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第141話 戦争準備 帝国

「人族の国に対する戦争準備は相当進んでいるようですね」


 機密である戦争に関する詳細は、第1皇女である(わたくし)にも知らされていない。だけど優秀な側近達によって、それらの情報は集められ意見交換し派閥内で共有される。


「各港では兵を送り出すための船の建造がほぼ終わり、物資の積み込みを順次行なっています」

「私達が備蓄した食料も供出しているようですが、次の収穫期までの分は確保できているのですか」


 国内の食糧計画は私が受け持っていますが、一昨年に続き去年も凶作となり食糧はひっ迫している。


「共和国からの輸入分で何とか賄う予定ですが、必要量はまだ確保できておりません」

「臣民を飢えさせるわけにはいきません。輸入量を増やしなさい」

「ですが帝国貨幣の価値が下がる一方となっております。我らの資金では、これが限界かと……」


 共和国の為替操作に対して、対抗処置を取っているけど効果は無いようね。このままでは備蓄が持つかどうか。このような時に、戦争などという火遊びをしている場合ではないというのに……。

 ですが今回の人族の国への侵攻は、皇帝であるお父様が決めたこと。逆らえる者はひとりもいないでしょう。私も思っていることを口に出せば粛清が待っている。


「どれだけの兵を送り出したのですか。いずれこちらからも補給物資を送らないとダメなのでしょう」

「既に南部地方に2500の兵が派遣されています。現地での徴兵が800人。帝都からの出兵が陸路3200、船で1500の兵を送るそうです」

「帝都より南の地方の正教会の軍が、途中で合流します。数は2000程と聞いております」


 総勢1万にも及ぶ兵ですか……あの人族と戦うのですから、その程度は必要かもしれませんね。短期決戦で1ヶ月すれば決着がつくと言ってはいますが、相当量の物資が必要になってくるわね。


「既に南部地方の町は全て制圧し、食料や労働力の供出をしているそうです。当分はそちらで賄えるかと」


 その為に少数民族は殺さずに働かせているそうですが、反発されるのは目に見えているわね。昔から問題の多い土地ではあったけど、もっと穏便に協力を仰ぐことはできなかったのでしょうか。


 船の建造を隠すため港を閉鎖したりと、少々強引な手法を取り続けている。人族に勝つ目算があっての事だろうけど危うく見えるのは、詳細があまり伝わってこないせいでしょうか。


「今回の侵攻で、人族の土地を手に入れられるという事ですが、穀倉地帯もあるのでしょうね」


 昔、おじい様に連れられて人族の国へ1度だけ行ったことがある。何かの式典に招待されて行った港は広かったけど、その先は何も使われていない土地があっただけ。ただ広いだけの寂しい場所だったと記憶している。


「穀倉地帯は内陸の遥か先にあります。金や銀の鉱物資源も豊かな夢の島であると、情報部の役人が言っておりました」

「今回、戦場になるのはサルガス港と対岸にある人族の港だけ。穀倉地帯まで荒らすことは無いと思われます」

「その人族の港に4千もの兵を一度に送るという事ですか」


 大陸と人族の国との間には海峡があり、おいそれと大兵力を送る事はできないと聞いていましたが。


「はい、トゥルヌス第2皇子の立てられた策であると伺っております」

「あの海峡を、その数で渡る事は可能なのですか」

「計算上、可能であると聞いております」


 その為に多数の船を建造したのでしょうけど、それで決着がついてくれることを祈るしかないわね。


 今回の出兵で南部地方の物資は底を突くでしょう。南部の民族問題も解決すると言っていたから、戦争が終われば南部地方の住民は切り捨てるつもりですね。人もいなくなり今年の収穫は見込めなくなるでしょう。

 戦争終結後は、占領した人族の国からの物資供給に頼る事になりそうだわ。


「北部の様子はどうなっているのですか」

「どうも、ダークエルフが完全に共和国側についたようです。現在エイドリアン第1皇子が対応されております」

「共和国は何と?」

「ダークエルフ族を受け入れたと。ダークエルフ族に対する攻撃は、共和国に対する攻撃だと言っておるそうです」


 外交部はいったい何をしていたのでしょう。このような事態にならないように、上手く交渉をしてくれないことには……。


「それにしても、ダークエルフ族の対応は早いですね」

「帝国内に散らばっていた、傭兵を全て引き上げたそうです。あの者達の団結力は強く、敵に回すと厄介な存在です」


 だからこそ、(いにしえ)よりの盟約があるのです。その歴史を知らぬ、他種族を排除せよという近年の風潮。それを正教会が後押ししている。


「今、共和国が動くという情報はあるのですか」

「いえ、本格的に動く気配はありません。我らは貿易相手国ですし、それほど強い態度は示さないと思われます」


 ここで共和国が動けば、我らは北と南の二正面作戦を行なうことになってしまう。その危険性はお兄様方も分かっていると思うのですが。


「帝国の北端と南端、それぞれに兵を送る事はできるのですか」

「まだまだ兵には余裕があります。国境で共和国軍を抑える事は充分可能です」


 確かに帝都近郊には、充分な兵力が残されている。それを活用すれば北の国境付近は耐えることが可能でしょう。


「皇女殿下、まだ共和国には人族との戦争の事は伝わっておりません。国境での情報統制は完璧です。人族との戦争に乗じようとしても、今から準備しているようでは間に合わないでしょう」

「そうですね。後はエイドリアンお兄様に期待しましょう」


 我が帝国の兵力は北の強国である王国と同じか、我らの方が上。共和国ごときが国境を越えられるとは思えませんが、注意するに越したことはないでしょう。

 なんにしても、早く人族との戦争が終わってほしいものですわね。


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