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第140話 戦争準備 人族

 翌日の朝。首相公邸に来てくれと、連絡が入った。朝食を終えた頃に迎えの馬車が来て、それに乗り込み首相の元に赴く。公邸では首相とケンヤが俺を待っていた。


「ユヅキ君、イザールの市長を説得してくれたそうだね」

「話はしたが、結果がどうなったか聞いていないんだがな」


 首相の横に控えていたケンヤが書類を見ながら話す。


「ツバキ市長は戦争が起こった際には、住民を首都に避難させると言ってきました。ただし戦闘には参加しないようですね」

「我々の政策に反対しているとはいえ、イザール市民も国民だからな。避難もさせないとなると私の沽券に関わる。ユヅキ君、ご苦労だったな」


 首相は国民の批判に晒されないように、市民を避難させるように頼んできたのか。政治的な事に利用されるのは、あまりいい気分ではないな。


「君達もこの国を出ると聞いている。帝国との争いは我ら人族が積み重ねてきた歴史の結果だ。確かにユヅキ君には関係ない事だ」


 イザール市長が首相に話を通してくれたようだな。

 俺は人族の歴史の外の人間だ。戦争に参加する必要はないと、首相は言っているのだろう。


「君はご家族とこの地を離れてもらって結構だ。そのための便宜は図ろう。段取りはケンヤにやってもらう」

「西の入り江に船を用意して、海洋族の者に送ってもらうようにします。それまでの間は宿泊施設を使ってもらって結構です」

「帝国軍の動きがどうなっているか教えてくれないか。国を出るにしても様子が分からないと動けないからな」


 船があるからと言って、のこのこ大陸に渡れば捕まるだけだ。


「今のところ対岸のサルガス港に集結したままですね。実際の戦争はもう少し先になるでしょう。こちらから打って出ることを検討してる最中ですよ」

「それは危険じゃないか。先日イザール市で戦車を見せてもらったが、あれでは力不足だ。今改良を検討しているはずだ。こちらの戦車も改良を待てないか」


 俺の言葉に首相が言い放つ。


「軍事面に関しては、一民間人である君に意見される筋合いはない。初代に並ぶ者であろうともだ。後の事はこちらに任せてもらおう」


 忠告を聞き入れられない程、既に戦争準備は進んでいるようだな。

 確かに人の命に係わる軍事面の決断に、口を挟むのは控えた方がいいかもしれないな。俺は俺のできる事、家族を守る事を一番に考えて行動すればいいか。



 宿泊施設に戻り、今後の事をカリン達に相談する。


「カリン、この国はまもなく帝国と戦争をするようだ」

「敵はどれくらいかしら」

「ユヅキ、どこを戦場に選ぶか決めないとな。相手は帝国軍だ、数千の兵が来るぞ」

「あの、わたしもお役に立てますかね」

「いや、いや、あの帝国との戦争だぞ。俺達はここから脱出するんだよ」


 なんでみんな戦う気満々なんだよ。


「え~、逃げ出しちゃうの。ここユヅキの国だよね」


 まあ、人族の国なのだが俺とは直接関係ない。だから首相も俺達が脱出することに配慮してくれたんだ。


「協力できるところは協力するが、お前達の安全が第一だ。俺はここが戦場になる前に脱出することを優先するぞ」


 俺を含め戦争に巻き込まれないようにしないと、残してきたアイシャ達を悲しませる事になってしまう。

 それに俺は村に帰ったら、チセと結婚するんだからな。おっと、しまった。これは死亡フラグだったか。


「それとな、明日から首都に遊びに行っちゃだめだそうだ」

「えぇ~、何で」

「明日からは準戦時体制に入るそうだ。食料品などの商店とかは開いてるが、戦争に関係ないお店は閉めると言っている」


 聞くところによると、工場も民生品の製造を停止して、戦車や砲弾などの軍需品の製造に振り替えるらしい。


「そうなんだ。じゃあ、この前行ったイザールの町は?」

「あ~、あそこはどうだろうな。別に行ってもいいが町の人は避難してるかもしれないな。まあ、市長さん達は残っているとは思うが」

「じゃあ、ここにずっといないとダメなの。つまんないのね」


 つまんないと言われてもなあ。直接関係ない俺達以外は忙しくしているはずだし、邪魔してもいけないからな。

 俺達も脱出の準備を進めんと。だんだん、戦争の足音が近づいて来ている。


 ◇

 ◇


「戦車はどの程度用意できているのかね」


 政府官邸の閣議室。ここに軍部首脳と政府関係者一同を集めて、今回の戦争について閣僚会議を行なう。私は冒頭から現在の準備状況を尋ねた。


「首相、現在670輌が稼働可能です。工場にて引き続き増産しております」

「帝国は本気でこの地に攻めてくるようだ。対岸の港付近に約3000の兵、帝都からも予想以上の約3000の増援部隊が出兵したようだ。合流する前に大陸に攻め込みたい」


 事務次官の方から、防衛大臣の考え方が示される。私を含めこちらはいわゆる背広組と言われる文官達。

 それに対して陸軍や海軍の幕僚長達、いわゆる制服組と言われる武官達も意見する。


「そのためには地上部隊を首都防衛部隊と大陸侵攻部隊に分ける必要がある」

「約半数の戦車を大陸に送るとして、我が海軍の舟艇が大量に必要になってくる。そう簡単な事ではありませんな」


 首相である私と防衛大臣の方針に従って、実際に作戦可能か検討を進める。大筋の作戦案はできている。部隊編成、物資の状況により詰めの作戦を立ててもらわねばならん。


「幕僚長、戦車などの陸戦部隊をそろえることはできましたが、輸送する船舶の建造が間に合わない状態です」

「今、何艇の輸送船がある」

「総数で31艇、戦車240輌余りの輸送が可能です」

「少し足らんか」


 計画では首都防衛に1000人、港防衛に400人、大陸侵攻に600人を予定している。大陸侵攻に300輌の戦車に分乗して攻め込む計画だ。


 戦車の戦力は1輌に対して歩兵10から12と見積もられている。増援が来る前の帝国軍の兵士3000人なら、こちらの兵力の方が上となる。戦艦からの支援もある、戦車300輌を送り出せさえすれば、今回の奇襲は成功する。


「2回に分けて上陸できないのか」

「夜間は無理だ。海峡を渡れるのは、無理をして日中の3回。2分割すれば半日の時間差ができてしまう。作戦上不利だ」

「だがこちらの準備に時間がかかれば、帝国の戦闘準備も整う。早急に作戦実行してもらいたい」

「エンジンの無い簡易輸送艇を他の輸送船に引いてもらう事は可能かと」


 戦車を乗せるだけの簡単な船なら、造船は早く済むと海軍工廠は言う。


「しかし、それでは海峡通過時に転覆や陸から狙われる可能性があるのではないか」

「多少の犠牲は仕方ないかと思われます」


 大量の兵力を一度に送るか、安全に2回に分けるか、どちらにしても犠牲者は出る。完全に準備ができるまで待つリスク、輸送・戦闘など全てのリスクを検討し最善策を練らなければならない。


「帝国の主力が帝都を出たと報告が入っている。帝国が攻め込んでくるとしたら後4週間といったところだ。その前に何とかしてもらいたい」


 こちらの兵の訓練は既に終わり、いつでも港に向け出兵は可能だ。装備を万全の状態に持っていければいいのだが。


「ところで、イザール市の戦力は当てにできるのか」

「イザール市長からは、本作戦には参加せず、市の防衛に専念する旨が伝えられています」


 100輌の戦車が増えれば1200人の兵に相当する。それを市の防衛だけに充てるのはもったいない。だがユヅキ氏に説得してもらってもこれ以上、譲歩しないだろう。


「首都防衛の兵士が足りないというのであれば、予備役兵の活用もお願いしたい」


 どちらにしても時間がない。相手はこちらに合わせてくれない。いかに素早く準備を進め、実行していくかがカギになりそうだ。


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