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第144話 試験飛行

 グライダーは無事浮かび上がってくれた。

 カリン達もすごく驚いていたが、まだ浮かんだだけだ。もう少し高く飛んで旋回もしてみたい。


 2回目、10m上空まで飛んで左右に旋回して、再び滑走路に降りることができた。多分メイの設計だろうが、すごく安定して飛ぶことができるし旋回もスムーズだ。


「すごいわね。あんな大きな物をユヅキが動かして飛んでいるなんて、信じられないわ」


 俺が左右に旋回させる姿を見て、カリンもこれが空を飛ぶための道具だと認識したようだ。

 まだ操縦席の風防も火魔法ジェットも取り付けていないから、スピードを上げて高く飛ぶことはできないが、試験飛行は成功だな。


「ユヅキ、私もこの魔道具に乗りたい」

「これはふたり乗りだからな、カリンも一緒に乗れるぞ。少し休憩して昼から一緒に乗ってみような」


 ふたりで乗ってどれぐらい飛べるのかも試しておかないとな。


「タティナとハルミナも乗ってみるか」

「いや、あたいはあんなに高く飛ぶのは怖いな」

「私も怖いです。もし飛んでいてドラゴンさんに出会ってしまったら、食べられちゃいますよ」


 ハルミナは怖いドラゴンの話を信じているようだ。キイエを見ているとドラゴンもそんなに恐くないと思うんだがな。


「それじゃ、人の背丈ほどまで浮かび上がって降りてくるのはどうだ。飛ぶのは気持ちがいいぞ」

「そうですね。それぐらいならいいかも知れませんね」


 休憩後、カリンを後ろに乗せてグライダーを飛ばしてみよう。2頭の馬で強めに引っ張ってもらい離陸する。


「どうだった、カリン」

「うん、すごいわ。ドラゴンみたいに空を飛べるなんて! ユヅキ。すごい、すごい」


 初めての体験で興奮しているが、カリンはあまり空が怖くないようだな。その後タティナとハルミナにも乗ってもらって、2m程の高さを飛んですぐに着陸する。


「やはり地面に足を付けず、何もない空を飛ぶのは怖いな」

「でもスーッと移動するのは、風の靴と同じ感覚でしたね」


 それぞれ感想は違うが、満更でもないようだ。今日はみんなに乗ってもらえて良かったよ。さて、もう暗くなりかけている。グライダーを分解して、宿泊施設まで運ぶか。



 翌日。兵器倉庫を管理しているソウマに報告に行く。部品やワイヤーも手配してもらったし、飛べた事だけでも報告しよう。

 すると、実際どんなものか見てみたいというので、午後からのふたり乗りの試験飛行を見てもらう事にした。


「ユヅキさん、こんな大きな物が本当に飛ぶんですか」


 滑走路に組み立てたグライダーに驚いているソウマの隣には、知らない顔の軍人さんも見に来ていた。


「まあ、見ていてくれ」


 今日は馬を全力で走らせてもらい、できるだけスピードを上げてから離陸する。するとグライダーは一気に15m程の上空まで飛んだ。

 フックを外して右に大きく旋回して、V字になっているもう一本の滑走路へと着陸して戻ってくる。

 試験飛行を見ていた、ソウマは唖然としていた。


「何なんですかいったい。ユヅキさんはドラゴンを復活させたんですか!」


 ドラゴンではなく空飛ぶ機械なんだがな。


「あんな金属の塊から、こんな空飛ぶ機械ができるなんてすごい事ですよ」

「あの骨組みを全て残してくれていた、あんた達のお陰だよ。ありがとう」

「今まで兵器倉庫を守ってきた甲斐があります。こちらこそありがとうございます、ユヅキさん」


 ソウマは長年、軍の役にも立たない古い鉄くずばかりの倉庫を管理してきた。その苦労が報われたと、涙を流して喜ぶ。

 だがもうひとりの軍人さんはグライダーの機体を入念に調べて、もっと高く飛べるのかとか、最大飛行距離はどの程度なのかと聞いてきた。


「今、その性能を確かめている最中だ。風防も付けてないのでスピードも出せないが、人族が使うなら今飛んだ4、5倍程度だな」


 まだ機体が未完成で最高性能は分からない。火魔法ジェットを付ける予定だが、魔法が使えない人族が乗るのなら、長距離を継続しての飛行は無理だ。


「引き続き機体の製作や試験飛行をしてもらいたい。完成して兵器として認められたら軍に引き渡してもらう事になるが、それでよろしいか」


 なるほど。グライダーの兵器としての価値を見極めるため、この人はここに来たんだな。


「それはもちろんだ。元々軍の兵器倉庫にあった物を使っているからな」

「それとこの機体を量産することは可能か?」


 まあ、兵器として使いたいならそうなるだろう。


「グライダーの骨組みは軽い木などで作る事ができるだろうが、この表面に貼っている膜は海の魔物の皮膜を使っている。今の人族の技術では、これと同じような物が作れないそうだ。量産は無理だな」


 前に倉庫で聞いた話では、表面を覆っている薄い膜を作ることはできないと言っていた。実物を見たソウマさんに確認したようだが、やはり無理なようだ。


「なるほど、魔物の皮膜か。切れ端でもいいので持ち帰りたいのだが」

「それなら、補修用の物を倉庫に残してある。少しだけ切って、後で渡そう」

「ありがとう、協力に感謝する」


 そう言って、ソウマとその軍人は帰って行った。

 時間をかけて研究すればバイオ技術でこの皮膜を作り、グライダーを量産する事ができるかもしれないが、その技術は失われている。帝国との戦争開始までには難しいだろうな。

 まあ、戦争の事は軍人さんに任せておこう。


 これは兵器として復活させたが、空を飛んで楽しめるなら俺はその方がいい。

 翌日。グライダーに取り付ける火魔法ジェットとガラスの風防を作ってもらおうと、首都の工場に出向いた。

 教えてもらった軍事関連の工場に行ったが、どうも今は忙しいらしい。予備を含め火魔法ジェット4個だけなら作れるというので頼んでおいた。

 今は準戦時体制だからな、仕方ないか。


 その翌日、作ってもらった火魔法ジェットを工場に取りに行き、昼過ぎに宿泊施設に戻ったら、試験飛行を見ていた軍人さんが俺に会いに来ていた。


「ユヅキさん。一昨日見せてもらったグライダーは、兵器として不採用となりました」


 飛行距離や量産できない事がネックになったようだ。そういえば大戦でもこの機体は実戦で使われていなかった物だ。当然なのかもしれないな。


「ここまで作ったんだ、ちゃんと完成させたい。この後も引き続き作ってもいいか」

「ええ、結構です。最後はあの兵器倉庫に保管してもらいますが、それまではここに置いて自由にしてください」


 帝国兵の関係でまだこの国に留まらないといけないし、ここからは趣味として、このグライダーを完成させよう。なんだかその方が楽しそうだ。


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