャの子供達にはユヅキは必要だわ。ちゃんと帰してあげないと」


 そうよ、ユヅキだけでも村に……。


「カリン、あなた死ぬ気じゃないでしょうね。わたしはエルフの里にちゃんと帰るのよ。今はあの子達が心配でちょっと見に来ただけなんだからね」

「分かっているわよ、ハルミナが帰る道は私が作るわ。さあ、戦場に向かうわよ」

「おい、カリン。そっちは北だ。戦場はこっちだぞ」


 へっ、そうなの? まあ、いいわ。軍議に出ていたタティナなら、戦場となる場所をよく知っているはず。タティナについて行けば間違いないわね。


「戦場は首都の北側、大きく広がる平原だ」


 タティナによると、人数の多い帝国軍はその平原に陣を敷くと予想されているそうね。その対面、左右を森と岩場に囲まれた狭い場所に人族が陣を敷くのだと言う。

 馬を走らせその場所に行くと、既に人族の戦車部隊が3列横隊の隊形で並んでいた。草むらに隠れながら様子を覗うと、人族から一番遠い場所に帝国軍の部隊も集結しつつある。


「タティナ、このまま人族と合流した方がいいかしら」

「あたい達が単に軍に加わっただけでは、人族の不利は覆せないだろうな」


 ユヅキもそんな事言ってたわね。起死回生の一手が無いと勝利は難しいと。


「ねえ、ねえ。それじゃあ、別の場所から意表を突いた攻撃をすればいいんじゃないの」

「そうね。ハルミナの言うように、もう少し帝国軍に近づいて大魔法を撃ち込みましょう。今ならまだ兵隊も集まっていないわ」

「おい、おい。そんなことしたら、帝国軍が攻め込んで来るぞ。今いるあの大兵力をアタイ達だけで倒せないぞ」

「じゃあ、どうするのよ。兵が集まる前に数を減らした方がいいじゃん」


 私が大魔術を連発すれば、千や2千の兵隊ぐらい倒せるんじゃないの。そう言うとまたタティナが反対してきた。


「敵も魔法防御はしているからな。単純な魔法戦では勝てないぞ」

「そうよ。カリンはどうしていつも、そんな力押しの事しか言えないのかしら」

「じゃあハルミナならどうするのよ」

「そ、そうね。前と後ろから挟み撃ちにするとか?」

「どうやって敵の後ろまで行くのよ。それこそ死んじゃうわよ」


 そんな言い合いをしていたら、後ろの藪がガサガサと音を立てる。誰!! 帝国兵!?


「カリン、お前は相変わらず無茶な事ばかりするな」

「ユヅキ! 来てくれたの~」


 やっぱり私が心配でここまで……じゃないわ!


「あなたは村に帰らないとダメなのよ」

「俺は必ず帰るさ。カリン、それはお前と一緒じゃないとダメなんだよ」

「ユヅキ……」


 うんうん、やっぱりユヅキは私を愛しているのね。仕方ないわね、ユヅキは私がいないとすぐ寂しがるし、一緒に居てあげるわ。


「ここにいたら、帝国兵に見つかる。この先の森の中に身を潜めるぞ」


 もう辺りは暗くなってきている。今日、戦闘が始まる事はないわね。馬を連れてユヅキの言う森の方へと向かう。


「タティナ、ここで野営をしてくれ。帝国軍に見つからないように注意してくれよ」

「ユヅキはどうするんだ」

「俺は今から人族の陣へ向かい、軍司令部と相談してくる。馬に鳴かれたら見つかる可能性があるから連れていくぞ」


 そう言って、ユヅキは私達の馬を連れて人族がいる方へと向かった。


「やっぱり、ユヅキさんって頼りになりますよね」

「そうでしょう、私の旦那様ですもの。それよりタティナ、帝国兵ってそんなに強いの」

「王国は魔術師が主力だが、帝国は前衛の剣士や騎士、それと騎馬が優れているな」


 そう言えば武闘大会で戦ったリザードマンは、皆剣士だったわ。接近戦は注意しないとダメってことね。


「それに狡猾だ。サルガス港の戦いでは人族を罠にはめて全滅させている」

「あの戦車を使ってもダメってこと!」

「いや、そうでもないさ。だからユヅキが連携をとるため打ち合わせに行ったんだ。地の利はこちらにあるからな」


 そう言えばそうね。この国には魔獣がいないのに、平原の向こうにある帝国軍の陣は煌々と焚火を焚いているわ。敵の位置や数が分かり易くて助かるわね。

 しばらくすると人族の居る南の方から、魔法の光が微かに点滅した。


「あれは、ユヅキだわ。こっちからも合図するわね」


 小さな光を手に灯して左右に振る。しばらくするとユヅキが徒歩で私達の所にやって来て、私とハルミナに水の爆弾を作るように言っている。明日以降の戦いに今から備えておくのね。


「は~い、わたし水の爆弾作るの得意よ」

「魔力回復できる程度でいいからな。カリンも頼むよ」

「任せなさい」


 私だってひとりで爆弾を作れるようになっているんだからね。


「カリン、お前毛布も持たずに船から飛び出しただろう。ほれ、借りてきた毛布だ。夜は冷えるからな、暖かくしていろよ」


 う~ん、ユヅキは優しいわね。他のみんなにも毛布を配る。私は爆弾を作った後、ユヅキの傍でゆっくりと眠った。


 夜が明け、帝国軍は徐々に数を増やしているようね。


「カリン。多分だが、朝のうちに帝国兵が偵察のためこの森にやって来る」


 私達のいる場所は、戦場になる平原の横の森。ユヅキが言うには、帝国軍も側面からの攻撃に注意を払い、この森の偵察をするだろうと言っている。


「でも、ユヅキ。木の陰ぐらいしか隠れる所が無いわよ」

「帝国軍が探しているのは、戦いに影響のある戦車や大きな部隊だ。4人しかいない俺達が見つかる事はまずない」


 なるほど。周囲を警戒して、木陰に隠れていればやり過ごせると言う事ね。すると馬に乗った帝国兵士5人が近くを走り抜けていった。バカな奴らだわ、魔獣にも警戒しながら走っている。これなら私達が見つかる事はないわね。


「ユヅキ、何を作っている?」

「タティナ、これか? 俺達が敵陣に突撃するための木の車だ」


 何やら木の枝を切っていると思ったら、私達が攻撃する時に使う道具を作っているようね。

 戦闘が始まれば、私達は敵の側面から陣の中央へと突撃して攻撃する。もちろん風の靴を使って高速移動するんだけど、4人がまとまって走れるような車を作っているようね。


 車と言っても、中央の縦棒に2本の横棒を取り付けて座るだけの簡単な物。側面は弓矢避けの木の盾を取り付けているから、見た目車と言えなくもないけど。


「面白いわね。それを使って敵のど真ん中に殴り込みに行くのね」

「そんなことして大丈夫なんですか。わたしまだ死にたくないですよ~」


 ハルミナは弱気になっているけど、私とユヅキが居るのよ。あんな帝国兵に負ける訳ないわよ。

 昼間の敵陣の様子を見たけど、今日のところは攻め込んでくる気配はないわね。さて私は水の爆弾でも作ってユヅキを助けてあげましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ