第143話 新しい兵器
入り江近くのクラーケンは倒したが、ここから船を出し大陸に向かうのは帝国の状況次第だ。しばらくナミディアさんには、この入り江に待機し情報収集をしてもらう事にした。
「ナミディアさん、時々ここに来るようにするよ」
「はい、いつでも船を出せるようにしておきますね」
ナミディアさんと別れて宿泊施設に戻ったが、俺はこの国を出る前にやっておきたい事がある。兵器倉庫に行って、管理しているソウマを呼んでもらった。
「すまないが、倉庫から運んでほしい物があるんだ」
「兵器復活に関する事でしょうか」
「ああ、そうだ。もしかしたら俺の手で復活できるかもしれん」
それならと、ソウマは俺達の宿泊施設の倉庫までそれを運んでくれた。足りない材料なども首都の工場に手配してくれるそうだ。
「ユヅキ。何、それ?」
「面白い物ができるぞ、カリンも手伝ってくれな」
翌朝からみんなで倉庫に行って、これから作る物を見てもらう。
「ユヅキさん、これは魔物の骨ですか?」
「ハルミナ、これで空を飛ぶんだ」
そう、兵器庫にあったモーターグライダーの骨組みを、全てここに運んでもらった。これで飛行機を復活させたい。
「ええっ~! これドラゴンの骨なんですか。ドラゴンって絵本でしか見たことないです」
「それにしても大きいわね。キイエの親かしら」
「ユヅキ、こんな骨からドラゴンが復活できるのか」
「いやいや、ドラゴンじゃなくて飛行機。え~と、空飛ぶ魔道具だ」
「空飛ぶ魔道具!?」
この骨組みに、クラーケンの薄皮を貼り付けて翼を作る。胴体も補強してこの皮膜を貼って組み上げれば、飛行機ができるはずだ。
実はシャウラ村で既に飛行機を作り上げている。カリンのエアバイクを改造した時に、調子に乗って翼をつけて飛べないか実験をした事がある。
木の骨組みにオオトカゲの皮を乾燥させたものを貼り付け翼を作り、エアバイクに取り付けた。巨大魔石を使った火魔法ジェットで走らせると浮かび上がる事ができた。
危険だし失敗して落ちてバイクを壊したら、カリンに何を言われるか分からない。こっそりひとりで実験したが、ちゃんと浮かんで旋回もできた。
今回は金属製の翼の骨組みをそのまま使える。クラーケンの薄皮もいっぱいある。
翼にはラダーやエルロン、フラップも付いているし、ちゃんとした設計ができた物だろう。
「じゃあ、このバラバラの骨組みを組み立ててみよう。タティナそっちを持ってくれるか」
主翼は4つほどに分かれていて、根元から順番に組み立てていく。
工場から送ってもらった細い鉄のワイヤーを通して、フラップに取り付けてみるとちゃんと動いてくれる。骨組みにはワイヤーを通す穴もあり、大戦時に研究され実際に飛んでいた物なのだろう。
「この皮膜をこの骨組みに貼り付けてくれないか」
俺が見本を見せクラーケンの乳白色の薄皮をピンと張り、樹脂の接着剤で主翼の骨組みに貼り付けていく。片翼だけで7m程あるが、これなら軽くて丈夫な翼ができそうだ。
「よし、よし、翼は任せたぞ。俺達はこっちの胴体部分を組み立てようか。ハルミナ手伝ってくれ」
「は~い。この丸まった板をつなぐんですね」
胴体の外装部分は丸く覆われた、薄いアルミ合金の部品に別れている。それを接続していくと、細身の美しい曲線の機体本体部分が出来上がる。
このグライダーはふたり乗りのようだ。前後に椅子らしき物がある。機体の下部には3ヶ所車輪があったようだが、車輪自体は無く後で作らんとダメだな。
後部には、今薄皮を貼っているT字型の尾翼を取り付けるようになっている。先端にはプロペラを付けて、動力は電気モーターで回していたようだ。
大戦当時の蒸気機関では重くて飛べない。強力な内燃機関のプロペラエンジンも作れなくてこのような形になったんだな。
しかし高性能なバッテリーが無ければ、長時間飛ぶことはできない。多分それで実戦投入を断念したのだろう。
今回は火魔法ジェットを胴体の後部に取り付けて推進力にするつもりだ。滑空性能のいいグライダーだ、小さなジェットをつけるだけでも飛行を続けることができるだろう。一部の部品はまだだが、2日をかけて試験飛行できる程度まで仕上がった。
「うわ~、なんだか大っきな空飛ぶ魔道具ね」
胴体に左右の翼をつけると15mを優に超える。モーターグライダーなので滑空するだけのグライダーより小さめではあるがやはりでかいな。
クラーケンの薄皮は乳白色だが、それを貼り付けた翼や機体は遠目に見ると、白く輝くように美しい。
「こんなのが空を飛ぶんですか。これで飛んだりしたらドラゴンさんに怒られませんかね~」
ハルミナが心配になるのも頷けるな。この世界で飛行機などというものは想像の範囲外だろう。
このグライダーが実際に戦争に使われるかは分からない。だが準備しておくことは大事なことだ。兵器倉庫に眠らせておくのはもったいない。
いよいよ、試験飛行を行なう日。
湖の近くにある滑走路まで、分解したグライダーを馬車に乗せて運ぶ。俺とハルミナ、タティナでグライダーを組み立てている間に、カリンには2頭の馬を用意してもらう。
グライダーを飛ばすには、首都の工場にあった強力な電動ウインチで引っ張ればいいんだが、滑走路には電源もないし馬で充分だ。
カリンには、兵器倉庫のソウマに手配してもらった長いワイヤーを馬につないで、グライダーまで伸ばしてもらった。
さてこちらも組み立てができた。ワイヤーをグライダーのフックに引っ掛けたら準備完了だ。
「最初はゆっくりで、徐々にスピードを上げてくれ」
俺は操縦席に乗り込み、馬に乗るカリンとタティナに声を掛ける。操縦席には風防もなく椅子と操縦桿だけだが、試験飛行だけなら充分だ。
カリン達は後ろの俺の様子を見ながら馬を走らせる。スピードが乗るとグライダーは少し浮き上がり、操縦桿を引くと地面を離れてゆっくりと上昇する。
フックレバーを引いてワイヤーを切り離すと、地上から5m浮かび上がって15秒程飛行して地面に降りた。
「すごいわね。本当に飛んだわ」
「あたい達の頭より高い所を飛んでいたな。あんな大きな物が飛ぶなんてな」
「すごいです。すごいです」
ハルミナは手を叩き飛び跳ねる。このような物体が飛ぶのを見るのは、みんな初めてだろう。よし、1回目の試験飛行は上々だ。




